パーティメンバーの言い訳
――ラウルをおとりにして、リーフゴブリンから逃げたパーティメンバー……。
私は怒りのままアクセルを踏み込みたくなる衝動を耐えて、キャンピングカーを停めた。ハンドルを握る手が怒りで震えていて、私は自分で思っている以上に彼らに怒りを抱いていたみたいだ。
「ふううぅぅぅ」
「ミザリー、俺は大丈夫だから落ち着け……!」
「落ち着いていますが何か?」
私はいたって冷静だ。
キャンピングカーから下りて、私は三人の冒険者の方へ歩いていく。どうやら怪我をしているみたいだ。
すぐにラウルも追いかけてきて、相手のことを教えてくれた。
「前衛のヒューゴ、魔法使いのビアンカ、回復支援のミアだ」
「ほほう」
男一人、女二人のパーティのようだ。ラウル曰く、実力が低いわけではないのだが、どうにも自意識過剰なところはあるらしい。
近づくと、三人が私たちに気づいた。声をあげたのは、リーダーらしいヒューゴだ。
「――! ラウル、お前生きてたのか……!」
「ああ。お前が逃げるためにリーフゴブリンのおとりにされたが、どうにか生き延びたよ。お前たちこそ、なんでこんなところにいるんだ? リーフゴブリン討伐を受けたなんて……」
実力的に厳しいことがわかっているのに、なぜ? ラウルはそう言いたいのだろう。
ラウルからは先ほどまでの朗らかな雰囲気は消えていて、わずかにピリッとした厳しい空気になっている。
「いや、俺たちはお前のことが気がかりだったんだ! もしかしたら、まだ間に合うかもしれないと、そう思って! お前を助けに来たんだよ、ラウル!!」
「…………」
ヒューゴの言葉に、ラウルは蔑むような視線を向けるだけだ。
……助けに来たって言われても、ちゃっかりリーフゴブリンの討伐依頼を受けてるのに。信じられるわけがない。
本来なら、すぐにリーフゴブリンのことを冒険者ギルドに報告し、救援にくるべきだった。けれど、彼らはそれをしなかったのだ。
見え透いた、酷い嘘だ。
「――死んだ冒険者のギルドカードをギルドに提出すると、一定の金額が受け取れる。あなたたちがほしかったのは、彼のギルドカードだったんじゃない?」
声がして後ろを見ると、アンネとエルフの冒険者がキャンピングカーから下りてこちらにやってきた。
ヒューゴたちは彼女の顔を見ると、ひゅっと息を呑んで後ろに後ずさった。やましいことがありますと、言っているようなものだ。
……もしかしたら、彼女が死んだときも、冒険者カードを拝借しようとしていたのかもしれない。
「ち、違う! 俺たちは本当に――」
「だったら! どうして依頼を受けたときに仲間のことを言わなかったの? こっそり死体から冒険者カードを抜き取るつもりだったんでしょう」
「……っ!」
反論されたヒューゴは、ぐっと押し黙ってしまった。
「……最低」
私がぽつりとつぶやくと、ラウルが申し訳なさそうに苦笑した。
「まあ、いいさ。ここで縁が切れたことをよかったと思おう。ただし、今回のことは冒険者ギルドにも報告する。彼女の証言もあれば、十分信じてもらえるだろう」
「くそ! なんで生きてるんだ。絶対に助からないと思ったのに……」
「ラウル、ちょっとあいつ殴ってきていいかな?」
「私も殴りたいと思っていたところだ」
私とエルフの冒険者は相性がいいかもしれない。二人でにっこり笑ってヒューゴの元へ足を踏み出して――しかし『グルオォッ』というリーフゴブリンの声が響き渡った。
「ひいいぃっ、きたっ!」
「きゃあぁぁっ!!」
「なっ、二匹いたのか!?」
ヒューゴたちの叫び声に、緊張が走った。
 





