サラビッタの街
鉱山ウルフを倒した私たちは、出発! ――の前に、レベルアップしたキャンピングカーを確認することにした。
キャンピングカーがレベルアップしたときが、一番ワクワクするね。
「さてさて、二段ベッドはどこに設置されたのかな?」
居住スペースに入ってみると、後ろのトランクスペースに二段ベッドが設置されていた。手前側はキッチンやテーブルなどの生活空間になっているので、寝室スペースと考えたら合理的だ。
二段ベッドは木製で作られていて、マットレスだけ敷いた状態で設置されていた。すぐにでも寝ることができそうだ。
プライバシーを守るため、それぞれカーテンで仕切れるようになっている。スキルなのにきちんと配慮されていて、さすが! と絶賛するしかない。
足元の部分には梯子がついていて、そこから上れるようになっている。屋根には天窓もついていて、上の段でも明るさが確保されている。
「わああぁ、いいね、いいね! 二段ベッドって、なんだか憧れちゃう! カーテンを閉めたら秘密基地っぽいし」
ワクワクが止まらない私の横で、ラウルが「あれ?」と呟いた。
「ここ、野菜を置いてただろ?」
「あっ!!」
そういえばそうだった。
野菜はいったいどこに消えてしまったのかと私が慌てていると、おはぎが軽やかな足取りで上段へと登っていった。
『にゃっ!』
何かを主張するおはぎを見て、私は急いではしごに足をかける。二段程度登れば、上段を見ることができる。
上段のベッドの上には野菜の鉢が並んでいた。
「よかった、野菜は無事だった!!」
私がほっと胸を撫で下ろすと、ラウルが背伸びをして上段を覗いて「本当だ」と笑う。
「天井に窓もついてるし、野菜を育てるのにちょうどいいスペースかもしれないな」
「確かに! ここを野菜スペースにしよう!」
ラウルの案を採用し、キャンピングカー菜園は二段ベッドの上段で行うことにした。
「あ、でもマットはいらないよね」
ベッドにはマットが敷いてあるのだが、鉢もマットの上に乗っている。さすがにマットが汚れてしまうのは避けたいし、何より不安定になる。
急いでマットを外して、鉢をベッドの板の上へ置く。ここなら平らなので、鉢が倒れたりすることもないだろう。
マットはどうしようかと考え、下段のベッドの上に重ねてみた。
薄いマットよりも、厚いマットの方が寝心地はいいはずだ。たぶん。
「どうかな、ラウル」
「いいんじゃないか? 柔らかくて、寝やすそうだと思う」
『にゃん』
ラウルがマットを手で押し、おはぎは楽しそうにコロコロ転がっている。
「なら、ここをラウルのスペースにしようと思うんだけど、どうかな?」
「え、いいのか?」
「もちろん。テーブルとソファをいちいちベッドにするよりは楽だし、寝心地もこっちの方がいいと思う」
「なら、ありがたく使わせてもらう。ありがとう」
これでラウルの寝る場所もきちんと確保できたし、居住空間としてキャンピングカーもだいぶ整ってきたと言っていいだろう。
「二段ベッドの確認もできたし、サラビッタの街に向けて出発しようか」
「おう」
私とラウルが運転席に戻ろうとしたが、おはぎの声が聞こえない。どうしたのかと思いベッドを見ると、おはぎは気持ちよさそうにすやすや眠っていた。
「お昼寝の時間かぁ」
「このまま寝かしといてやろうぜ」
「うん。おはぎを起こさないように、ゆっくり安全運転しないとね」
それから三日ほど車中泊をし、私たちは砂漠の手前にあるサラビッタの街へやってきた。
「キャンピングカーとはいえ、砂漠越えだよね。厚手の外套とかも、用意した方がいいかな」
「そうだな。アクシデントでキャンピングカーの外に出る場合もあるかもしれないし、備えはあっていいと思う」
そんなことを話しながら、街へ入る。
サラビッタの街は、色とりどりのタイルが地面にしかれている街だった。どうやらタイルがこの地の工芸品のようだ。
いたるところに工房があり、タイルを焼いているのが目に入る。
砂漠が近いこともあって、ときおり風に舞って砂が飛んでくる。砂から身を守るため、厚手の外套を着ているひとが多いようだ。
……やっぱり厚手の外套は必要そうだね。
「ギルドで討伐依頼の報告をして、砂漠の情報をもらおう」
「うん」
『にゃっ!』
ラウルの言葉に頷き、まずは冒険者ギルドへ向かった。
「依頼達成、おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
受付嬢が手際よく報酬を準備してくれて、報告はすぐに終わった。
「この先の砂漠に進みたいんですけど、何か情報はありませんか? 砂漠の地図とか、魔物とか」
尋ねると、受付嬢は「えっ」と大きく目を見開いた。
「……ここからの砂漠越えは、お勧めしません。西へ行くと村があるので、そこでガイドを雇ってラクダを借りて越えるのが一般的です」
ロックフォレスの街の冒険者ギルドで聞いたのと同じだった。
少しでも情報があったらよかったのだけれど、全然なさそうだ。私がお手上げだと思っていると、ラウルが質問を口にした。
「ということは、ここから砂漠に行く人はまったくいないんですか?」
「ほとんど人の立ち入りがない砂漠ですから、何か大発見があるかもしれない……と、入っていく冒険者はときおりいます。が、戻ってくる人の方が少ないですね」
「それは……怖いですね」
戻ってこないと聞き、思わず体が震えた。
「砂漠に出る魔物は、砂人形、スコリピオン、砂地獄、ワームです。お二人はランクも高いですし、慎重に進めば問題ないと思います。ただ、砂地獄の罠には気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
要注意と言われた砂地獄は、砂の底に潜んでいて、敵を砂の中に引きずり込む魔物だ。くぼんでいる砂地が罠なので、それに注意して進めば問題ないだろう。
……カーナビで魔物の位置を注意して見とかないと、大変なことになりそう。
私一人だと見逃してしまう可能性があるので、砂漠では絶対ラウルに助手席に乗ってもらってカーナビを見てもらった方がよさそうだ。
冒険者ギルドで情報を仕入れた後は、厚めの外套と食料を買い込んで街を出た。




