危険性
「キャンピングカー?」
ラウルの頭の上には、それはもうたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。
この世界には、キャンピングカーどころか自動車だって存在しない。主な移動手段といえば、馬車だ。
……あ、やっぱりさっきのところ傷になってる。
車体についた傷を見つけて、ちょっぴり凹む。
『にゃぁ』
「おはぎ? ……あ、また雨雲が出てきたね」
やはり山の天気は変わりやすいみたいだ。
このまま外にいると濡れてしまうので、私はラウルを手招きする。
「雨が降りそうだから、ひとまず中に入ろう」
「え? あ、ああ……?」
キャンピングカーのドアを開けると、ラウルの「中が部屋みたいになってるのか」という呟きが聞こえてきた。
……戸惑わせてしまってごめんなさい。
「土足厳禁だから、靴は脱いでね」
「わかった」
私は靴箱に入っていたスリッパを出すが、ラウルが躊躇した。
「俺、すげぇ汚れてるから、そんな綺麗なの履けない」
「え? ああ、そうか泥だらけだったね」
これは先にシャワーを浴びてもらった方がよさそうだ。さすがにこのまま、というわけにはいかない。
私はとりあえずタオルを濡らして、「足だけ拭いて」とお願いする。それができたら、シャワールームへと案内した。
「外から見るより、広くないか?」
「あー……。私のスキルだから、そういうものだと思ってもらうしかないかな?」
「お、おう……?」
戸惑いを隠せないラウルを脱衣所に押し込み、使い方を説明して、私はキッチンへ向かう。
「ラウルが出てくるまでに、簡単に食べられるものを用意しておこう」
といっても、大したものがあるわけではない。
パンとチーズ、あとは野菜とお肉に果物だ。
……酷い怪我だったみたいだけど、ポーションで治療したから普通に食べられるかな?
私はお肉を焼いて、パンにサラダと一緒にはさんでサンドイッチを作った。あとはジャガイモのスープだ。
「よしよし、いい感じ」
私の用意が終わったタイミングで、ラウルが出てきた。
「すまない、ありがとう。というか、あれは本当にスキルなのか? お湯が出てきたんだが、どういう仕組みになってるのかまったくわからない……」
「あははは」
それは私もわからないのです。
「まあ、このキャンピングカーのおかげで平和に旅を続けられてるから、深く考えないようにしてるよ」
私の言葉を聞いたラウルは、大きくため息をついた。
「よく今まで悪い奴に狙われなかったな……。このスキルじゃ、見たら全員驚くだろう?」
「ああ~、確かに全員に驚かれたかな?」
道中で出会った冒険者のパーティも、フルリアの村の人もめちゃくちゃ驚いていた。けれど私からキャンピングカーを奪おうとした人はいなかった。
「というか、スキルだから奪うなんて無理じゃない?」
「そんなことはない。痛めつけられて無理やり服従させられたり、人質を取られて脅されたりするかもしれない。もしくは、そういった類のスキルやアイテムを使われた可能性もある」
「――っ!」
まったく予想していなかったことに、私の喉がひゅっと鳴った。
ラウル(この子、危機感がなさすぎるんじゃないか……?)
 





