アイーダのおもてなし
奥さんの声と一緒に、ふわりとした花の香りが私の鼻をくすぐった。見ると、木のトレーにお茶とスコーンが載っている。
「わあぁ、いい匂い」
「スコーンもお茶もたくさんありますから、召し上がってくださいね。おはぎちゃんには、これでよかったかしら? 渓流で獲れる魚の身を茹でたものなんだけれど……」
「ありがとうございます。十分です!」
お茶は薄い水色で、フルリアの蜜を入れて甘さを足していただくのがお勧めだと奥さんが教えてくれる。
お皿にはスコーンが二つ載っていて、フルリアの蜜とチーズクリームが添えられている。とっても美味しそうだ。
おはぎの前には茹でて冷ました川魚が置かれ、すぐにでも食べたいとおはぎの目がぎらついている。
「おはぎちゃん、どうぞ」
『にゃ~っ!』
奥様の声を聞くとすぐ、おはぎははぐはぐと魚を食べ始めた。ゴロゴロ喉を鳴らしながら食べているので、よっぽど美味しいのだろう。
……今度、私も魚をあげよう。
「そういえば、まだきちんと挨拶ができていなかったわね。私は妻のアイーダよ」
「ミザリーです。まだ旅は始めたばかりです」
「そうだったのね。どうぞゆっくりしていらしてね」
「ありがとうございます」
簡単に挨拶を交わして、私はさっそくフルリア茶をいただく。
蜜を入れるといいらしいのだけれど、最初はそのまま。こくりと一口飲むと、口の中にわずかな花の香りと、酸味が広がった。
……確かにこれは蜜を入れた方がいいかもしれない。
私が蜜を入れると、アイーダは「そのままだと、少し微妙でしょう?」とクスクス笑う。私は素直に頷いた。
「そうですね。ちょっと酸味が強くて、初めてだと飲みづらいかもしれません」
そう言いながら蜜を入れてみると、ほんのりした程よい甘さになった。先ほどと違って、すごく飲みやすい。
スコーンを手に取ると、温め直してくれたことがわかった。こうした気遣いができる奥様、とてもすごいですね……!
二つに割り、まずは蜜をつけてスコーンをいただくことにした。口に含むと、外はカリッとしていて、中はふわふわに焼き上げられていた。
蜜の甘さは控えめだけれど、その分スコーンの美味しさが引き立っている。チーズクリームもコクがあって、味に深みがありこれまた美味しい。何個でも食べれてしまいそうだ。
「ん~、美味しいです!」
「気に入ってもらえて嬉しいわ。よかったら、茶葉も持っていってちょうだい」
「わ、ありがとうございます」
私とアイーダがニコニコ話をしていると、イーゼフ村長が「やはり女同士は会話が弾むのう」と笑っている。
それに返事をしたのは、アイーダだ。
「村は若い子が少ないですからね。ああ、そうだわ。ミザリーさん、今夜はどうする予定なの? うちに泊まっていってちょうだい」
パチンと手を叩いて提案してくれるアイーダに、私はどうしようかなと考える。
せっかくなので数日間は滞在したいけれど、キャンピングカーを使ってキャンプもしてみたいのだ。
たとえば渓流の近くに開けた場所があったら、そこで釣りをして、焚火で木の枝に刺した魚を焼いたりしちゃって、のんびりすごしたいと思っている。
……とはいえ、まだ村のことはわからないことだらけなんだよね。
「でしたら、一泊だけお世話になってもいいですか? 明日からは、山の渓流付近でキャンプ――野宿をしたいと思ってるんです」
「まあ、野宿を?」
「若い子が一人で、それは危ないんじゃないかい?」
アイーダとイーゼフ村長は目をぱちくりさせて驚いた。が、私だってキャンプがしたいお年頃だし、何日もお世話になるのは申し訳ないのだ。
ミザリー「キャンプもしたいんです(`・ω・´)」
次は村の中を見つつ、キャンプができそうな場所を聞きこみ調査です。




