新たな手掛かり
冒険者ギルドではウルフやスライムを倒したドロップアイテムを売り、新しく討伐依頼を受けた。
討伐する魔物は鉱山ウルフという魔物で、この周辺に生息している。身体が硬く、ある程度の力がなければ倒せない魔物だ。
「……よしっ! 冒険者として、頑張らなきゃだね!」
「ミザリーもだいぶ戦闘に慣れてきたから、キャンピングカーから降りて戦ってみるのもいいかもしれないな」
「ふぁっ!?」
ラウルの言葉にドキッと心臓が跳ねる。
私はスキルのキャンピングカーで魔物を轢き殺……体当たりをして倒していたので、自分で武器を持って戦うという経験はあまりない。
……でも、冒険者として今後も活動していくんだもんね。もしかしたら、キャンピングカーでは通れない細い道だって出てくるかもしれない。
そのとき魔物が怖くて戦えない、先に進めないでは困るのだ。
「が、がんばる……!」
『にゃにゃっ!』
「おう! 頑張ろうな!」
私がぐっと拳を握って答えると、おはぎとラウルが応援してくれる。それに安堵しながらも、しばらく心臓のバクバクは落ち着かなかった。
……だって、鉱山ウルフなんて名前からして強いに決まってる……!!
ジュワアアァッと肉の焼けるいい匂いに、無意識のうちに頬が緩む。
目の前にドドンと鎮座しているのは、ニンニクたっぷりの分厚いステーキ。マッシュルームポテトサラダに、ゴロゴロ野菜と牛肉のパイ包みに、テールスープに……あとは冷たい果実水。
「はあぁん、美味しそうな匂い! キャンプ飯もいいけど、たまには外食もいいよね」
「キャンピングカーにキッチンがあるとはいえ、食料も限られてるし、作れる料理にも制限があるからなぁ」
「うんうん。料理の幅を広げられないか、もっと考えていきたいけど――今はそれよりご飯を食べたいっ!」
手を合わせて「いただきます」と、さっそく食べ始めた。
かぶりついたステーキは肉汁たっぷりで、歯ごたえもある。分厚い肉にはロマンが詰まっているけれど、焚き火調理だとなかなか難しい。
……じっくり時間をかけて焼けば大丈夫かな?
私がそんなことを考えていると、ラウルが「どうしたんだ?」と私を見る。
「外で、もっと料理の幅が広がればいいなぁと思って」
「ミザリーの飯は今のままでもじゅうぶん美味いけど、まだまだ進化させるつもりか?」
「そりゃあね! 料理道具はもちろんだけど、調味料なんかも増やしていきたいと思ってるよ」
「なるほど……」
感心した様子のラウルは、頷きながら「俺も何か協力できたらなぁ」なんて言ってくれている。
ラウルは私のキャンプ欲にも嫌な顔一つせず付き合ってくれて、とても優しい。
「とりあえず、今はお米やその他の調味料のために……東の国だね」
「明日、街で聞き込みをしてみよう。もしかしたら、知ってる人がいるかもしれないからな」
「うん」
大きく頷いた私は、明日の情報収集のための腹ごしらえだ! と、さらにお肉をほおばった。
***
「東の国? ごめんなさい、わからないわ」
「米? 聞いたこともないな」
「黒っぽい調味料? それって食べても平気なの?」
「ん~~~~……」
翌日。
おはぎを頭に乗せつつ街で聞き込みを行ってみたが、あまり感触がよくない。
私がさっそくへこたれそうになっていると、「そもそも」とラウルが苦笑しつつ口を開く。
「東にあるっていうだけで、東の国っていう名前じゃないだろうしな」
「それ!」
そう、問題はそこなのだ。
東の方にある国で、お米がある。というのが手掛かりなのだけれど……この世界はあまり情報網が発達していないので、遠くの場所の情報を手に入れるのが難しい。
どうしたものかと考えて、私はふと、逆にここまで知られていないのはなぜだろう? という疑問が浮かぶ。
「ねえねえ、いくら遠いとはいえ……移動手段がまったくないっていうわけじゃないよね? それなのに知られてなかったのは、どうしてだろう」
「確かに。遠くても、大きな街の情報はある程度入ってはくるし……あ! もしかして、遠いだけじゃなくて、行きづらい場所なんじゃないか? だから、米とか、そういう情報が入ってこないんだ。行きづらい場所っていう条件なら、何か情報を得られるかもしれない」
「なるほど!!」
情報がこないほど辺鄙……もとい行きづらい場所であれば、可能性はありそうだ。
「昨日ギルドで聞いたときは情報がなかったけど、もう一回聞いてみてもいいかもしれないな」
「うん。さっそくギルドで聞いてみよう!」
お米――もとい東の国への光が見えてきて、私の足取りは一気に軽くなった。
「東にある、行きづらい場所?」
冒険者ギルドの受付嬢に確認すると、すぐに周辺の地図を出してくれた。とはいえロックフォレスの近辺だけなので、私たちの目的地までは載っていない。
「……だったら、砂漠の向こうかしら?」
「その向こうにも街があるんですか?」
受付嬢の言葉を聞き、私はカウンターに身を乗り出す勢いで地図をガン見する。
今いるロックフォレスの街を越えると、隣国のヘリング王国に入る。そこをさらに北に進むと村と街があるのだけれど、その先が砂漠になっているのだ。
その砂漠は陸地を横断する形で広がっていて、砂漠の向こう側は地図に記載されていない。
「でも、これだけ広い砂漠を越えるのは大変じゃないですか?」
真剣な表情で地図を見ているラウルが、問題点を指摘した。
砂漠を越えるとなると、数日……下手したらもっと日数がかかってしまいそうだ。
すると、受付嬢は砂漠の西側を指さした。
「この部分は砂漠の面積が少ないんです。なので、砂漠を越える場合は遠回りになってしまうけれど、このルートを使うのが一般的ですね。間違っても、サラビッタの街から砂漠に入ったら遭難しますよ」
「……あ、西側だけすぐ砂漠が終わるんですね」
「ええ。といっても、ラクダを使ったとしても最低一日はかかる道のりよ。砂嵐もあるし、ガイドを頼んでも最低二日はかかると思うわ」
「ひえ……」
砂漠の恐ろしさに、思わず息を呑む。
……転生前も、砂漠とは無縁だったからなぁ。
なんなら、鳥取砂丘にだって行ったことがない。キャンピングカーが走れるのかどうかも、現時点では未知数だ。
「この砂漠が、行きづらい場所ってことですね」
「あ、違うわよ」
「え?」
砂漠を越えたらそこは東の国……! と思って聞いてみたが、どうやらそうではなかったようだ。
「砂漠を越えた向こうにも、街や村はあるわ。最北にサザという村があるのだけれど、そこから行ける離島――瑞穂の国が行きづらい場所なの」
「離島!?」
思いがけない場所に、私は思わず声をあげてしまった。




