新たな街ロックフォレス
「ふんふふ~ん♪」
鼻歌を口ずさみながら、私はキャンピングカーを飛ばす。
目指す目的地は、この先にあるロックフォレスという街だ。ここは隣国ヘリング王国との国境境にある街で、いつも賑わいを見せているとラウルが教えてくれた。
そのラウルとおはぎはキャンピングカーの居住スペースにいて、街に着いたら売る予定の魔物のドロップアイテムの確認をしてくれている。
「ふんふ~♪ 新しい街、楽しみだなぁ」
どうしようもなくウキウキしてしまうが、それも致し方ない。
今の私には、壮大な目標があるのだ。
それは、お米――和食を味わうということ!
元日本人の私が転生したこの乙女ゲーム『光の乙女と魔の森』の世界は、いわゆるヨーロッパ風のファンタジー世界だ。
そのためお米や醤油などの日本食を得ることは難しいと思いつつ夢見ていたのだけれど……ついに発見したのです!
精霊のダンジョンで出会った冒険者が、食事のお礼にとくれたものが――お米だった!
そのときの私の舞い上がりようには、ラウルたちを驚かせてしまったかもしれない。だけど、私はそれほどお米を渇望していたのだ。
なんでもその人の故郷では普段から食べていたけれど、料理が苦手でご飯を上手く炊けず、料理が好きな私にくれたらしい。
……ということがあって、私はすっかり和食を堪能したくなってしまっていた。
「でも、浮かれすぎてたとはいえ……故郷の名前を聞き忘れるなんてやらかしたなぁ」
我、愚かなり。
ただ、その故郷は東の方にあるということだけはわかっているので、キャンピングカーを東に向けて走らせているというわけだ。
かなり遠い場所にあるらしいけれど、この世界の一般的な移動手段は馬車・馬・徒歩。対する私はキャンピングカーなので、移動速度には天と地ほどの差があると考えていい。
「きっと、東の国にもすぐ着くはず」
かなり楽観視しながらキャンピングカーを走らせていると、街が見えてきた。
「お、あれが国境の街ロックフォレス!」
すぐ横に山があり、その山が隣国との境界線の役割をしているのだという。岩肌が多い部分と、木々の茂っている部分がある。
「おもしろい山だね」
「お、ロックフォレスが見えたか」
「うん。もう少ししたら、キャンピングカーを下りて歩いて向かうのがいいかも」
「だな」
私の提案に、ラウルが頷く。
隠しているわけではないけれど、キャンピングカーは珍しいため街の近くでは出さないようにしている。
「ロックフォレスには、どんなキャンプ用品があるんだろう」
「ミザリーの期待はそればっかりだな。ロックフォレスは鉱石と木の質がいいって聞くから、工芸品なんかも多いらしいぞ」
「へええ、それは期待できるね」
木であれば机や椅子、食器類が思い浮かぶ。鉱石ならば、包丁やナイフ、串などを買うことができるかもしれない。
ん~~、楽しみすぎる!
***
ということで、やってきましたロックフォレス!
ロックフォレスの外壁は石壁でできていて、端がそのまま岩山に続いているという不思議な街だった。
建築資材は鉱石と木材の両方が使われていて、頑丈そうな建物が並んでいる。
そして特徴的なのは、家の窓とは別に、飾り窓としてステンドグラスが使われているところだ。いろいろなガラスを組み合わせていて、石造りの武骨な部分が一気に華やいで見えた。
「わあぁ、今まで行った街とはまた違った趣があっていいね」
「俺も実際に来たのは初めてだけど、なんだか面白い街だな」
『にゃうにゃう』
ラウルとおはぎも興味津々といった様子で、街を見回している。
「っと、先に冒険者ギルドでアイテムを売ろう。そしたら宿を取って、飯だな」
「オッケ!」
冒険者になった私たちは、魔物を倒して得たアイテムを売ったり、冒険者ギルドの依頼を受けたりして生計を立てている。
……どうせなら、東の国へ行く方面の依頼があったらいいなぁ。
そんなことを考えながら、私たちは冒険者ギルドへ向かった。




