砂浜での出会い
高級温泉宿に泊まった翌日は都で買い物をし、キャンピングカーに戻った。
購入したものは陶器の食器類や、調味料を始めとした和の食材だ。本当は稲もほしかったけれど、さすがにキャンピングカー菜園で米は無理だとあきらめた。
……キャンピングカーで稲を育てても、きっとお茶碗一杯分くらいしか収穫できないだろうからね。
キャンピングカーに荷物をしまっていると、ラウルが「よかったのか?」と私を見た。
「せっかく都に入ったのに、そんなに滞在しなかっただろ?」
「ん~、でもほしいものは買えたし、大丈夫だよ。というか、私の買い物が多すぎて荷物の関係で戻ってきちゃったけど、ラウルこそもっと見たかったんじゃない?」
ラウルに申し訳ないことをしてしまったと思いそう告げると、笑われた。
「はは、俺は大丈夫だよ。家族への土産だって買えたし。……あと、あの宿に連泊するのはきついしな……」
「そうだね……」
なんとあの高級温泉宿、一泊一人一〇万ルクだったのだ。
会計がチェックアウト時だったのだけれど、思わずスイートルームか何かか!? と叫びそうになってしまったよね……。
精霊のダンジョンで稼いだとはいえ、一泊にそんな大金をつぎ込んだら破産してしまう。
「まあ、元々キャンプするのが好きだからいいけどね。今度、もっとお金を貯めて富豪になったら連泊しにこようか」
「それは楽しそうだな。そんときは豪遊しようぜ」
『にゃうっ!』
そんな冗談を言って、笑いながらキャンピングカーを発進させた。
のどかな田舎道を走っていると、インパネから《ピロン♪》と音がした。レベルアップの音だ。
「やった、レベルアップ!」
「おお、次はどんな進化をしたんだ?」
最近はレベルが上がってきたからか、レベルアップの間隔が長くなっているような気がする。
やはり走っているばかりではなくて、積極的に魔物を倒したり険しい道を走ったりしなければいけないようだ。
キャンピングカーを停め、インパネを操作してレベルアップの内容を確認する。
《レベルアップしました! 現在レベル19》
レベル19 連動モニタ設置
「連動モニタ?」
いったい何と連動しているのだろうと、私は首を傾げる。
「とりあえず、居住スペースに見に行ってみるのがいいんじゃないか?」
「それもそうだね」
居住スペースに行き、恒例のどこが変わったのでしょうタイムだ。
左右の確認をしようとして――見つけてしまった。もしかしたら今までで最速の発見かもしれない。
運転席側に背を向け左側、テーブルの壁にモニタが設置されていた。丸窓の下部分にある大きさは、だいたい12インチくらいだろうか。
モニタには運転席から見た景色が映し出されていて、右下辺りにワイプでインパネの映像も映し出されている。
これがあれば、居住スペースにいながらどこを走っているかとか、どのような状況かとか、そういったことがすぐにわかる。
「相変わらずすごいな、これ」
「うん。でも、ここで前の様子が見えるのはありがたいよね」
テーブルで食事をしているときもカーナビが見えるので、人や魔物が近づいてきてもすぐにわかる。
「地図がもう少し大きかったら見やすいんだけどなぁ」
「それは確かに。……あ、もしかしてタッチパネルになってるかも?」
モニタに映るワイプの地図にタッチすると、大画面だった外の様子と入れ替わった。外の様子がワイプになり、インパネの地図が大画面に映し出されている。
「触ると切り替えられるのか! いいな、これ」
「地図が大きいと見やすくていいよね。あ、スワイプすれば地図を動かすこともできるみたい」
これは有効活用できそうだ。
ご飯を食べながら次の目的地の話ができるし、休憩を取るタイミングもわかりやすくなりそうだ。
「私たちが今いるのは、都から出て一つ目の集落あたりだね。今夜はどこかで一泊して、明日には南浜村に戻るスケジュールにしようか」
「ああ」
さっそく設置されたモニタを使って、南浜村までの距離などを確認した。
まっすぐ飛ばせば今日中に到着するだろうけれど、せっかくなら遠回りしてのんびり戻るのも旅の醍醐味だろう。
***
瑞穂の国の南側は砂浜になっていて、綺麗な砂が太陽の光を反射してキラキラしていた。
ときおりある桟橋には船がくくりつけられていて、漁で使っているのだろうことがわかる。きっと集落が近くにあるか、昔近くに住んでいた人がいるのだろう。
せっかくなので砂浜までキャンピングカーを乗り入れて、海の近くへやってきた。私はおはぎを抱き上げてゆっくり砂浜に降りて、ラウルは大きく一歩を踏み出す。
「お~、すごい」
砂浜に出たラウルが一番に声をあげて、砂浜の上を楽しそうに走っている。
「砂がサラサラで綺麗だけど、太陽がぎらついてるから肌が焼けそう……!!」
日焼け止めが恋しい季節だよ……!
