サザ村
海沿いを走りながら到着したサザ村は、漁業の盛んな村だった。
「うちの村に旅人がくるなんて、珍しいな」
「魚は美味いから、ゆっくりしていってくれ」
私たちが到着すると驚かれたけれど、村の人たちは温かく迎え入れてくれた。ありがたい。
サザ村は、潮風の匂いのする村だ。
屋根は赤褐色のレンガが多く、建物には統一感がある。
海にはいくつも桟橋がかけられていて、小型の船がいくつもある。あまり沖へ行くことはないようで、近場で漁をしているのだという。
子どもたちは海で遊びながら、潜って貝を取って夕飯のおかずにするそうだ。
「のどかな村だねぇ」
「なんていうか、落ち着くな。人も優しいし」
『にゃう』
私の言葉に、ラウルとおはぎが同意してくれた。
「まずは一休みして、観光かな?」
「そうだな。瑞穂の国に行く船が出てるのかも聞かないといけないし」
サザ村には冒険者ギルドがないので、聞き込みを行うのは主に食堂や宿、村長だ。
道行く人が「村に一軒の食堂が宿もやっているよ」と教えてくれて、私たちはそこへ向かった。
「えぇっ、瑞穂に行きたい? 無理だよ、やめときな!」
「「えっ!?」」
『にゃ?』
食堂兼宿屋で瑞穂の国のことを聞いたら、一蹴されてしまった。
一階が食堂で、二階で数部屋だけ宿をやっているこぢんまりとしたお店だ。
「どうしてですか? 今は船が出てない、とかですか?」
行けない理由が知りたいと例えをあげてみると、女将さんは「そういう問題じゃないんだよ」軽く首を振る。
「瑞穂まで続く海は海流が渦巻いていて、とてもじゃないけど船で通ることはできないんだよ」
「海流が……」
渦潮のようなものだろうかと考え、確かにそれだと小さな船で海を渡るのは無謀だろう。巻き込まれて船が沈没、なんてことになったら笑えない。
……でも、まったく交流がないわけじゃないよね?
精霊のダンジョンで会った冒険者は恐らく瑞穂の国の出身だから、行き来するなんらかの手段はあるはずだ。
「村の人は、瑞穂に行かないんですか?」
「私たちかい? いかないよ! 確かに珍しい調味料や食材もあるけど、なくったって問題はないしね」
「そうなんですか……」
どうやら交流はほとんどないみたいだ。
私がむーんと考えこむと、今度はラウルが口を開いた。
「……でも、瑞穂からサザ村に来るひとはいるんじゃないですか?」
「ああ、たまにいるよ。でも、やってくるのはみんな腕に覚えのある奴だからね」
「瑞穂の人は、どうやって来てるんですか?」
「満月の夜の間だけ、うちの村と瑞穂の間の海の水がさああっと引くんだよ。だから、そこを通っていくんだ」
思いがけない方法に、私は目を瞬く。
……え、それなら簡単に瑞穂に行けそう!
私の顔がぱあっとほころんだのを見た女将が、「歩いたら三日はかかるんだよ」と言った。
「満月の夜しか道はできないから、海が戻る前に近くの小島に避難して次の満月を待たなきゃいけないんだ」
「え、すごく大変じゃないですか……」
満月は一月の間に一日だけだ。
つまりサザ村と瑞穂の国で行き来しようとすると、数ヶ月かかるということだ。私が理解したのを見た女将は、力強く頷いた。
……でも、徒歩で三日でしょ?
「キャンピングカーなら余裕かも」
「だな」
『にゃう』
ぽつりと呟いた言葉に、ラウルとおはぎが頷いてくれる。
私とラウルがニッと笑ったのを見た女将が、「おや」と声をあげた。
「なんだい、何か名案でもあったのかい?」
「私のスキルは、移動に特化したスキルなんです。だから、一晩あれば瑞穂の国に行けると思うんです」
「移動のスキル? すごいものを持ってるんだねぇ。次の満月は三日後だから、挑戦するなら気をつけていっておいで」
珍しいらしく、女将は感心しっぱなしだ。村の北の船着き場横の入り江から出発できると教えてくれた。
瑞穂の国へ行く方法がわかったので、私たちはそのまま食堂で浜焼きを堪能した。
「新鮮な魚介類、最高すぎる……!!」
「美味いなっ!」
『にゃっにゃっにゃっ!!』
貝類を炭火で焼いてくれて、それに少量の塩をかけて食べる。おはぎは茹でてもらった魚を美味しそうに口にしている。
それがとても美味しくて、魚、貝、海老などを漁師から購入した。
***
たっぷり昼寝をした私たちは、満月の夜の入り江へやってきた。ほかに人はおらず、ざざん、ざざん……という波の音だけが響いている。
教えてもらった入江は岩場になっていて、魚が泳ぎ珊瑚が見える。月明かりしかないけれど、昼間に見たらとても綺麗だろうなと思う。
そしてまっすぐ前を見ると、島が見える。あれが瑞穂の国だろう。そしてその周辺にはいくつか小島があり、沖は目視でもわかるくらい海流が渦巻いているのがわかる。
……ここを船で進むのは無謀以外の何ものでもないね。
沈没の文字が脳裏をよぎり、思わず震える。
「でも、満月の夜だけ道ができるなんて不思議な話だな」
ラウルの言葉に、私は頷く。
「海だから潮の満ち引きでそういう現象もあるだろうけど、満月の夜だけだもんね。マナとか、そういう自然界の何かが関係してるのかもしれないね」
現実世界としてここで生きてはいるけれど、元はゲームの世界だ。科学的に証明できないことなんていくらでもあるし、そういう仕様だと言われてしまえばどうしようもない。
風を感じながら海を眺めていると、ふいに波の音が変わったことに気づく。
ざざん、ざざんと聞こえていた波の音が瞬間的に大きくなり、その後ざああああああっと引いていく。
満月の光に導かれるように、海が割れた。
「……すごい」
「なんて、これ」
『にゃうう』
言葉がなくなるとは、まさにこのことだろうか。
私は息を呑んで茫然としたまま、じっとできあがった道を見る。濡れた砂を辿るように視線を動かすと、できあがった道の先は見えないが瑞穂に続いているのは間違いないようだ。
「って、早く移動しよう! 道ができてるのは、夜の間だけだろ?」
「そうだった!!」
道ができている間に渡らなければ、私たちは海に呑み込まれてしまう。
「――キャンピングカー召喚!」




