椅子との出会い
布団を抱えながらギルドに戻ると、先ほどの受付嬢に一瞬だけ怪訝な顔をされてしまった。そりゃそうですよね。
しかしそこは、ラウルが何事もなく対応してくれた。
ということで、ギルドの鍛錬場に来ました。
鍛錬場は、ギルドの地下にあった。ガッシリとした石壁で作られていて、さらにはある程度の攻撃を防ぐ魔道具も設置されていて安全な造りになっているのだという。
広さは五〇メートル×五〇メートルといったところだろうか。
なんでも一般開放されている場所と、時間貸しの場所で分かれているのだという。別料金はかかるけれど、時間貸しの鍛錬場を借りることができた。
「おお~、思ってたより広い!」
「戦闘スタイルやスキルの確認もするから、このくらいの広さが必要になってくるんだよ」
「なるほど!」
確かにこれなら私のスキル、キャンピングカーを出しても問題はなさそうだ。
私がはしゃいでいると、ラウルがふーっと息をついて布団を壁際にあるベンチに置いた。
「そうだった、布団をしまうんだった!」
私は「よしっ!」と気合を入れて、鍛錬場の中央に立つ。
「いでよ、キャンピングカー!」
声高らかに宣言する必要はないのだけれど、気分の問題ですよ。私がスキルを使うと、すぐ横にキャンピングカーが出現した。
「いつ見ても不思議なスキルだよな……」
「私の自慢のキャンピングカーです! ……ちょっと傷が多くなってきたけど……」
私は車体をじーっと見つめて、岩やら木やらに擦りつけてしまった跡を恨めし気に見る。これ、どうにかして修理できるといいんだけど……。
とはいえ、何をするにもまずは先立つものが必要なので、これはお金持ち……になってから改めて考えよう。
貸し切りとはいえ間違って人が入ってきては大変なので、急いで布団をキャンピングカーに入れる。
椅子とテーブルを変形して使う簡易ベッドなので、布団は使っていないときはトランク部分に置いておくことにした。
うん、これでよし!
「それじゃあ、次は買い物だね!」
「ああ」
椅子とキャンプ用品を求めて、私とラウルは再び街に繰り出した。
「うわああぁぁっ、この椅子可愛いっ! あ、こっちのもいい!! でもでも、これも捨てがたい!!」
家具屋にやってきた私は、めちゃくちゃテンションを上げていた。
シンプルな小さい椅子から、座る部分が布になっているハンモックに似たタイプの椅子、高さもハイチェアやローチェアと取り揃えられている。ただ、必要性がないからか……折りたたむタイプの椅子は置いていない。
……私はキャンピングカーで運べるから、別にコンパクトである必要はないけどね。
ふと、柔らかい木の枝を編んで作られた椅子があって、私は目を奪われてしまう。
「すごい、こんな椅子あるんだ。ファンタジーって感じ!!」
日本だったらお目にかかるのは難しい代物だろう。
しかも木はまだ生きているらしく、ちょっとずつ成長しているから不思議だ。
……ファンタジー木?
椅子はローチェアで、座る部分が床についてしまっている。汚れたりしないのかな? と、私はしゃがみ込んで近くから見てみる。
「それがお気に召しましたか?」
「あ! はい。なんていうか、雰囲気が好きで」
私が見ていたからか、店員が声をかけてきた。私の言葉に、「わかります」と頷いて説明をしてくれた。
「この椅子は職人が作ってる一点ものなんですよ。座面部分の下が地面に着くんですけど、地面に置くとそこと足の部分から土の栄養を吸収して成長するんです。この状態のままが気に入った場合は、室内で使っていただければ変化はしませんよ」
「すごい! 買います!!」
店員の説明を聞き、即答してしまった。
外で使うと成長してしまうなんて、ロマンしかない。まさにキャンプの相棒として、ピッタリなのではないだろうか。
横ではラウルが「結構いい値段だぞ」と呆れているが、出会ってしまったのだから仕方がない。
私の肩の上にいるおはぎは、賛成とばかりに『にゃぁ』と声をあげた。
やっと椅子を買えました!!
 





