逃げるが勝ち……!?
「冒険者たちが危ない、ってことかい……?」
不安を帯びたアンネの声に、私は息を呑む。リーフゴブリンがいたのであれば、きっと戦っているのだろう。
……苦戦してて、ピンチに陥ってるとか?
一気に嫌な想像が私の頭の中を駆け巡る。首を振って、熟練の冒険者なのだから大丈夫だと、どうにか自分に言い聞かせる。
ラウルがじっとインパネの地図を見つめて、「近いな」と呟いた。
「ここにいたら巻き込まれる可能性もある。早く村に戻った方がいい」
「――!」
その言葉に、私はあからさまに動揺してしまった。だって、それは冒険者たちを見捨てて逃げるようなことになるんじゃないか……と、考えてしまったから。
動揺がラウルにも伝わってしまったみたいで、安心させるように私の肩に軽く手を置いた。
「俺たちも冒険者だ。ミザリーが助けに行きたい気持ちはわかるし、俺だってそうだ。でも、今はアンネさんを村に帰すのが先だ」
「……うん」
ラウルの言葉はもっともだ。
私にあるのはキャンピングカーだけで、戦闘能力はない。行って、リーフゴブリンと戦っている最中なら、私はただの足手まといになる。
私はアクセルを踏んで、村への道を急いだ。
山をゆっくり下り出して数分、地図に表示されている青丸がこちらに向かってきていることに気づいた。
「え……?」
赤丸は人間。青丸は、それ以外の――たとえば魔物などだ。
「もしかして、リーフゴブリン!?」
私はひゅっと息を呑んだ。
凄い速さでこちらに近づいてきているので、ちんたら山を下っていたら追いつかれてしまうかもしれない。
……やばい!
「ラウル、なんだかリーフゴブリンがこっちに近づいてきてるみたい」
「なんだって!?」
私が慌てて声をあげると、すぐラウルが助手席にやってきた。
「どうしてだろう、狙われてるのかな!?」
「……走る音のせいか、それか気配に敏感なんだろうな。どうにかして逃げ切りたいけど……微妙か?」
「そんな……」
もしこのまま逃げて、リーフゴブリンを村に引っ張ってしまったら大変だ。そう考えたら、どうにかして遠くに連れていきたい気もするが……控えめに言って無理じゃない!?
私があわあわしながら必死で運転していると、ラウルはいつの間にか居住スペースに戻ってしまった。
ちょっと、一人にしないで!!
「うぅぅ~」
涙目になりつつ、木を避け運転していると、ラウルが戻ってきた。
「ミザリー、下りるのを止めて、西寄りに登っていってくれ」
「え!?」
ここから登るの!? と思いきや、ラウルがそう言うなら何か手があるのだろう。私は頷いて、一気にUターンをしてアクセルを踏む。
……山の向こう側に逃げるってこと!?
私がドキドキしながら運転している間にも、ラウルはアンネとちょこちょこ何かを話している。
アンネが居住スペースにいるので、私まで話の内容はあまり聞こえてこない。
しばらく西方向に進んでいくと、切り崩されたような大きな崖が見えてきた。それを迂回するように登ったところで、『グルアアアァ』という低く大きな声が響いた。
――リーフゴブリンだ!!
「どうしよう、ラウル。追いつかれたみたい……!!」
青丸を見ると、もう目と鼻の先だ。
私が顔を青くしながら告げると、ラウルは緊張した面持ちで「大丈夫だ」と頷いた。何か考えがある、そんな顔だ。
「リーフゴブリンを、キャンピングカーで体当たりして崖から落とすぞ」
「………………は?」
冒険者なんて全く出ませんでしたね……。
次はVSリーフゴブリンです。




