ほしいものばっかり
買い物にきた雑貨店は、旅道具専門店を選んだ。
長期間街を離れる行商人や、野宿をする冒険者たちがターゲットのお店だ。持ち運びやすいコンパクトなものから、大人数の料理が作れる大鍋など、いろいろ揃っている。
「わあぁ、見てるだけでも楽しいねぇ」
「ミザリーはそんなに料理が好きなのか?」
「いや、それは別に」
道具が好きと料理が好きというのは別にイコールではないのです。
私が首を振ると、ラウルは「形から入るタイプか~、薄々そんな気はしてたけど」と笑っている。
――さて!
さっそくスキレットなどなどを見ていきましょうか。
鉄のスキレットは、シンプルなものから、匠の意匠のような豪華なものまで何種類か置いてあった。
持ち手に薔薇があしらえてあるものなんて使ったら、私のしょぼい料理に使ったらなんだか申し訳ないような気がしてしまう。
「すご……」
私が言葉を失っていると、ラウルが覗き込んできた。
「うわ、フライパンに細かいデザインだな……」
「そうだねぇ。でも、こういうの見てるとテンション上がるよ」
私がいくつか手に取って見ていると、ラウルが「そういえば……」と思い出したように話をしてくれた。
「冒険者は深い森やダンジョンで野宿をすることが多いだろ? 気が滅入ることがあるから、せめて旅用品はいいものを……って考えてる奴もいるらしい」
「ああ~、それはいいね」
ダンジョンに行ったことはないけれど、魔物と戦い、寝ている間も気を抜くことはできない……そんな生活だろうというのは想像できる。
好きな家具だったり、雑貨だったり、選んだものを使うというのは、自分を保つことに重要な要素だと思う。
じゃないと、ストレスが溜まっちゃいそうだもんね。
晴れて自由の身になった私はノーストレスで生きていくよ!
「デザインがあるスキレットもいいけど、まずは普通のスキレットにするよ。お値段もお手頃だし」
「そうか?」
「うん。こっちの意匠スキレットは、自分で稼いだお金で買うことにするよ」
ほしい道具を買うために働くって、ただ普通に働くよりも楽しいんじゃなかろうか。スキレットとおはぎのご飯を稼ぐために、私は頑張るよ!
ということで、普通のスキレット……小さい一人用を私とラウルの分で二つ。大きい五人前くらいに使えちゃうスキレットを一つ選んだ。
どちらもシンプルな鉄のスキレットで、使いやすそうだ。
ふっふー、これで肉を焼いたら美味しいこと間違いなしだね!
とりあえずスキレットはこれでオーケー。
「ほかに何か必要なものってあるかな?」
「うーん……。ミザリーのスキルがあるから、ぶっちゃけ不便はないと思うぞ?」
「そうかなぁ? でもほら、あのお皿も可愛いし」
私が見つけたのは、小花が描かれたクリーム色のお皿だ。その横には、同じシリーズの食器が何種類か並んでいる。
「いいなぁ、食器に統一感を持たせるのも憧れるよねぇ」
前世では皿にお金をかけていなかったので、今世はかけてもいいのでは?と思う。やはりキャンプは道具がいろいろあると楽しいよね。
そう考えたら、欲しいものがたくさんあって困るよ……。
「あっちのコップも可愛い……。コップはいくつかあってもいいんじゃ……あ、ランプは予備がいくつかあってもいいかもしれない」
あっちもこっちも気になって仕方がない。
寝るときはキャンピングカーの中だけれど、焚火をしたりと外でのんびりすることもあるのでランプは必要だろう。
木の枝に吊り下げるものや、地面に直接置けるタイプなど、いろいろな種類がある。そんなの両方ほしいに決まってるじゃん……。
さらに、火をつける安価タイプと、魔導具で明りをつけるちょっとお高めのランプと二種類ある。
魔導具は便利だけど、キャンプといったら……やっぱりリアルな火じゃない?
厚いガラスの中で揺れる火と、その近くで椅子に座ってのんびり読書……最高か。
「とりあえず焚火があるから、木の枝に吊り下げられるランプも買うよ!」
「……えらく熟考してたな」
ラウルは苦笑しつつも、「いいんじゃないか?」と賛成してくれた。
いつも読んでいただきありがとございます。
書籍化が決まりました~~~~!
わーい! 引き続きどうぞよろしくお願いします!
やっとスキレットをゲットです。