私の主張を聞いたラウルが笑って、「女はそう言うの気にして大変だよな」なんて言う。
「男だってケアしないと顔がシミだらけになっちゃうんだからね!?」
「えっ、それは困るんだけど!?」
ラウルが慌て出したので、私も笑い返す。
『にゃ、にゃっ!』
「あ、おはぎも砂浜が気になるよね。でもここは熱いから、海水が来るとこまで行こうか」
私は急いで波が来る場所まで行って、「海の中に入るのは駄目だからね」とおはぎに注意をしつつ下してあげる。
『にゃ!』
「いいお返事、さすがはおはぎ! 可愛い!」
おはぎに便乗とばかりに私も靴を脱いで、砂浜の熱さにやられながら波打ち際に足をつけた。
ざざんとゆっくり波がやってきて、私の足元の砂を掘り返すように引いていく。その感触にゾワゾワしたものを感じていると、びっくりしたらしいおはぎがその場でぴゃっと跳び上がった。
「あはは、波が引くこの感触は慣れないよねぇ」
『にゃうにゃうー!』
おはぎがぷりぷり怒っているのだけれど、それもまた可愛い。
「うわ、ミザリーたちばっかりずるい。俺も海に入るぞ!」
同じように靴を脱ぎ捨てたラウルがやってきた。そして波に足を取られて、ゾワゾワっとした感触に「うわー!」と笑いながら声をあげている。
すごく楽しそうだ。
「海って面白いな。もっと奥の方にいったらどうなるんだ?」
「沖に行くほど波が強くなるし、危ないよ。すぐ深くなるし」
今は浅瀬だからいいけれど、靴を脱いだだけで沖まで行くのは無謀でしかない。ラウルは「それもそうだな」と納得した。
しばらく波打ち際で遊んでいると、「おーい」と声をかけられた。
どうやらこの近くの集落に住んでいる人のようだ。腰にカゴを提げた初老の男性で、漁の帰り際のようだ。
「こんなところで何してるんだ?」
「この国にきたばっかりなので、いろいろ見て回ってるんです!」
ラウルが声をあげて答えると「そうかそうか~」とすぐに頷く。すると、男性はこっちまでやってきた。
「旅人ってことか。せっかく来てくれたんだ、美味いもの食わせてやるよ」
「え?」
男性はこっちこっちと私たちを手招きして呼ぶと、カゴの中身を見せてくれた。見ると、大きなサザエとハマグリが入っていた。
「うわ、美味しそう……!!」
「お、嬢ちゃんわかってるね。これを焼いて酒をやるのが最高なんだ。ちっとまってろ、すぐに焼いてやるから」
すぐに波打ち際から離れた男性は、草木の生える場所まで行って岩を積み上げそこに網をかぶせてあっという間に浜焼きスタイルを完成させてしまった。
とても手際がよくて驚いたけど、すぐに焼け始めた貝の匂いに思わずお腹が鳴った。
サザエもハマグリも、ちょっとお醤油を垂らして食べたら最高に美味しいに決まっている。
「なんていうか、この国の人たちって本当にみんな親切だな」
「うん。私たちが旅人ってだけで歓迎してくれるしね。外の話が聞きたいんだと思うけど、そう簡単にできることじゃないよね」
私たちはさっと足を拭いてから靴を履き、男性のところへ行った。
「へええ、ダンジョンか! 男のロマンだなぁ」
男性に冒険の話をしたら、楽しそうに聞いてくれた。
話したのは精霊のダンジョンのことで、精霊のことは伏せつつ魔物のことや内部の様子、攻略組がキャンプをしているなどを話した。
