プレゼント探し
「でも、プレゼントか……」
『にゃにゃ~』
私は大通りを歩きながら、どうしたものかと考える。
転生してから、誰かに贈り物をしたことがなかったので、どんなものをあげたらいいかいまいちピンとこない。
……私だったら、キャンプ用品をもらえたら舞い上がるけど……。
たぶんラウルはキャンプ用品でそこまで喜ばないような気もする。
「冒険者だから、回復アイテムや装備とか? でも、こだわりがあるかもしれないよね」
普段から使うアイテムはある程度決まっているだろうし、装備は使用感なども大事だろう。
逆に気を遣わせて、使いやすくない装備を使うラウルが想像できてしまう。
……それは駄目だ!
「となると、やっぱり日用品とかかな? ……でも、私と別れたら荷物をキャンピングカーに積めないから、重かったりかさばったりするものは駄目だ……。難しいねぇ、おはぎ」
『にゃうぅ……』
私の声のトーンが落ちたからか、おはぎの声もどことなくしょんぼりしている気がする。
そんなことを考えなら歩いていると、ふと宝石店が目に留まった。
「あ、これって……」
ショーウィンドウに飾られた装飾品に、私の目は釘付けになった。
「ロックフォレス鉱石のお守り石だ!!」
『にゃ?』
「あ、おはぎは知らないよね。この鉱石は、ロックフォレスでしか採掘できない石なんだよ。今は単なるお守りとして流通してるけど、ゲームでは装備すると防御力が少しだけ上がるんだよね」
ただ、本当に気持ち上がる程度なので、ものすごく効果を実感することは難しいだろう。そのため、売り文句がお守りなのだ。
私はショーウィンドウに飾られているロックフォレス鉱石のネックレスの値段を確認する。
「えっ、一万三〇〇〇ルク!? やっす!!」
あまりの安さに声をあげてしまい、私は慌てて口を手で押さえる。道行く人に見られてしまい、恥ずかしい。
……この鉱石、王都で買ったら五倍くらいの値段なのに!
そう思ったけれど、ロックフォレスと私が暮らしていたリシャール王国の王都は距離がある。この世界では交通手段が限られているため、輸送の問題もあるのだろう。
「でも、このお守りならプレゼントにピッタリかも」
私はラウルに似合うのを見つけるぞ! と意気込んで、店内に入った。
店内には、色とりどりの宝石をあしらった装飾品が多く並んでいる。
床は石のタイルがお洒落に敷き詰められ、壁は木製。黒に近い鉱石が台座として使われており、その上に商品が並べられている。
落ち着いたスーツ姿の店員に、上品なマダムといった客層が多い。露店ではなく店舗ということもあって、ゆったり買い物をする人向けのようだ。
そして一角には、ロックフォレス鉱石を使ったお守りの装飾品コーナーがあった。
ロックフォレス鉱石のお守りは、ネックレス、指輪、イヤリング、ブレスレット、ブローチの装飾品として売られている。
ロックフォレス鉱石は艶々の石で、黒に近いものから白に近い明るいものまで、数種類の色味がある。
「綺麗だねぇ、おはぎ」
『にゃ』
私はラウルに似合うのは何色だろうとロックフォレス鉱石を見ていく。
普段のラウルは白を基調に、ブラウンを取り入れた服を着ている。差し色として深い緑色がはいっていて、比較的落ち着いているだろうか。
「――あ、この色いいかも!」
目を付けたのは、赤色のロックフォレス鉱石だ。
落ち着いた雰囲気のラウルのアクセントにもなって、よいのではないかと思う。
「あとはどの装飾品にするか、だよね。指輪は剣を使うことを考えると、微妙かな? グローブをつけてるから、腕輪もやめた方がいいだろうし。そうなると、やっぱりネックレスかな?」
イヤリングにしたら戦闘中に耳から落ちそうだし、ブローチはどちらかといえば女性がつけることを想定したデザインが多い。
「よし、ネックレスにしよう!」
赤いロックフォレス鉱石のネックレスを購入し、私は店を後にした。
宿に戻ってさっそくラウルにプレゼントしよう! と思ったのだけれど、ラウルはまだ戻ってきていなかった。
「……どこにいってるんだろう?」
夕食は一緒に食べる約束をしているので、そこまで遅くはならないだろうけれど……初めて来た街ということもあって、少し心配になる。
すると、足元にいたおはぎが『にゃうにゃう』と私に呼びかけてきた。どうやらお腹が空いているみたいだ。
「そうだね、おはぎのご飯の時間だもんね」
私は用意していた茹で鶏肉をお皿によそい、おはぎの前に置いてあげる。
すぐにはぐはぐっと食べ始めて、美味しいと尻尾をゆらゆら揺らしてくれる。おはぎが美味しくご飯を食べてくれるのが、私も最高に嬉しいよ……!
にこにこ顔でおはぎがご飯を食べているのを見ていると、部屋にノックが響いた。
「ミザリー、帰ってるか? ラウルだ」
「あ、おかえりラウル――って、何それ?」
ラウルの声にすぐさまドアを開くと、何やらとても大きなものを抱えている。木製のもので、取っ手が付いている箱……? という感じだろうか。
私が思わずガン見していると、ラウルの「置いてもいいか?」という声にハッとする。
「もちろん! どうしよう、机の上がいいかな?」
私がドアの前からどいて部屋に招き入れると、ラウルは頷いて持っていたものを机の上に置いた。
すると、ちょうどご飯を食べ終わったおはぎが、興味津々とばかりに机の上に飛び乗ってきた。ラウルの持ってきたものの匂いをふんふんかいでいるみたいだ。
「ラウル、これはいったい……?」
私が首を傾げて問いかけると、ラウルは少し照れた様子で口を開いた。
「ミザリーにはいろいろ世話になってるだろ? ポーション代金の支払いも待ってもらってたし。お礼にと思って、作ったんだ」
「えっ!?」
まさかの私へのプレゼントだったようだ。
驚いて、ラウルと木箱を交互に見てしまう。
「これは、俺なりに考えたキャンプ道具なんだ」
「詳しく」
ラウルの言葉が耳に届いた瞬間、私は食い気味で説明を求めた。




