南浜村でお買い物
「そういえば、ミザリーさんは買い物がしたいのだとか。少ないですが、まずはお店にご案内いたしますか?」
「ぜひ! お願いします!!」
紬の言葉に、私は食い気味で返す。
「ふふっ、わかりました。といっても、食事処をのぞいたら金物屋と食品や雑貨を扱ってる商店の二つしかないんです。ほかのものは、店を構えず村の中で売り歩いているんですよ。あ、あんな風に――」
そう言って紬が指差す方を見ると、桶を持った人が「豆腐はいらんかね~」と言いながら歩いているところだった。
すぐ近くの民家から女性が出て来て、「二丁お願い!」と購入している。
「わああ、豆腐も売ってるんだ」
ただ、器を持参しなければいけないようで、今の私では買うことができない。
豆腐はそんなに日持ちもしないため、購入していくというよりは、ここで食べて堪能していく……というのがいいかもしれない。
私がじっと豆腐を見つめていたからか、ラウルが「食べたいのか?」と首を傾げた。
「そりゃあ、食べたいよ! ものすっごく!!」
お味噌汁に入れたいし、醤油をかけてそのまま……というのも捨てがたい。
私がうっとりしながら名残惜し気に豆腐を見ていると、紬が悩みつつも私に提案してくれた。
「すぐに食べるのでしたら、器を借りて購入することもできますよ。器は私があとで返すこともできますから」
「えっっ! いいんですか!?」
私がめちゃくちゃ食いつくように返事をすると、紬はちょっと気圧されつつも笑顔で頷いてくれた。
「次郎さん、豆腐をくださいな」
「おや、紬ちゃん。お使いですかい?」
「いいえ。旅の方で、ミザリーさん、ラウルさん、おはぎちゃんです。ミザリーさんが豆腐を食べてみたいそうで……器も貸していただけますか?」
「構いませんよ」
豆腐売りの男性は次郎というようだ。
豆腐を一丁、お皿に入れて渡してくれた。正方形に切られた豆腐は断面も綺麗で、とても美味しそうだ。
「わあああ、ありがとうございます! おいくらですか?」
「久しぶりの旅人さんだから、お代は結構ですよ。夜の宴会も楽しみにしてますね!」
「え? え? え?」
まさかタダだとは思わず戸惑っていると、次郎は「こっちも豆腐お願い!」という女性の声を聞いて風のように立ち去ってしまった。
「お豆腐は嬉しいけど、いいんですか?」
「っていうか、夜の宴会って……?」
訳が分からず私とラウルが頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、紬が教えてくれた。
「この村に外から人が来るのは珍しいので、お客様がきたときは夜に宴会を開くんです。どんちゃん騒ぎで、大変なんですよ」
紬は楽しそうにクスクス笑う。
宴会を開いてもらうなんて申し訳ないと思ったけれど、外とあまり交流のないこの村の祭りや娯楽のようなものなのだろうと考える。
「なら、ありがたく参加させていただきます」
「ぜひ」
夜は宴会に決定したけれど、せっかくならばそれまでに豆腐をいただきたいと考える。
「紬さん、豆腐を調理したいので……商店に案内してもらってもいいですか? ほかの食材もほしくて」
「わかりました」
案内してもらった商店と金物屋は隣同士だった。
「これは買い物がしやすくていいね」
商店では食料を始め、雑貨類が。
金物屋には鍋や包丁、農業の道具などが取り揃えられている。
「あっ! 飯盒が売ってる!!」
金物屋の入り口近くに置かれていた飯盒に目をつけ、私は持っていた豆腐の器をラウルに押し付けて走り出した。
「ちょ、えっ!? はんごー?」
……飯盒があれば、焚き火で美味しいご飯が炊ける~~!
こんなの、購入する以外の選択肢はない。
「すみませんっ! 飯盒ください! 二つ!!」
私が勢いよく金物屋に入ると、店番をしていた女性が驚いて目をぱちくりさせた。
知らない人間が勢いよく押しかけてきたら、それはびっくりするよね……申し訳ないです。
「えーっと、旅人さん? 飯盒を二つね?」
「はい。ミザリーといいます。今日、来たばかりです」
「そうだったのかい」
なるほどと頷き、女性は奥から飯盒を二つ用意してくれた。
「一つ三〇〇〇ルクだから、二つで六〇〇〇ルクだよ」
「はい」
テッテレー!
飯盒×2を手に入れた!
「は~これで美味しくご飯が食べられる!」
私が飯盒を手にしてクルクル回っていると、やってきたラウルと紬に笑われてしまった。
「それがそんなにすごいのか?」
「そうなの! 後はお米を買って、これで炊けばオッケー!」
「ふふっ、では、商店に行きましょう。お米も売っていますよ」
「はいっ!!」
商店にはお米の他に、季節の野菜や肉などの食べ物類と、食器や草履など雑貨類も売られていた。いわゆるなんでも屋さんに近い。
お米はもちろんだけれど、味噌、醤油、茶葉など、私がほしかったものがたくさん売っている。
「俺は豆腐を持って待ってるから、すぐ必要なものだけ買ってきたらどうだ?」
「ありがとう、ラウル」
私はさっそく店内に入り、「こんにちは」と声をかけた。すると、奥から「はいはい」と返事をしながら店主のお爺さんが顔を出した。
「おや、珍しい客人だね。サザ村からきたのかい?」
「そうです。以前、お米をもらう機会があって、もっと食べたくなってここまで来たんです」
「そりゃあすごい。海を渡ってくるのは大変だったろう」
店主は「ゆっくり見ていっておくれ」と相好を崩した。
「ありがとうございます」
まず購入するべきものは、なんといっても米!
「わ、すごい俵で売ってるの!?」
「量り売りもしておるよ」
「そうなんですね。じゃあ、ひとまずお米一キロと醤油と味醂に……」
とりあえずほしいものを告げていくと、店主が品物を用意してくれる。
「それと、茶葉を……」
「ああ、茶葉か。もう何日か待ってもらえたら、夏の茶葉が収穫できる。よかったら、そっちも味わってほしいねぇ」
「新茶が!? もちろん待ちます!!」
話を聞くと、この村では茶葉も育てていて、名産なのだそうだ。これは後日、購入にこなければいけないね!
目当てのお米の他に、調味料や季節の野菜と豚肉を購入して買い物を終えた。ラウルには多いと驚かれたけれど、これでも必要最低限だ。
「ええと、調理する場所が必要ですね。我が家の厨房をお貸ししますね」
「あ、焚き火で作るので大丈夫ですよ」
私とラウルが荷物をどっさり持っているのを見て、紬が戸惑いを見せた。
紬は装いも綺麗だし、料理は厨房でするものと教えられているのだろう。いや、普通はそう教えられるけれど。
「私たちは冒険者なので、外でご飯を食べることもしょっちゅうなんですよ」
「そうなんですね……」
とはいえ、さすがに紬さんをキャンプ飯に誘うのはいかがなものか。もしかしたら、はしたないと家の人に怒られてしまう可能性もある。
……今回は、ひとまずお礼をしてここで別れるのがいいかもしれない。
「お店を案内して下さってありがとうございます。あとで豆腐の器を返しに伺いますね」
「いえ。また何かあれば、いつでも声をかけてくださいね。夜もお部屋を用意してお待ちしていますから、遠慮なくいらしてください」
「「ありがとうございます」」
紬を見送り、私たちは村の端っこにやってきた。
ここでキャンピングカーを召喚し、遅めのお昼ご飯を作るのだ……!




