キャンピングカーで追跡
ここが村の中だとか、そんなことは関係ない。
もっと大切なことがある。
「キャンピングカー召喚!」
私の声とともに、すぐ横にキャンピングカーが現れた。それを見た宗一は、突然のことに目を丸くして驚く。
「え、これは……?」
「私のスキルです。乗車の許可を出すので、宗一さんも急いで乗ってください!」
私が運転席に乗り込むのと同時に、ラウルが居住スペースのドアを開けた。すぐ宗一を登録したので、乗り込むまでそう時間はかからない。
カーナビをちらりと見つつ、とりあえずは村長の家の裏手にある山へと向かう。
「儀式のために紬さんが連れ去られたのはわかったけど、いったいどんな儀式なんだろう……」
一口に儀式と言っても、いろいろある。
巫女がただ祈りをささげるようなものから、悪魔に魂を売るようなものまで。ひっくるめて全部儀式という言葉ですますことができる。
「紬さんを乗せた駕籠は山の中に入っていったよね?」
インパネの地図で山を確認すると、すごい速さで進んでいる赤丸が三つあった。駕籠を担いでいる男が二人と、乗っている紬だろう。
……このスピードだと、身体強化のスキル持ちかな?
とりあえず急がなければ儀式が始まってしまいそうだ。私はどうせ傷ついてもレベルアップしたら直るのだしと、獣道へと飛び込んだ。
獣道は地面からむき出しになっている木の根っこあり、石あり岩ありぬかるみっぽいところあり、さらには木が生えていて隙間を通っていくのが大変と大変なことばかりだ。
容赦なくどかどか木にぶつかりながら、私は爆走していく。
「うおっと、容赦ない運転だな、ミザリー」
「だって、何かあって間に合わなくなったら大変だもん!」
居住スペースから顔を出したラウルに、私も必死なのだと告げる。
すると、ラウルの後ろから宗一も顔を出した。
「これはすごいスキルだな! この山道をこんなに速く進めるとは思わなかった」
宗一は、これならすぐ紬に追いつけると思っているようだが……現実はそんなに甘くはない。
「紬を担いでいった人は、たぶん身体強化か何かのスキルもちです。すごい速いスピードで進んでいっているから」
「くそ、村の自警団の奴か誰かか……」
想定外だったようで、宗一はギリッと唇を噛みしめている。
「私も全力で急いでるから、間に合うように祈ってて――あ、赤丸二つが引き返してくる」
「何!? 赤丸ってなんだ!?」
「紬さんの乗った駕籠を担いでいた人だと思う。今回の儀式の詳細も知ってるだろうから、捕まえて話を聞いてみよう」
どうやら帰りは違う道を通るようで、少し右側にずれながら下ってきている。しかしちょうど私の進路方向なので、ちょうどいい。
……でも、相手が身体強化を使ってたら捕まえるのは大変かも?
何か作戦を考えた方がいいかもしれないと思っていたら、宗一の「来た!」という声が聞こえてハンドルを握る手を無意識に強くした。
とりあえず一人捕まえる、を目標にしよう。
私は二人が接近してくるタイミングを見計らって、ライトをハイビームに切り替えた。すると、「うわっ!」と声をあげて腕で目を庇う。
すぐさまブレーキをかけると、刀を手にした宗一が真っ先にキャンピングカーから飛び出した。
「お前ら、紬をどうするつもりだ!!」
「「宗一!?」」
男たちは、まさか自分たちを追ってくる人間がいるとは思っていなかったのだろう。
宗一が刀を向けたままじりじり間合いを詰めていくと、手を上げて「やめてくれ」と戦う意思がないことをアピールしてきた。
「……いったい何をしてるのか、説明しろ」
怒気を含んだ宗一の声に、男二人はヒッと息を呑む。
「いや、俺たちは別に、その……」
「村のためにやっただけだ!」
「そ、そうだ! 村のためにやったことだから、何か言われる筋合いはない!!」
自分たちは命令されてやっただけで、決して悪いわけではないと主張をする。しかし実行犯であることは変わりないので、宗一の怒りが納まるわけがない。
一歩、また一歩と宗一が距離を詰め――
「どうせ誰かが主様に食われなきゃいけないんだ! だったら、自ら志願した紬を連れていったっていいだろう!?」
「主に、食われる……?」
「宗一、乗って!!」
「早く行くぞ!!」
主に食われるという不穏な言葉を聞き、反射的に体が、口が動く。
……早くしなきゃ間に合わない。
私がアクセルを踏むのと同時に、ラウルが宗一を抱きかかえるようにしてキャンピングカーに飛び込んでくる。
今はこの男二人に事情を求めるより、紬を助けに行く方が大切だ。
「主に食われるって、なんだよそれ……!!」
そんなこと知らないと、宗一の力ない声が私の耳にも届いた。




