ドロップアイテム
「はあああああああ、生きてる」
それだけ言葉にするのが精いっぱいだった。
崖を下っているときは気にする余裕もなかったけれど、ガンゴンといろんなところにキャンピングカーがぶつかっていた。間違いなくボコボコだ。
……走れるだけマシなのかな?
「はあー……。俺も心臓がバクバクしっぱなしだ」
助手席のラウルもぐったりして、フロントに突っ伏している。
《レベルアップしました! 現在レベル10》
「おわっ! レベルが上がった!」
「まじか。レベルアップしたばっかだったけど……リーフゴブリンを倒したから、とかか?」
ラウルの言葉に、私は首を傾げる。
確かにそれもあるかもしれないけど、無茶な運転をしたからというのも考えられる。うっかり空を飛んじゃったわけだしね。
「どういう状況で経験値がたくさん入るかは、私もわかんないんだよね。わかってるのは、走ればレベルが上がるってことくらいかな?」
「なるほどな……。珍しいスキルだと、わからないことが多いか」
ラウルの言葉に頷き、私はハッとする。
「アンネさん、おはぎ、タマちゃん! 大丈夫ですか!?」
リーフゴブリンに対峙するのが精いっぱいで、すっかり居住スペースのことを忘れていた。私はラウルと一緒に、慌てて居住スペースへ移動した。
見ると、アンネは机の下にもぐっておはぎとタマのことを抱っこしてくれていた。どうやら大きな怪我もなく、無事みたいだ。
「よかった……。すみません、かなりアクロバティックでしたよね。大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だよ。この子たちも、怖がりはしたけど怪我はないよ」
「ありがとうございます」
私はほっと胸を撫で下ろして、アンネが抱えているおはぎを見る。
「おはぎ、おいで!」
『にゃあぁっ!』
「ごめんね、怖かったね」
おはぎはすぐに私の腕の中に飛び込んできて、にゃあにゃあと頭突きするように頭を擦りつけてきた。
私もおはぎの頭や喉やらを撫でてあげて、無事を喜んだ。
「……リーフゴブリンはどうなったんだい?」
「あ、忘れてた!」
「豪快なお嬢ちゃんだねぇ……」
アンネの問いかけに私が声をあげると、アハハと笑われてしまった。みんなが無事だったことで、頭からすっぽ抜けていたみたいだ。
全員でキャンピングカーから下りて、リーフゴブリンを探してみる……が、いない。
「あ、あれじゃないか?」
「ん? って、クレーターみたいになってるね?」
キャンピングカーから少し離れた先、地面が凹んでいた。
そこにはリーフゴブリンの姿はもうなくて、いくつかのドロップアイテムだけが残っている。それをラウルが手に取った。
「満月草に、四季の種に、薬草と……月桂樹の短剣だ」
「ただの薬草もドロップするのはあれだけど、珍しい薬草と種に……短剣はそこそこ使えそうだね」
ラウルが渡してきたので手に持つと、短剣とは思えないほど軽かった。これなら、私でも簡単に振り回せそう。
ゲーム時代にもこの短剣はあったけれど、中継ぎに使っただけで最終武器にはしなかった。けれど現実になると、武器の重さや持ち運びなど、いろいろ考えなければならないことも増える。
……うん。この短剣、いいかも。
「ミザリーも冒険者なんだし、その短剣を使ったらいいんじゃないか?」
「え? それは嬉しいけど、ラウルの取り分もあるし……。相場の半額なんて出せる余裕は――」
「こらこらこら。リーフゴブリンを倒したのはミザリーだろ? 俺が分け前をくれなんて、言えないって」
だから何も気にしなくていいとラウルは言うけれど、作戦を考えて崖までの道案内をしてくれたのはラウルだ。指揮官みたいなものだから、分け前は必須だ。
「駄目だよ。ラウルだって、一緒に戦ってくれたよ!」
私が絶対に譲らないという勢いで告げると、ラウルは目をぱちくりと瞬かせた。そしてそのまま笑う。
「ったく、素直に貰えばいいものを……。もし他の冒険者と組んでそんなこと言ったら、全部持ってかれちまうぞ?」
「う……! それはほら、ラウルだからだよ!」
私だってそんなに考えなしではない。
とりあえず、短剣を私が貰って、満月草と四季の種をラウルの取り分にした。
次回、レベルアップです!




