猫あるある……?
村から少し離れてから、私はキャンピングカーを召喚して乗り込んだ。
「しかし、猫を捜して村の外になぁ……。あんまり遠くに行ってないといいけど」
「そうだねぇ……。猫って、基本的にそんな遠くに行ったりしないと思うんだけど、どうなんだろう?」
『にゃう?』
ラウルに返事をしつつおはぎを見ると、わからないとばかりに首を傾げられてしまった。可愛い。
猫は基本的に遠くに行きはしないけれど、だからといって絶対ではないし、近場にだって危険はたくさんある。
……もし魔物に遭遇してたらどうしよう。
一撃でやられてしまう未来しか想像できず、私はさああぁと青ざめる。
「急いで探そう! カーナビで……っと」
インパネ部分のカーナビを見て、赤丸――人間がいる場所を探す。みんな村にいるから見つけやすいはずだ。
見ていると、赤丸が五個あった。
「まだ村に近いし、これは冒険者かな?」
となると、アンネさんはどこだろう。
私はもう少し山側を見て行って――見つけた!
「って、山の中に反応がある! アンネさん、山に入っちゃってるかもしれない!!」
「まじか! リーフゴブリンがいた場所からは離れてるけど、移動してる可能性はあるから……急いだほうがいいな」
「うん!」
全速力で向かうしかない。
「アンネさん、タマちゃん、待っててね……!」
ぐっとアクセルを踏み、出発した。
一〇分ほどで目的の山に到着した。
木々は多いけれど、間隔が狭いわけではないので多少ならキャンピングカーで進むことができそうだ。
「山の斜面だし、土砂崩れが怖いから慎重に進もう」
赤丸まではもう少し進まないと駄目そうだ。
……というか、アンネってお年寄りなんだよね? よくこんな道を登って……。
もしかしたらパワフルおばあちゃんなのかもしれない。そんなことを考えながら、私はゆっくりキャンピングカーを走らせた。
「……山を登っていけるのって、いいよなぁ」
ラウルは窓から外を見つつ、周囲を警戒してくれている。たとえば大きな枝とか、そういうのがあって危険なこともある
さすがにカーナビに映らないからね。
それから少し進むと、「タマ、下りておいで~」という声が聞こえてきた。
「アンネさんの声かな?」
「タマって呼んでるし、そうだと思う」
『にゃっ』
声の様子から、タマがどこか高いところに登ってしまったのかもしれない。キャンピングカーで行ってタマを驚かせて落ちたりしては大変なので、私たちは歩いていくことにした。
幸い距離は目と鼻の先だし、声も聞こえている。
「アンネさ~ん、いますかー?」
「――! 誰だい!?」
私が呼びかけると、すぐアンネが返事をしてくれた。ラウルと顔を見合わせ、ほっと胸を撫で下ろす。
「よかった、大丈夫そうだ」
「うん。でも、タマちゃんは油断ならないね……!」
ピンチなのかもしれない。絶対に助けるぞ! と思いながら声のした方に向かうと、木の上で鳴く猫と、その下でおろおろしている女性がいた。年齢は六〇歳くらいだろうか。
アンネはすぐ、私とラウルに気づいてくれた。
「アンネさんに手紙配達の依頼を受けた冒険者のミザリーです」
「同じくラウルです。村でアンネさんが外に向かうのを見たって聞いて、捜しにきました」
「そうだったのかい……。心配をかけて申し訳なかったね」
眉を下げながらそう言って、アンネは木の上を見た。
「あの子がタマちゃんですか?」
「ああ。高いところに登るんだけど、下りれないんだよ」
「あらら……」
猫、そういうとこあるよね……!
タマが登ったのはこの辺りでもひときわ高くて、もしかしたら一〇メートル近くあるかもしれない。あそこから落ちたら軽い怪我じゃすまない。
「どうしよう……」
「俺に任せとけ」
「ラウル?」
私がどうにかして打開策をと思っていたら、ラウルが軽やかに木を登っていってしまった。
「はあぁ、度胸があるねぇ。私はどうにも高いところが苦手でね」
「あれだけ高かったら大抵の人は恐いと思いますよ……」
そもそも私は恐怖心うんぬんの前に木登り自体が無理ゲーだけれど……。
若干ハラハラしつつ見守っていると、ラウルはあっという間に登り切って、タマを抱き上げてしまった。「もう大丈夫だぞ~!」と、とびきりの笑顔だ。
私の隣で見守っていたアンネは、ほっと大きく息をはいた。
ミザリー「救出成功を祝って焚火をしてもいいと思う」
ラウル「必要ないだろ」
しょぼん……。




