いざ、スライム!
スライムと戦うために持った月桂樹の短剣は、ずしりとした重みがあった。腰に下げているときとは、重みが違う。
「すーはー、すーはー」
私は何度か深呼吸を繰り返して、気持ちを落ち着かせる。
きっとラウルからしてみれば、たかがスライムだろう。しかし私からしてみれば、初めて戦う魔物スライム様なのだ……!!
「スライムは弱いから、大丈夫だって。肩の力を抜いて……適当に短剣を振り回すだけでも倒せると思うけど、そうだな……ミザリーの場合は、斬る動作よりも突く動作の方がいいかもしれない」
「突く……」
確かに攻撃という面を考えたらその方がいいかもしれない。でも、斬るより突く方が精神的な難易度は高い気がするよ……!
しかしこれからダンジョンに行って戦おうとしているのに、そんな弱音を吐いてはいられない。
私は「よしっ!」と気合を入れる。
すると、タイミングよく草の陰からスライムが出てきた。
……もう少しゆっくりした登場でもよかったですよ。なんて、思わず考えてしまった。
『にゃっ、にゃー!』
「頑張れ、ミザリー!」
おはぎとラウルが応援してくれる。
私はその声に応えるために、ぐっと地面を蹴り上げスライムに向かって走る。初心者ゆえに、勢いが大事だと思ったからだ。
というか、勢いがないと無理!!
「やあっ!」
短剣を握った手をそのまま突き出すと、スライムの右側をすり抜けた。
――は、外した!!
「うわ、恥ずかしい……!」
「大丈夫だミザリー! 気にしないで当たるまで突け!」
『にゃっにゃっ!!』
「う、うん!」
そうだよね、初めてに失敗はつきものだもん!
私はもう一度、「やあっ!」とスライムに向けて短剣を突き出した。すると、今度は真ん中に命中!
「やった!」
よし、このまま二撃目を――そう思ったのに、スライムは光の粒子になって消えてしまった。
「えっ……」
あまりのあっけなさに私が驚くと、おはぎが『にゃ~っ!』と喜びの声をあげて私の肩に飛び乗ってきた。そのままほっぺたにすりすりしてくれる。
「ミザリー、バッチリ倒せたな! おめでとう!」
「うん、ありがとう! ……でも、もっと苦戦すると思ってたから驚いちゃった」
私が考えていた百倍、スライムは弱かった……!
そう思っていたら、ラウルが「あ~、それのおかげもあるな」と言って短剣を指さした。
「その短剣、そんじょそこらに売ってるやつより、よっぽどいいものだからな? 攻撃力が高いのは当たり前だし、耐久もかなりあるぞ」
「なるほど!」
私が持つ月桂樹の短剣は、リーフゴブリンという強敵のドロップアイテムだ。そんじょそこらの短剣とは、天と地ほどの差があるだろう。
ありがとう、短剣ちゃん……! あなたのおかげでスライムに勝てたよ!!
「大事に使わないとだね」
「ああ。あとで手入れの方法も教えてやるよ」
「ありがとう!」
ダンジョンへの挑戦にドキドキしていたけれど、思ったより早く行くことができるかも……と、私はちょっとワクワクが強くなった。




