鉱山ウルフの討伐依頼
しばらくキャンピングカーを走らせると、カーン、カーンという音が聞こえてきた。鉱山で採掘する音だろう。
音が大きくなるにつれて、カーナビの青丸に近づいていく。
「仕事場の近くに魔物がいたら、安心して作業もできないもんね。よし、頑張るぞ!」
私が気合を入れると、すぐ鉱山ウルフが姿を見せた。
鉱山ウルフは肌の一部が鉱物になっていて、模様のようになっている。目はルビーのような赤で眼光が鋭い。額の中心から背中にかけて、個体差もあるが二~三本ほど鉱石の角が生えている。
……強そう!!
心の中でひええっと叫び声を上げつつ、本当にあの強そうな鉱山ウルフを倒さなければいけないのだろうかと滝汗が止まらない。
一対一でも怖いのだけれど、前を見る限り――ざっと七匹の鉱山ウルフが目に入る。
「多い! 多すぎるよ、ラウル!!」
「うーん、確かにミザリーが戦うにはちょっと多いかもしれないな」
「ちょっとどころではない」
思わず真顔で返事をしてしまった。
私の様子を見たラウルは「そ、そうだな」と笑いながら、名案が浮かんだとばかりにポンと手を打った。
「だったら、何匹かキャンピングカーで倒すのはどうだ? 数を減らせば、俺もフォローしやすいし、ミザリーも戦えると思う」
「それだ!」
ラウルの案に全力でのっかることにして、私はぐっとアクセルを踏み込む。
キャンピングカーで魔物を倒すというのは、轢き殺――キャンピングカーで体当たり攻撃をして吹っ飛ばすということだ。
精霊のダンジョンでは散々キャンピングカーで魔物を倒したので、これくらいならば私にもできる。
「いっけぇー!」
気合の掛け声とともに発進し、その勢いのまま鉱山ウルフを倒す。魔物なので、倒した瞬間、光の粒子となって消える。残るのはドロップアイテムだけだ。
鉱山ウルフが消えた後には、角だった部分の鉱石が落ちている。
私はそのままアクセルを踏み、一匹だけを残してほかの鉱山ウルフを倒した。
「まさか一匹しか残さないとは……」
ラウルの呆れたような声が聞こえたけれど、聞かなかったことにする。私に狼数体を相手にしろというのは、ちょっと無謀だと思う。
ふいに、《ピロン♪》という音が車内に響く。
「あ、レベルアップだ!」
「おおっ!」
『にゃっ!』
キャンピングカーのスキルがレベルアップすると、インパネ部分でその詳細を見ることができる。私はすぐに操作して、確認を行う。
《レベルアップしました! 現在レベル18》
レベル18 二段ベッド設置
「二段ベッド設置!?」
まさかのベッドの設置に驚き、私はバッと後ろの居住スペースを振り向く。いったいどこに二段ベッドが設置されたというのだろうか。
私がソワソワしながら見に行こうとすると、「ちょっと待て」とラウルに肩を掴まれた。
「俺もすごく気になるけど、まずはウルフを倒すのが先だろ? ドロップアイテムの回収だってしたいし」
『にゃうにゃう』
「うっ……。そうだね、先にウルフを倒しちゃおう」
ラウルとおはぎに止められては仕方がない。私は肩を落としつつも、キャンピングカーの外に出て――「ひょえっ」と悲鳴をあげた。
……なんとなく降りちゃったけど、そうだよ外にはウルフがいるじゃん!!
私の冷や汗は先ほどよりも勢いを増し、「ラウル、ラウル~!」と必死にラウルにヘルプを求める。
鉱山ウルフはこちらの様子を窺っているだけで、まだ襲いかかってはきていないけれど、それも時間の問題だろう。
「おはぎは絶対に外に出ちゃ駄目だよ! キャンピングカーの中で待っていてね」
『シャーッ!』
私の言葉に、おはぎはキャンピングカーの中で鉱山ウルフを警戒しているようだ。本能的に、近づくのはよくないと思ったのかもしれない。
……よかった、キャンピングカーから降りた瞬間に襲われなくて!!
「ミザリー、短剣を構えろ!!」
「うあっは、はい!!」
怒鳴るようなラウルの声に、私は反射的に腰に装備していた短剣を鞘から抜いて構えた。
「前に敵がいるんだから、武器はちゃんと構えてくれ……」
「ご、ごめん。うっかりしてた……」
うっかりなんて言葉では済まされないような失態だが、やらかしてしまったものは仕方がない。
運転席から見たときはそこまで気にならなかったけれど、いざ対峙してみると鉱山ウルフの大きさに圧倒される。
体長は約一メートルほどで、凶悪な大型犬をさらに一〇倍くらい凶悪にした感じと例えたらわかりやすいだろうか。
「ラウル、めっちゃ怖いんだけど? 私、戦える気がしない……」
『ガウッ!』
「えっ!?」
私がへっぴり腰で弱音を吐いた瞬間、鉱山ウルフは私を獲物だと認識したのか、思いきり大地を蹴って一気に距離を詰めてきた。
眼前に迫ってくる鉱山ウルフが、まるでスローモーションのように映る。
とっさに構えていた短剣を前に出すと、飛びかかってきた鉱山ウルフの爪に当たった。どうにか攻撃を防げたようで、鉱山ウルフは後ろに跳びのく。
……すごい、攻撃を防げた!
「ミザリー、ウルフが怯んでる! そのまま攻撃するんだ!」
「このまま!? ……っ、やああぁっ!!」
私は勢いよく鉱山ウルフに向かって、短剣を振り上げた。が、鉱山ウルフだって馬鹿ではない。私の攻撃を横に跳んで躱す。
が、私の目はそれを簡単にとらえてしまった。
……すごい、ウルフの動きが見えるし、わかる。
振り下ろした短剣を今度は勢いそのまま横から斜め上へと振り上げる。見事、鉱山ウルフに命中し、倒すことができた。
「倒せた……。しかも、一撃!?」
「やったな!」
無我夢中だったとはいえ、自分がこんな簡単に鉱山ウルフを倒せてしまったことに驚きを隠せない。
私が放心状態で感動していると、ラウルがニッと笑う。
「キャンピングカーであれだけ魔物を倒してるんだから、ミザリー自身のレベルだって上がってるさ」
「そっか、そうだよね」
この世界は元々乙女ゲームの世界なので、レベルという概念自体はあるけれど、ふんわりしているのだ。
だから、自分が強くなったのかどうかは戦ってみて、少しずつ実感していくしかない。
鉱山ウルフが光の粒子となって消えた場所に残った鉱石の角を拾い、私はぐっとガッツポーズを取る。
「よっし、討伐依頼達成!」




