初めての魔物のお肉は……
焼かれていたのは動物ではなく、魔物のようだ。
……そういえば魔物の肉って、食べたことないね?
魔物の肉を食べるなんて野蛮だと、特に母親が言っていたことを思い出す。あれは平民が食べるものだ、と。
どんな味なのだろうか。
「ラウルはよく魔物を食べるの?」
「野宿のときなんかは、狩って調理ってことが多いからなぁ。街にも魔物の肉を使った料理は多いぞ。でも、低級の魔物よりは牛や豚の方が美味いかな?」
「へえぇぇ。じゃあ、上級の魔物は?」
好奇心から聞いてみたら、ラウルの目がカッと見開いた。
「あれは美味い!! つっても上級の魔物はそう狩れないし、食べられる機会は少ないけど……高級料理店とかで扱われてたりするんだ。あ、でも全部が美味いってわけじゃないぞ? 不味い魔物とかもいるし」
「なるほど……」
まあ、確かに爬虫類系の上級魔物だっているだろうし、全部が全部美味しいだろうとは私も思わない。
……でも、美味しい魔物が多いのかぁ。
ブランド牛みたいな感じなのかもしれないね。そう考えると、いつか食べてみたいと思ってしまう。
私はそんなことを考えつつ、お肉を一口齧ってみた。
皮がパリッと音を立てて、歯ごたえは十分。お肉はわりと淡泊な感じかもしれない。ジューシーさは少ない。
でも、味は普通……というところだろうか。
モグモグしていると、ラウルが少し先を見て「あいつの肉だよ」と指差した。
「んん?」
私がラウルの指さす先を見ると、角ウサギがいた。
なるほど、これがウサギの味なのか……!
「ウサギなんて初めて食べたよ」
「そうなのか? 角ウサギの肉は、よく売ってるイメージだけど」
「じゃあ、これからは食べる機会も増えそう」
今までは貴族だったので食べる機会がなかったけれど、今後は市場でいろいろな食材を買うことが多くなるだろう。
そして焚火で焼いて食べる! 絶対に楽しい。
ラウルは角ウサギを食べつつ、「ミザリーって変わってるなぁ」と笑う。
「旅してるって言ってたけど、遠くから来たのか?」
「うぅん。隣のリシャールからだよ。まだ旅に出たばっかりなんだ」
「そうだったのか」
私は頷いて、「だからこれからいろいろな所に行きたいんだ」と告げる。
「ラウルは依頼をこなして生活が安定したら、したいこととかあるの?」
「俺は……駄目元かもしれないけど、ダンジョンに潜ろうと思ってる」
「ダンジョンに?」
ダンジョンは、不思議な力で作られた場所だ。
魔物が多く存在し、一番奥には貴重なアイテムが眠っていると言われている。金銀財宝や伝説の装備など、いろいろな噂がある。
「……噂だけど、伝説の秘薬エリクサーがあると言われている。それを得れば、俺の腕も動くようになるだろうと思ってさ」
「確かに」
宝箱から高価な回復薬が出てくるのは、ゲームとして鉄板だ。
……ダンジョンでキャンプをするのも楽しそうだね。
「すごくいいと思う! ダンジョン楽しそうだし!」
「別に楽しくはないぞ? 一攫千金は狙えるかもしれないが、危険な場所だからな。……ミザリーは間違っても楽しそうだからっていう理由で行かないほうがいい」
「手厳しい……」
ラウルが真剣に忠告してくれるのは、すごくありがたい。
そうだよね。ここはもう乙女ゲームの世界とはいえ、現実になってしまっている。死んだらロードしてもう一回、なんてことはできないのだ。
でも、ダンジョンキャンプ……楽しそう。
ダンジョンもキャンピングカーで爆走したいですね。
次は街に着く予定です。




