スキレット料理
下準備がほとんど終わったので、私はキャンピングカーのトランクから椅子を取り出した。ファンタジーな木でできているローチェアだ。
さっそく焚火の前に置いて、座ってみる。
「………………これは控えめに言って最高」
深めのローチェアなので、座ったときの安定感が抜群だ。地面に近いことが気になるかと思ったけれど、草木の香りがするだけで、ただただ心地よい。
……これでお昼寝したら最高だ。
そして聞こえてくる、パチッという焚火の音。
これがまた風情を出してくれていて、立ち上がりたくなくなるというものだ。自分の椅子に座って焚火を眺める。会社員や悪役令嬢時代にはできなかった理想の形だ。
しばらくぼーっとしていると、焚火が心許なくなってきた。
もう少し薪を足した方がよさそうだと、私は薪に手を伸ばして――届かない★
「あー、そうかなるほど、ローチェアだから起き上がらないとだよね」
思わずよっこらしょと言いたくなってしまったのは内緒だ。言ってないのでセーフだし。
……でも、ローチェアは立ち上がるのがちょっと億劫だね。
今度からは座ってても手の届く場所に薪を置かなければならないということを学んだ。
焚火に薪を足していると、狩を終えたラウルとおはぎが帰ってきた。その手には角ウサギが三匹も……!
「うわ、すごい」
「少し向こうに小川があったから、下処理もしてきた」
「最高では……」
さっそくキャンプファイヤー焚火の上にスキレットを置き、角ウサギの肉を焼いていく。ジュウウウゥという音が聞こえるだけで、すでに美味しそうだ。
焦げ目がつくまで焼けたら少し蒸し焼きにして、そこに切って置いた玉ねぎを入れて炒めていく。
すぐ隣に小さい焚火も作って、そっちはおはぎ用の肉を茹でている。
「美味そうだな」
「うん……! 早く食べたいね!」
玉ねぎが飴色になったのを見て、ラウルが「そろそろいいんじゃないか?」と瞳を輝かせてこっちを見てくる。
「チッチッ、まだ仕上げが残ってるんですよ」
「仕上げ?」
私が人差し指を立てつつラウルに告げると、不思議そうに首を傾げた。
「じゃじゃーん、卵です!」
「おおっ!」
私は素早く溶き卵にして、スキレットの端に肉や野菜などをよせて……空いたスペースに一気に卵を流しいれる。
ジュワッと一気に火が通るので、ここからはスピード勝負だ。私は手早く卵で肉をくるんで、焚火からスキレットを持ち上げてすぐ横の岩の上に置いた。それを二人分。
「完成~! 角ウサギのオムレツです!」
「美味そう!」
「そしておはぎには、角ウサギの茹で肉で~す!」
『にゃう~♪』
ラウルはもちろんだが、おはぎも尻尾の先を揺らして嬉しそうにしている。ということで……
「「いただきます!」」
『にゃっ』
オムレツをスプーンですくうと、中は半熟でトロトロだ。それに包まれている角ウサギの肉と玉ねぎを一緒にいただく。
「ん~~、んまいっ」
「うめぇ!」
私と同時に食べたラウルも、隣りで絶賛してくれている。おはぎは喉をゴロゴロ鳴らしながら夢中で食べているので、美味しいのだろう。
半分ほどオムレツを食べたところで、私はサラダの存在を思い出す。
「サラダも作っておいたからどうぞ」
「お、サンキュ。シャキシャキで美味いな」
「でしょ~! ココシュカで新鮮な野菜を買えたからね」
私はトマトを食べようとして、ハッとする。
「もしかして……こうすればいいんじゃない!?」
「ミザリー?」
スキレットをキャンプファイヤー焚火の上に載せて、サラダのミニトマトを投入した。すると、すぐにトマトの表面が焼けていき香ばしい匂いが……。
「あ、俺もやりたい……!」
「焼きトマトも最高です……」
オムレツはもちろん、サラダと焼きトマトも美味しくいただきました。




