体当たりだ!!
ラウルの作戦を聞き、素直に無理やろという一言が頭に浮かんだ。リーフゴブリンにキャンピングカーアタックして崖から落とす?
「いやいやいやいや、無理でしょ!」
「そうか? キャンピングカー、結構頑丈だからいけると思うんだけど」
そうではなくて!!
いや、そういう問題なのか……? そうだよね、この世界は魔物を討伐することが当然なんだから、倒せる可能性があるなら、今は手段を選んでいる場合ではない……のか。
キャンピングカーの耐久性とか、そういうのは私には正直わからない。
……ラウルの見立てだと、いけそうらしいけど……どうだろう?
リーフゴブリンにキャンピングカーを掴んで持ち上げられたりなんかしたら……考えただけでも恐ろしい。いけるの……か……!?
私がそんなことをもんもんと考えていると、「来たぞ!」というラウルの声が響いた。
「うぇっ!?」
サイドミラーを覗き込むと、緑の巨体が写っている。
「あ、あれがリーフゴブリン!? でかっ!!」
リーフゴブリンは三メートルほどの大きさで、頭にわしゃっと草が生えていた。
「タマ、おはぎ、大丈夫かい?」
『にゃっ』
『にゃあぁ』
おはぎたちはアンネが見ていてくれるようだ。それにほっとしたら、アンネの「身体強化!」という声が聞こえてきた。
……元気に山登りしてた理由がわかったよ。
私はぎゅっとハンドルを握り、軽く深呼吸をしてアクセルを踏む。崖から少し離れて、リーフゴブリンを待ち構えるのがいいと思ったからだ。
ラウルが「大丈夫だ」と真剣な表情で頷いて、私を安心させようとしてくれている。
「どっちみち、どうにかしないとフルリア村も危ないもんね」
「まったく想定外だったけどな。でも、ミザリーのキャンピングカーなら、なんとかなるはずだ。正面から戦うわけじゃないしな」
「……うん!」
私も頷いて、目視でリーフゴブリンを捉える。
こちらに向かって一直線で走ってくるのは、何も考えていないからだろうか。それとも、自分の方が強いという絶対的な自信があるからだろうか。
「ミザリー、今だ!」
「はいっ!」
ラウルの合図と共に、私は思いっきりアクセルを踏んだ。ギュルルルルッとタイヤが音を立てながら走って、向かってきたリーフゴブリンに体当たりした。
ドゴンッと強い音がして、私は思わず目をつぶる。
『グルアアアァッ!』
「ひいいいぃぃぃっ」
思わず間抜けな声が出てしまったのは許してほしい。
しかし勇気を振り絞った甲斐あって、ちょうどリーフゴブリンの背後に位置する崖へ突き飛ばすことに成功した。
一〇メートル以上高さがあるから、きっと倒せるはずだ。
「よし!」
「――! やった……!」
目をつぶってしまったが、ラウルの声を聞いて私も顔を上げる。リーフゴブリンが宙に投げ出されているのだが――リーフゴブリンからシュルルと蔦が伸びてきて、キャンピングカーに巻き付いてきた。
「え……?」
一瞬、心臓が止まったような気がした。
が、一気にバクバク音を立て始める。このままじゃ、リーフゴブリンに道連れにされて、私たちも崖下に真っ逆さまだ。
「やばいやばいやばい、どうしようラウル!」
「とりあえず蔦を斬るしかない!」
ラウルは窓を開けて、巻き付いた蔦を斬っていくが……それより崖下に引きずりこまれるスピードの方が何倍も速い。
「駄目、窓を開けてた方が危険かも!!」
私は咄嗟に窓を閉めて、ぐっとハンドルを握りしめる。
「ラウル、アンネさん、何かに掴まって体を丸めててください!!」
「おお」
「わ、わかったよ!」
『『にゃあぁ』』
こうなればやけくそだ。
無意味かもしれないが宙に浮いたままのキャンピングカーでアクセルを踏むと、ちょうどタイヤ部分に蔦があったようでわずかに走った。
……わあ、ソラノウエヲハシッテルー。
「いっけぇ!」
私はそのままキャンピングカーで身動きのできないリーフゴブリンの顔面を踏んづけ、さらに大きく空中を走る。
実際に走れているわけではないけどね……!!
そのままキャンピングカーでジャンプしたかたちになり、なんとも運よく崖の端っこに行くことができた。
……よし、地面だ!(崖だけど!)
そのまま勢いに任せてアクセルを踏むと、キャンピングカーは崖を下り出した。
「うおおぉぉっ!?」
漫画かよ! と思ったけれど、ここは乙女ゲームの世界だった! ありよりのありだ!
そのまま叫びながら崖を下ると、体感では一〇分くらい運転した気がするけれど、時間にすれば宙に浮いてからわずか数分だっただろう。
私たちは無事、地面に生還した――。
次回はリーフゴブリンのドロップアイテムゲットです。(冒険者空気すぎる……)
 





