楽しい時間
「ラウルの完全復活を祝って、乾杯!」
「「『乾杯!』」」
『にゃっにゃっ!』
カチンとグラスのぶつかる音を聞いて、私は一気に果実ソーダを飲み干す。お酒じゃないのが残念だね。
「ラウルの腕が元通りになってよかったわ。今後も冒険者を続けるんでしょう?」
「ああ、そのつもりだ。これからはどんどん稼がないとな!」
ラウルはぐっと腕に力を入れて、今後のことをフィフィアに話している。
「確かに、稼がないと大変そうね」
そう言ったフィフィアは、なぜか私を見た。
『それより! エルフ――フィフィアは本当に私の側にいるの? 嘘だったら承知しないわよ!』
「精霊様のお側に仕えさせていただきます」
『そ、そう! ならいいわ。ここは誰も来なくて、とても寂し――暇なのよ。だから、フィフィアがいるなら丁度いいわ!』
どうやら精霊は寂しがり屋さんみたいだ。
私はみんなの会話を微笑ましく思いながら、ちょうどできあがったローストチキンを鍋から取り出す。
途中で何度かオリーブオイルを塗り直したので、表面の皮はパリパリに焼き上がっている。
ナイフを入れてみると、パリッという音がした。
「うわ、美味そう!」
「今回は力作だからね。なんと中には……じゃーん!」
「「具が入ってる!?」」
私が鶏肉を切ってみせると、ラウルとフィフィアが驚いた。ただ鶏肉を丸ごと焼いただけだと思ったのだろう。
「中にはご飯と野菜が入ってて、鶏のうま味をたーっぷり吸ってるはず!」
つまりどう足掻いても美味しいのが決定しているということです。
まずは本日の主役、ラウルに食べてもらう。
食べやすいサイズに切ってあるので、スプーンですくって口に含んだ。ラウルは味わうように食べていたが、カッと目を見開いた。
「あ~も~~、美味すぎる!! 毎回、ミザリーの料理でこれが一番、最高! って思ってるのに、何回それを塗り替えられたか……」
ラウル曰く、私の料理はいつも美味しいの限界突破をしているらしい。
「しかも今度は鶏を丸ごとだもんな……。皮はパリッとしてるのに、肉の部分は柔らかくて……何より鶏の味が染みついたこのご飯が最高に美味い……!!」
「ラウルにもお米のよさがわかってもらえてよかったよ」
最後のお米を全部投入しただけはあるね。
「ミザリーの料理のレパートリー、すごすぎだよな」
「私も美味しいもの食べるの大好きだからねぇ」
つまるところ、自分のために覚えたスキルというわけだ。
『ちょっと、私にもその美味しそうなのちょうだい!』
「はい、どうぞ」
精霊は何も食べないのかと思ったら、食べなくても大丈夫だけど食べても大丈夫らしい。つまりどっちでもいいと。
それなら食べたくなる気持ち、よくわかります。
精霊だけではなく、フィフィアにも料理を渡す。
二人で一緒に口に含んで、顔を見合わせて「『美味しい~!』」と声をハモらせている。
『あなた、ミザリーだったかしら! ここに残って私に仕えてみない!?』
「それは料理人って言うんですよ精霊様……」
私の腕を買ってくれるのは嬉しいけれど、残念ながら誰かに仕えるつもりはない。
「私はキャンピングカーで旅をするので、ここには留まりません。すみません」
『残念……。でも、たまには遊びにきてくれると嬉しいわ!』
「それは、もちろん」
「俺も遊びにくるよ!」
フィフィアと精霊に会うために、時折ここに来るのもいいだろう。
「それはそうと……ミザリー、おかわりを頼む」
「オッケェ……!」
ローストチキンはたっぷりあるので、お腹いっぱいになるまでおかわりしてほしい。
ラウルによそって、私も自分で食べる。
お米の美味しさが体に染みていくかのよう……。
ふいに、上からキラキラしたものが降り注いだ。
「あ、聖樹から落ちた光なのか……」
私は寝転がるようにして、空――天井を見る。
そして無意識のうちに、心の中で祈った。
こんな幸せな時間が、ずっとずーっと続きますように――と。
***
「「数日間、お世話になりました!」」
私とラウルは、数日間だけ神殿に滞在した。
主に汚部屋を片付ける手伝いです。大変だったよ……。
「ミザリー、ラウル、本当にいろいろありがとう。こんな形の別れになるとは思わなかったけど、元気でね」
「フィフィアもね。たまに遊びにくるから」
「まさか精霊様と一緒に暮らすとは思わなかったけど、フィフィアなら上手くやれるさ」
「ありがとう、二人とも」
ほっとした表情で微笑むフィフィアに、実は食事のことだけ気がかりですとも言えない。解決方法が思い浮かばないから、現時点ではどうしようもないのだ。
この階層は畑などもあるみたいなので、ぜひとも料理を覚えていってほしい……。
『二人とも、世話になったな。これは……餞別よ。受け取りなさい!』
精霊はツンツンした態度で、エリクサーを渡してきた。
「え、こんなすごいものを貰っていいんですか?」
「片付けの手伝いしかしてないのに、もらいすぎです」
私とラウルが焦りつつ告げると、精霊は『いいのよ!』と頬を膨らませる。
『だから、そのお礼に来なさい! 今度は、違う料理にするのよ!』
「――! はい、わかりました」
精霊の言葉に、私とラウルは笑う。
こんなすごいものをもらったら、定期的に来なければいけなさそうだ。そのときは、たくさんのお土産を持ってこよう。
『おはぎも元気に過ごすのよ!』
『にゃ!』
サイズが同じくらいだからか、おはぎと精霊はいつの間にか仲良くなっていた。
「じゃあ、私たちもそろそろ行きますね。フィフィア、精霊様、ありがとうございました!」
「また遊びに来ます!」
「待ってるわ!」
『あなたたちなら、いつ来ても歓迎してあげるわ!』
フィフィアと精霊に別れを告げて、私たちはキャンピングカーに乗り込んだ。
ブロロロ……と走らせて、私はラウルとおはぎを見る。
「楽しかったね」
「ああ。次はどこに行くか、楽しみだな」
『にゃ!』
次の目的地はまだ未定だけれど、この精霊のダンジョンのように、わくわくドキドキする場所がほかにもあるのだろうと思う。
ラウルとおはぎと一緒に行ったら、きっと楽しいだろう。
「よし、ひとまず街に向かって出発!」




