初めてのダンジョン
「えい! やあっ! とうっ!!」
スライムを一匹倒した私はいい気になって、足取りが一気に軽くなった。
出てくる魔物はほとんどがスライムで、たまに角ウサギが出てくる。が、どちらも一撃で倒すことができた。
私の後を歩くラウルが、「順調だな」と笑う。
「うん! あんなにビクビクしてたのが嘘みたい……あっ!!」
前方から、カシャカシャという音が聞こえてきた。骨がぶつかり合うようなこれは――スケルティの気配だ。
ゲームのモンスターでスケルトン系といえば、大抵は人間だ。動物のスケルトンのモンスターは珍しい。
……スケルティは初めてだから、ちょっとドキドキしちゃうね。
すぐに顔を出したのは、ウサギのスケルティだ。
「あ、角ウサギがいるからウサギのスケルティ……ってこと?」
「正解。スケルティは、ダンジョン内にいる魔物の骨から生まれるって言われてるからな。……まあ、魔物は倒すと消えるから骨があるかはわからないけど」
「確かに」
モンスターの出現や消滅に関しては、ゲームの部分だから考えても仕方がないかもしれない。私は苦笑しつつ頷いた。
地面を思いっきり蹴り上げて、一気にスケルティとの距離を詰める。すぐさま一撃を入れて――だけどまだ倒せてない。
……スライムと角ウサギとは桁違いの強さ!?
後ろにジャンプして距離を取り、いったん体勢を立て直す。もしかしたら、長期戦になるかもしれない……!
そんな嫌な予感を覚えながら、スケルティにもう一撃!
「今なら連撃もできるかも――って、倒してる!!」
スケルティは光の粒子になって消えて、ドロップアイテムの骨の欠片が残った。
「もうこの洞窟の一層はバッチリだな!」
『にゃあぁんっ!』
すかさずラウルとおはぎが褒めてくれた。
私はてっきり倒すのにもっとかかると思っていたので、ちょっと拍子抜けだ。
「ラウルがいろいろ教えてくれたからだよ! ありがとう!!」
「おう!」
ダンジョンに慣れる練習も兼ねているので、しばらく一層で魔物を倒したりしてから、私たちは探索を終えた。
「ん~~~~、ダンジョン攻略の後はやっぱり焚き火!」
ということで、私は洞窟ダンジョンの前で焚火をすることにした。
木の枝を拾う元気まではないので、以前拾っておいた木の枝――薪を使う。束にして麻縄で縛っているので、キャンプっぽい雰囲気が出ているところがお気に入り。
ナイフで木の枝を削ってフェザースティックを作り、積んだ薪に混ぜて火をつける。
「うんうん、いい感じ!」
焚き火を作るのもだいぶ慣れてきて、お手の物だ。
小さな火種がパチパチ音を立てて、次第に大きな火になっていく。その光景を見ているのは、なんだか楽しい。
「…………」
ついついぼおっと眺めていると、「ミザリー」と私を呼ぶラウルの声が耳に入った。
「夕飯ができたぞ」
「え!?」
見ると、ラウルの手にはお肉と野菜がたっぷり入ったスープとパン。おはぎ用に茹でた鶏肉も用意されている。
空はいつの間にか暗くなっていて、焚き火を少し眺めているだけのつもりが、かなりの時間が経っていたようだ。
「うわー、一瞬で時間がなくなった! 焚き火……!!」
「普通に疲れてたんだろ。ダンジョン初日なんだから、そんなもんだよ」
ラウルは疲れている私を気遣って夕飯の準備をしてくれたらしい。いい人すぎる。
「ほら、食べたら今日は早く寝た方がいいぞ?」
「ありがとう、ラウル。うん、実は結構眠たいかも……」
私はスープを受け取りつつ苦笑する。たぶんラウルが声をかけてくれなかったら、そのまま寝落ちしていたと思う。
スープに口をつけると、野菜の旨味がたっぷりで、とても美味しい。
「おはぎには鶏肉な」
『にゃううっ!』
おはぎもお腹が空いていたようで、すぐさま鶏肉に食いついた。にゃうにゃうと美味しそうに食べる姿は、ずっと見ていられる。
「ふふっ、美味しいねー。おはぎ」
『にゃぁっ!』
元気いっぱいの返事をもらい、私も美味しく夜ご飯をいただいた。
夜ご飯が終われば、あとはシャワーを浴びて寝るだけ……なんだけど、なんというか焚き火が恋しい。
「うう、焚き火をもっと見ていたい! でも眠い! ……いっそ焚き火の前で寝てみるっていうのはどうだろうか?」
いつもキャンピングカーの中で寝ていたので、外で寝たことはない。寝袋があればいける? あ、でも普通はテントを張って寝袋を使うのかな?
……うーん、そう考えると焚き火の前で寝るのは難しそうだ。そもそも、焚き火を放置して寝るっていうのもよくなさそうだ。
私がそんなことをあーだこーだ考えていると、ラウルが「早くシャワーを浴びてこい」と私を急かす。
「このまま寝られたら大変だからな。ちゃんと休まないと、マナだって回復しないぞ?」
「それは困る!!」
ラウルの言葉に、私は慌てて立ち上がる。
マナが尽きかけると気持ち悪くなったうえに、スキルを維持できなくてキャンピングカーが消える。最悪、死んでしまうこともあるそうだ。
回復、とっても大事!
「すぐにシャワーを浴びて寝ます!」
「おう」
私がしゃきっと行動を開始すると、ラウルは焚き火の後始末を始めた。
「ちゃんと休むんだぞ?」
「うん。おはぎ、一緒に行こう」
『にゃあ』
片付けもラウルが任せろと言ってくれたので、私はおはぎと一緒に先に休ませてもらった。