「俺も若い頃に満月の道を通って外に行こうとしたんだが、駄目だったんだよなぁ」
「そうだったんですね……」
「まあ、今じゃ笑い話さ」
焼けてきたサザエとハマグリに男性が醤油を垂らし、「そろそろ焼けるぞ」と私たちを見た。
「いい匂い……。いいんですか? 本当にいただいてしまって……」
「楽しい話を聞かせてもらったからな。集落は安定して暮らしていけるが、変わり映えがしないからつまらなくてなぁ」
私たちの話を聞けたことが、とても楽しかったようだ。
男性が竹串でサザエの蓋をこじ開け、つるんと身を取り出してくれた瞬間――ラウルが「うわっ」と声をあげた。
「ハッハッハッ、サザエは初めてみたか」
「あ、すみません……」
「いいさいいさ、集落にも嫌いな奴はいる」
……まあ、サザエって見た目が結構グロテスクだもんね。
しかも黒っぽいところは苦いので、サザエのつぼ焼きが嫌いな人はまあまあ多い印象がある。かくいう私もお刺身の方が好きだったり。
「どうする? やめておくか?」
眼前に差し出されたサザエを見て、ラウルはごくりと息を呑む。
「いえ、いただきます……!」
「私もいただきます!」
もしかしたら、ハマグリはサザエが合わなかったときの口直しのため後にしてくれたのかもしれない。
なんてことを考えながら、私はサザエを一口でいただく。ワタが苦いけれど、肉厚で歯ごたえがあって美味しい。
……そういえばサザエの色がクリーム色と緑色なのは、オスメスの違いだって聞いたような気がする。緑色の方が苦かったはずだ。
ちらりとラウルのサザエを見ると、緑色だった。
……頑張れ、ラウル!
「男は勢いだ!」
そう叫んだラウルが、私と同じように一口でサザエを食べた。
モグモグとよく噛んで、一瞬うっというような顔をしたけれど、すぐに思ったより悪くないぞ? というような顔に変わっていった。
「ちょっと苦かったけど、それもアクセントみたいで美味い!」
「おお、このよさがわかるか!」
「わかる!!」
山葵は駄目だけれど、サザエの苦みは問題なかったようだ。
サザエを美味しく食べたラウルは、次にハマグリに目を付けた。が、これは瑞穂の国以外でも見かけるので、ラウルも食べたことはあるだろう。
「そっちは知ってるけど、醤油で食べたことはないな……」
「ハマグリは醤油で食べるのが一番だ」
ほんのちょびっとしか醤油を垂らしていないので、きっと素材の味を引き立ててくれているだろうと私も思う。
ラウルは竹串でハマグリの身を刺して、「いただきます!」と口へ入れた。それを見て、私もハマグリを食べる。
「「ん~~っ、美味しい!!」」
熱くて口の中ではふはふしてしまうけれど、ハマグリの旨味がぎゅっと凝縮されていて、いつまででも噛んでいられそうだ。
……はああぁ、美味しすぎる。
「これもとっても美味しいです!」
「ハッハ、喜んでもらえてなによりだ」
雑談をしながら食べていたこともあり、気づけば夕方になっていた。
男性は集落に帰らなければいけなくなったので、帰っていった。寝床を申し出てくれたけれど、キャンピングカー生活も楽しみたいので今回は丁重に断った。
今日はこのまま休んで、明日になったらまた南浜村に向けて出発だ。




