まさかの二匹目
木々の向こうから見えた巨体は、確かにリーフゴブリンだった。
「うわわわ、どうしよう!?」
「すぐに逃げたいところだが……難しそうだな」
「私が……!」
策戦会議をする間もなく、エルフの冒険者が大きく地を蹴ってリーフゴブリンの元へ跳んだ。その手には、レイピアが握られている。
――戦う気だ!!
私にあるのはスキルキャンピングカーと、月桂樹の短剣。
……でも、短剣スキルなんてないから上手く扱えないよ……! かといって、キャンピングカーじゃエルフの冒険者のアシストすらできない。
ガキン! という音が響き、見るとリーフゴブリンを斬りつけているところだった。しかし皮膚が硬いからか、思うように攻撃ができていないみたいだ。
「どうしよう、ラウル。さっきみたいにキャンピングカーで体当たりする……!?」
「それができたらいいかもしれないけど、地形的に厳しいな」
「あ、崖がないから……」
エルフの冒険者が戦っている状況で、崖のところまで誘導するのは難しそうだ。
私が悩んでいると、「早く逃げなさい!」というエルフの冒険者の声が響いた。私たちが逃げるための時間を稼ぐつもりみたいだ。
その声を聞いたヒューゴたちは、そそくさと後ずさり始めた。どうやら遠慮せずに逃げるつもりみたいだ。
……ふぅん?
「キャンピングカー〈キャブコンバージョン〉召喚!!」
私が声高らかにスキルを使うと、今までよりも一回り以上大きなキャンピングカー――いわゆるキャブコンが現れた。一言でいうと、よく見る一般的な大きいキャンピングカーだ。
そう、レベルアップした結果、軽キャンパーではなくキャブコンを召喚することができるようになったのです。私のスキル、超進化してる。
私が召喚したキャンピングカーを見て、ラウルもアンネもあんぐりと口を開けて驚いている。
そうでしょう、私の新キャンピングカー、とってもいいでしょ!
ふふんとドヤりつつも、私はラウルとアンネ、それから猫たちに「乗って!」と声をかける。
「ミザリー、なんだこのキャンピングカー! さっきまでと全然違うんだが!?」
「レベルアップしたらこうなったの。これなら、リーフゴブリンをどうにかできるんじゃないかな」
「……! 確かにでかいし、力負けはしなさそうだけど――そうだ」
ラウルが何か閃いたようで、窓を開けてヒューゴの名前を呼んだ。
「ヒューゴ、剣を貸してくれ! 俺のなまくらじゃ、致命傷も与えられない」
「は……?」
逃げようとしていたヒューゴは一瞬足を止めるも、「冗談じゃない!」と声を荒らげた。どうやらこの状況下でも協力せず、逃げるつもりみたいだ。
……そんなこと、させないけどね。
私はアクセルを踏んで、キャンピングカーをヒューゴたちの横に付けた。
「ひいいいっ、なんだこの物体は! 速……っ!」
「いいから剣をかせ! 死にたいのか!!」
ラウルが声を荒らげると、ヒューゴと一緒にいた二人の女性――ビアンカとミアがヒューゴの服の袖を引っ張り「ヒューゴ……」と名前を呼んだ。
それを見たヒューゴは、チッと舌打ちをするもラウルに剣を渡してきた。
私はそれに対してイラッとしたのだけれど、ラウルはまったく気にすることなく「よし!」と声をあげて前を見る。
「ミザリー、このままリーフゴブリンの真横を突っ切れるか?」
「え?」
ラウルのとんでもない要求に、私は一気に冷や汗をかく。
「待って待って、どうするつもりなの」
「俺が窓から剣を出すから、キャンピングカーのスピードを乗せてやつを斬る!」
「ふぁ~~」
なんという物理的な作戦!!
だけど、確かにキャンピングカーのスピードを乗せれば……かなりの致命傷を与えられるはずだ。鉄の棒だって、時速百キロでツッコんできたら痛いどころではない。
「すーはー、すーはー……」
私はゆっくり深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。一歩間違えたら、大惨事ではないだろうか。
「よし、女は度胸だ! 行くよ!」
「おお!」
リーフゴブリン祭りですね……。
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