VSリーフゴブリン二戦目
ラウルは開けた窓から剣を出し、体を使ってぐっと抑えている。さすがに手で持っただけでは、剣が吹っ飛んでしまうのだろう。
私はラウルに一つ頷いてから、ぐっとアクセルを踏んでキャンピングカーを走らせた。
まっすぐ前を見つめつつ、私は戦っているエルフの冒険者に向かって叫ぶ。
「攻撃するから、引いて!」
「――! わかった!!」
突っ込んでくるキャンピングカーを見て、エルフの冒険者が大きく後ろへ跳んだ。そのチャンスを逃さずに、私は限界までアクセルを踏み込む。
……っ、はやっ、こわっ!
だけどキャンピングカーは急には停まれない……っ!
ギュルルッとタイヤが音を立てるのを聞きながら、私はリーフゴブリンへ突撃して――ラウルの剣が嫌な音を立ててリーフゴブリンを真っ二つにした。
……え? 真っ二つ?
ぐっとブレーキを踏んで私は「はー……」と大きく息をはいた。
「うしっ! 倒せたぞ、ミザリー!」
「……うん」
ラウルは嬉しそうだけど、私の心臓はバクバクしているよ。若干ふらつきながらキャンピングカーを下りると、リーフゴブリンがいたところにはドロップアイテムが落ちていた。
……うん、無事に倒せたみたいだね。
私がほっとしていると、エルフの冒険者が「すごい!」と言いながら駆け寄ってきた。
「私もびっくりです。でも、無事に倒せてよかったです」
「正直、厳しいと思っていたから助かった。ありがとう、二人とも」
「こちらこそですよ」
エルフの冒険者と笑い合っていると、ラウルの「折れちまったな」という声が聞こえてきて、そちらを見ると……ヒューゴの剣がぽっきり折れてしまっていた。
「そういえば、あの三人はどこに……?」
剣を借りてそのまま放置していたことを思い出し、周囲を見回すと――いた! 数十メートル先にその姿を見つけたが、どうやらまだ逃げようとしているようだ。
「さすがに今回の件を見逃すわけにはいきませんからね。捕まえてきます」
「あ……」
私が何か言うよりも先に、エルフの冒険者が足に風魔法をかけて地面を蹴った。まるで飛ぶような速さで木々の中を駆け巡り、あっという間にヒューゴたちに追いついてしまった。
……すごっ!
「さすがBランク冒険者だな……」
「そうだねぇ。……とはいえ、この状況だから心強いね」
「ああ」
ラウルが頷いたのを見て、私たちもヒューゴの元へ行く。さてさて、彼らを血祭りにあげる時間ですよ?
私が黒い笑みを浮かべていたからなのか、ヒューゴたちが「ひぃぃっ」と声をあげた。
「くそっ! 縄を解けよ!! 俺たちはラウルを助けに来たんだ!!」
「そんなこと言われても信じられないわよ。その判断は、冒険者ギルドに任せましょう。……でも、あなたが望むなら別の方法で復讐をしてもいいわよ。私は目をつぶっているから」
「私も何も見えてないよ!」
ぎゃあぎゃあわめくヒューゴたちは、エルフの冒険者が縄でぐるぐる巻きにしてくれた。
本来ならば冒険者ギルドに突き出すべきなのだが、彼らがラウルにした仕打ちはあまりにも酷い。そのため私とエルフの冒険者は目をつぶることにした。物理的に。
「ナニモミエナイナー」
「ちょおおおぉぉっ」
「いやああぁぁ」
「やだあぁっ」
HAHAHA、叫び声が耳に心地よいわ!
なんて思っていたら、「俺は大丈夫だよ」というラウルの声が聞こえてきて目を開けてしまった。
「へ?」
「あなた、本気で言ってるの? 死にかけたんでしょう?」
私とエルフの冒険者は信じられないという顔でラウルを見た。
しかしラウルは苦笑して、「まあ、生きてるし」と甘いことを言ってのける。
……なんというか、優しい人だ。人間ができてると思う。
ラウルがこう言うならば、当事者でない私があまり口をはさむのもよくないだろう。できることといえば、彼らのことをギルドにしっかり伝えて罰を重くしてもらうことくらいだ。
このままめでたしめでたし、となると思っていたら……「ふざけるな!」とヒューゴが叫んだ。
「てめぇごときに許されるも何もねぇんだよ!! 元々、俺たちのパーティにお前はいらなかったんだ!!」
「ヒューゴ!?」
「今そんな話はいらないでしょう!?」
突然、喋り始めたヒューゴを見て、ビアンカとミアは顔が青くなっている。
「お前より俺の方が実力は上だ! 武器だって、お前が持つ剣より俺の方が数倍いいものだ! ビアンカとミアだって、俺に相応しい実力や装備を揃えてる!!」
「でも……ラウルが抜けてから、上手くいかなくなったじゃない!」
「そうよ。ご飯だって、不味い保存食ばっかりになったし……」
「「「…………」」」
ツッコミどころがあまりにも多くて、私は言葉を失った。
感想ありがとうございます~!w
次回は元パーティメンバーのお話です。




