ラウルの買い物
呉服店を出た私たちは、すんなり都に馴染むことができた。
元々、瑞穂の国の人たちだからといって髪色が黒なわけではない。そこだけはファンタジーなので、金髪で着物やちょんまげの兵士もいるのだ。
……なんだか、ファンタジー版の時代劇って感じ。
ちょっと楽しい気分になりながら、私たちは都を見て回る。
可愛い和小物が売られているお店は、見ているだけでも楽しい。帰るときのお土産にももってこいだ。
「あ! ラウルは帰省したりしないの? 都でお土産を買ったら喜ばれるんじゃない?」
和小物はここ以外で見たことがないので、珍しいはずだ。
「そういえば、しばらく帰ってないな……」
「どれくらい帰ってないの?」
「……俺が一五で村を出たから、四年か」
今のラウルは一九歳なので、つまるところ一度も村へ帰っていないということになる。
「さすがにそれは心配してるんじゃないの? 手紙とかは?」
お節介だなと思いつつも、ついつい聞いてしまう。
「手紙はたまに出してたけど、旅することが多かったから一方的に送るだけだな……。一応、一年に一回くらい送ってるんだ」
「そうなんだ。手紙が来るのは嬉しいけど、ラウルが顔を見せてあげたらもっと喜ぶんじゃない?」
私がそう提案すると、ラウルは少し気まずそうな顔を見せた。もしかして、何か帰りづらい事情があるのかもしれない。
……たとえば、伝説の剣を手に入れるまでとか、Sランク冒険者になるまで帰らない、とか。
男のロマンのようなものが詰まっていて、ちょっといいな、なんて思ってしまう。
しかしラウルの口から出た言葉は、まったく違うものだった。
「あー、冒険者は危険だからって、旅に出るときはかなり止められたからさ。なんていうか、ちょっと帰りづらいというかなんというか」
「それは顔を見せてあげようよ!!」
家族、めちゃくちゃ心配してるじゃん!!
私が食い気味に即答したのを見て、ラウルは「や、やっぱりそうか?」なんて言う。そうに決まってるよ……!
「ただ、俺としてはもっと強くなって大量の土産を持って……でもいいと思ってさ。その方が喜んでもらえると……思って……」
「ラウル、声が小さくなってるから……」
私はやれやれと苦笑して、ラウルに一つ提案をする。
「瑞穂の国の次は、ラウルの故郷を目指してみない? 道中でレベル上げをして、お土産もたくさん買って。きっと喜んでもらえると思うよ?」
「……そうだな。ありがとう、ミザリー。みんなへの土産を選ぶよ」
ラウルはどこか吹っ切れたような顔で告げると、和小物のお店でお土産を選び始めた。
「父さんに、母さんに、姉ちゃんたちと兄ちゃんたち……。でも、ここにあるのは女性向けの装飾品ばっかりだなぁ」
つまみ細工で作られた髪飾りや、小物入れを手に取ってどれがいいか選んでいる。まずは、お母さんとお姉さんたちの土産を買うことにしたようだ。
真剣な目で選んでいる様子を見ると、家族が大好きという気持ちが伝わってくる。
「髪ゴムとかも種類が多いから、いくつか買っていってもいいかもしれないよ。普段使いにすれば、消耗してくるから」
「それもそうだな。もし姉ちゃんたちに子供でも生まれてたら、その子たちにもあげられるし」
ラウルの言葉を聞いて、確かに四年も帰らずだったら知らない家族が増えていても不思議はないなと苦笑する。
「なら、シンプルな髪ゴムだけじゃなくて、お花がついてるやつとかもあると喜ばれるかも」
「確かに。ミザリーにアドバイスしてもらえて助かる」
あれもこれもとラウルは手に取り、楽しそうに選んでいる。
キャンピングカーに荷物を載せられるということもあって、それぞれにつまみ細工の髪飾りと小箱を選び、追加でいくつかの髪留めを購入した。
次に目に留まったのは、酒屋だ。
「ねえねえ、お父さんたちお酒は飲む? 都のお酒って、珍しいんじゃない?」
「都は酒も違うのか……? 確かに父さんは毎晩呑むくらい酒好きだ。兄さんもすぐ酔っ払って笑いだすけど、よく呑むし」
どうやらラウル家の男衆はお酒好きのようだ。
あっさり土産を酒に決めて、ラウルは適当に数本の日本酒に似たお酒をみつくろった。
「すぐに決まったね?」
「酒の好みばっかりは、呑んでみないとわからないからな。だから、何本か買ったんだ。みんなの好む味があればいいけど……」
「あ~、確かにお酒の好き嫌いはあるもんね」
特に都で売っているのは都酒というものだったので、飲んでもらわないとわからないだろう。
この世界のお酒の解禁は二〇歳なので、ラウルが試飲して買うこともできない。乙女ゲームなので、特に必要な設定でない場合は日本の法律に合わせて作られている。
たくさん買ったお酒を一度キャンピングカーに運び入れようかと思い、はたとする。
「待って、一度出てまた入ると、たぶんまた通行料を取られると思う……!」
「あ、そうか! お金に余裕はあるといいつつも、できれば出費は抑えたいもんね。持てない量でもないし、宿の部屋に置いておくのはどうだ?」
「それがよさそうだね。門番が教えてくれた宿に行こうか」
「ああ」
『にゃっ!』
買い物を終えた私たちは、教えてもらった宿屋へ向かった。




