ここからが本当の冒険の始まりだ!
ラウルの言葉に、私は驚いて目を見開いた。
だってまさか、パーティを解散するつもりがないなんて、そりゃあ、ちょっとはそうだったらいいな……と思っていたけれど、あるわけがないと思ってた。
私が驚いたのを見て、ラウルはわずかに唇を尖らせる。
「だって、俺も瑞穂の国に行ってみたいし……」
「それは……次の行き先が瑞穂の国なら、付き合ってもいいとか、そういう話かと思って……」
「いやいや、そんなわけないだろ!」
全力で否定してくるラウルに、私は大きく息をはいた。それはもう、思いっきり。なんというか、緊張が一気にほどけた気がする。
「は~~、なんだぁ、一緒にいてくれるんだ」
嬉しくてへにゃりと笑うと、ラウルもつられたのか笑顔を返してくれる。
「じゃあ……改めてよろしくね、ラウル」
「ああ。よろしく、ミザリー」
『にゃっ!』
「「おはぎも!」」
ここでお別れかと思ったけれど、私たちの旅はまだまだ続く――いや、むしろここから私たちの冒険がスタートする……!!
***
私、ラウル、おはぎで街へ買い物に出た。
瑞穂の国に向けて出発する前に、食料などを買うためだ。これはいつも行なっていることで、肉や野菜などの食品を買うのが主だ。
しかし今回は、それだけではない。
「キャンピングカーで植物を育てよう!」
「野菜を育てることができれば、最悪の飢え死には回避できるからな」
『にゃうにゃう』
私とラウルが話すのを、おはぎがラウルの頭の上で聞いてくれている。
キャンピングカーで野菜を収穫できれば、ダンジョン内や街が近くにないときでも新鮮な野菜を食べることができる。
体が資本の冒険者にとって、かなり大事なことだと思う。これは、精霊のダンジョンで一緒だったフィフィアが「とても大事なことよ!」と力説していたのを覚えている。
新しい試みにルンルン気分の私は、そういえばとラウルを見る。
「ラウルって、野菜を育てたことある? ……私は、トマトくらいなら……」
トマトはトマトでも、前世の日本人時代、小学校で育ててみよう! という授業の一環で育てただけだ。
正直に言って、専門知識のようなものはほとんど持ち合わせていない。
「俺は出身が田舎だからな。兄妹も多かったし、庭に結構大きい畑があって、いろいろ育てたぞ」
「へえぇ。確かに家族が多いと、食料が大変そうだよね。何人兄弟なの?」
「姉が三人と兄が二人で、俺が末っ子だな」
「え、六人兄弟!? すごっ!!」
大家族だ!
「賑やかで楽しそうだねぇ」
転生後の私は家族に恵まれなかったこともあり、そう言葉をかけたのだが……ラウルの顔は曇ってしまった。
「……まあ、家族が多いのは楽しいよ。でも、田舎だからな。王都や大きな街みたいに騎士や兵士がいるわけじゃないし、結構大変なんだ」
「そっか……。村だと、魔物が出たときとか大変だもんね」
安易に楽しそうでいいなと思ってしまったけれど、田舎には田舎の大変さがあるのだろう。もしかしたら、ラウルはそういったところもあって冒険者を選んだのかもしれないね。
少ししんみりしてしまったが、タイミングよく雑貨屋に到着した。庭先で育てる程度の苗ならば、雑貨屋の片隅で売っている。
「……で、何を育てるかだな」
「ラウルが経験者だから、なんでもいける気がする」
「あんまり期待しすぎないでくれ……」
ラウルは苦笑しつつ、どんな苗があるか見ていっている。今は初夏ということもあって、苗といいつつ結構育ってきている。
……これなら、すぐ収穫までいけるかも。
「トマト、キュウリ、ピーマン、ナス、オクラ、カボチャ……結構いろいろあるな」
ラウルは苗を見比べて、「どれも悪くなさそうだ」と言う。
「この中の苗だったら、どれでも大丈夫そう?」
「そうだな。苗からだし、そこまで難しくはないと思う」
となると問題は、栽培スペースだろうか。
キャンピングカーもレベルアップしたとはいえ、ものすごく広いというわけではない。そんなにたくさんの野菜を育てることはできないだろう。
私は悩んだ末、「そうだ!」と閃いた。
「私とラウルで、それぞれ野菜を一つ選ぶのはどう? それで、二種類育てるの」
「いいな、それ!」
賛成してくれたので、私はすぐさまトマトを手に取った。
なんといっても彩を考えたら、トマト! トマトは生でも焼いても茹でても美味しいし、お手軽なのに優秀なのだ。
「決めるのはやっ! じゃあ……俺は……これかな?」
ラウルが少し悩んだ末に手に取ったのは、オクラだ。
オクラはレンジでチンすれば手軽に食べられるし、あのネバネバ具合も私は結構好きだ。いいと思うと頷く。
「オクラ好きなんだ?」
「いや、特別好きってわけでもないけど……オクラは成長が早いだろ? どんどん収穫できるから、ダンジョンなんかだと重宝すると思う」
「なるほど……!」
逆にカボチャみたいに収穫量があまりないものは、最初に育てる野菜としては向いていないかもとラウルが告げる。
成長速度や量はあまり考えていなかったけれど、確かにダンジョンなどで食べるために行う家庭菜園なら大事なことだ。
……トマトもピッタリじゃん!
「じゃあ、最初のキャンピングカー菜園はトマトとオクラで決定!」
「おう!」
『にゃっ!』
トマトとオクラの苗を三つずつと、それを植えるための鉢とジョウロを購入した。




