次の目的地へ!
私が握るおにぎりよりも、紬が握るおにぎりの方が形が綺麗だ。
中にたっぷり具を入れるのは当然だけれど、大きめの海苔を巻いた後、てっぺんに中の具を乗せてなんのおにぎりかわかるようにしているのも天才的だと思う。
おにぎりの具は梅干しを始め、昆布やイクラ、焼き鮭を使っている。どれも美味しそうなので、全部食べたいくらいだ。
私たちは今、瑞穂の国の北部の山間にいる。
メンバーはもちろん、私、ラウル、おはぎ、紬、宗一だ。
大成功した宗一のプロポーズの後、私たちは南浜村には戻らなかった。
やはり村に戻るのは気まずいということと、宗一が「紬を簡単に生贄にするような村は許せない!」と激怒したからだ。
紬がどうにか宗一を落ち着かせようとしたけれど、なかなか難しいようだ。
……宗一は物腰穏やかではあるけど、紬に関しては沸点がとても低いらしい。
まあ、そんなわけで、次の満月の道ができるまでこの場所でこっそり生活している、というわけなのです。
私たちの距離も縮まり、今では互いに呼び捨てにし、敬語など口調も気にせず接することができている。
「漬物も用意したぞ」
「俺も味噌汁をよそってきたぞ」
宗一とラウルがキャンピングカー内で用意していたおかずを持ってきて、テーブルの上へ置く。
漬物は集落の人に売ってもらったもので、みそ汁は豆腐とわかめを具材にして私が作りおきしたものだ。
「おにぎりももうできあがりますよ」
「すごく美味しそうにできたから、二人とも期待してて」
私が胸を張って告げると、ラウルが「お腹ぺこぺこ」と言って椅子に座った。
期間限定とはいえ旅仲間が増えたので、家事分担がとても楽になった。その分キャンピングカーの居住スペースは狭くなったけれど、四人とおはぎでも十分生活するスペースはある。
「「「「いただきます!」」」」
『にゃっ!』
私が真っ先に手にしたのは、いくらのおにぎりだ。
これは紬が醤油漬けしてくれたもので、ちょうどいい塩加減で食べやすいのだ。いくらは今まで見たことがなかったので、瑞穂の国の文化だろう。
頬張ると口の中でプチプチ弾けて、濃厚な味が広がっていくのがたまらない。
ラウルは焼きじゃけのおにぎりを頬張って、「うまっ!」と声をあげている。
「いくらでも食べられるな、これ」
「そう言っていただけると嬉しいです」
紬が嬉しそうに微笑むと、すかさず宗一が「俺の嫁だから!!」と無駄にラウルにつっかかっている。
「わかってるって! それにしても、この豆腐も美味いよな~! この味噌汁、毎日飲みたいもん」
ラウルがそう言って私が作った味噌汁を褒めると、紬が「まあ!」と顔を赤くした。隣にいる宗一はニヤニヤした顔でラウルを見ている。
「ん? なんだよ、二人とも」
意味が解らないとラウルが顔をしかめると、宗一が口を開いた。
「味噌汁を毎日作ってくださいっていうのは、この国の定番のプロポーズなんだよ」
「んなっ!!」
……そういえば、そんなプロポーズもあったね。
けれどラウルがそんな決まり文句を知っているわけがない――と思ったんだけど、なぜかラウルの耳が真っ赤になっていた。
「俺の国には味噌汁なんてないんだよ……!」
ラウルはそう叫んだけれどあまり説得力がなくて、思わず私まで釣られて赤くなってしまった。
****
それから再び訪れた満月の日に、私はまた満月の道を爆走し――サザ村へと戻ってきた。行きしなとは違い、紬と宗一も一緒だ。
しかし爆走したといっても、私が運転したわけではない。
というのも、灰色岩スネークを倒した際のレベルアップで、自動運転が実装されたのである!
しかしどこでも自動運転が使えるわけではなくて、通ったことのある道のみ、という制約がついていた。
……だから、使える状況は少ないんだよね。
しかし真夜中ずっと運転しなければいけない満月の道では、とても重宝した。また瑞穂の国へ行くときも自動運転にお任せできるので、快適な旅が約束されているのだ。
「本当にサザ村でいいの? もっと遠くの街に送ることもできるよ?」
「……いえ。もし村から誰かがきたら、お父様に私の無事を伝えてもらうことができるかもしれませんから」
会うのは気まずいけれど、人伝てに自分のことを伝えてほしいとは思っているみたいだ。
「だけど、それだといったいどれだけ待つかわからないよ? 次の満月に、私が行ってこようか?」
「いえ。……今回のことは、私たちの未熟さへの罰でもあるんです。山神様ではない魔物を主様だと信じた愚かな私たちは、そう簡単に許されたり楽をしたりしていいわけではないんです。ミザリーさんのお気持ちだけいただいておきます」
そう言って微笑んだ紬の決意は固いようで、私は「わかった」と頷くことが精いっぱいだ。
どこか落ち込んでいる様子の紬の肩を宗一がそっと抱き寄せて、こちらを見た。
「ミザリー、ラウル、本当にありがとう。俺は君たちに救われたし、村を出た後はおはぎの可愛さに紬も気を紛らわせることができた。これからは二人、蕎麦屋か何かしながら、落ち着いた暮らしをしようと思う」
「そっか。でも、楽しそうでいいな。宗一の蕎麦は美味いから、いいと思う」
今度食べに来るとラウルが宗一と約束している。
私も宗一のお蕎麦は好きなので、蕎麦屋をやってくれるのはとても嬉しい。もちろん食べにくるけれど、ぜひ麺の販売もしてほしいところだ。
「それじゃあ、私たちも次の目的地があるので行きますね」
「はい。ありがとうございました」
本当はサザ村で二人の生活が安定するまでお手伝いをしたりしたかったのだけれど、紬に「甘やかさないでください!」と言われてしまったのだ。
……でも、きっと二人一緒だから大丈夫かな?
「おはぎちゃんもありがとう。一緒に遊べて楽しかったです」
『にゃう』
紬がおはぎに別れの挨拶をすると、おはぎが紬の鼻に自分の鼻をちょんとくっつけた。猫流の挨拶だ。
「それじゃあ、またね!」
「絶対に蕎麦を食べに来るから、頑張れよ!」
『にゃ!』
「ありがとうございました。ミザリー、ラウル、また会いましょう!」
「これからは家族になった紬を守るため、俺も全力で頑張る! 二人も道中気をつけるんだぞ!」
朝陽が昇り始めているサザ村で別れ、私たちは次の目的地――ラウルの故郷に向けて出発した。
別れか、朝日か、なんだかとても目に染みた気がした。
本日、最新刊の3巻が発売です!
加筆修正、ラウルの故郷などを書き下ろしました。
どうぞよろしくお願いいたします。
このエピソードで一区切りです。
お付き合いいただきありがとうございました!




