命の雫
命の雫は、精霊にとって命の次に大切なものだ。
本来ならばなくすことはあり得ないのだけれど……まあ、そういうこともまれにあるんだろう。
『また、命の雫をこの手にできるとは――』
精霊が左手の中指にはめると、精霊の足元から世界の色が変わった。
「「「――!?」」」
『にゃにゃっ!?』
薄青だった神殿の床や壁は、薄青に白金が加わったような色になった。
さらには劣化していた建物がものすごい勢いで修繕されていき、欠けた壁やヒビなどがみるみるうちに修復されてしまう。
それは扉の外にも続いていて、私は思わず後を追う。
扉の外に出ると、あふれ出た光が枯れた草花を復活させていた。
まるで奇跡の魔法だ。
「うわ、あ……すごい」
感動して言葉にならない。
光が端の壁までいくと、今度は壁を登って天井へ行った。そのまま中心――私たちがいる場所に、天井の光が戻ってこようとしている。
光が星になってふりそそぐ、そう思った瞬間――ぱあっと天井の中心が芽吹いた。
「え? どういう――あ、あれって、聖樹?」
天井の中心から木が生えてきた。
あっという間に成長し、葉をキラキラと輝かせている。大きさは、一般的な街路樹と同じくらいだろうか。
……成長が止まったのは、精霊の力が足りなかったからだろう。
現に、精霊は悲しそうな顔で天井を見上げている。
『この程度しか成長しないのね』
苗木を渡すのはまだ先になりそうだと、精霊が呟いた。
***
「ミザリー、やっぱり俺も手伝うって」
「今日はラウルの快気祝いなんだから、駄目だよ! 焚き火の前でのんびりしてて!!」
今日も今日とて焚き火をした私です。
全快したラウルのお祝いに、今からご馳走を作るのだ。
ラウルにはのんびりしていてもらうために、焚き火を用意した。これを眺めているだけで、何時間でも時間を潰せるはずだ。
そして私の椅子もかしてあげているので、ゆったりすごせるだろう。
空を見上げるときらめく聖樹。
こんなすごい環境で焚き火ができるのは、最初で最後かもしれないね。
「ラウルは今回のスペシャルな焚き火を、これでもかっていうほど堪能してね!」
「お、おう……」
私はおはぎと一緒にキャンピングカーのキッチンにやってきた。
キャンピングカーは、神殿の階段下のスペースを借りて停めている。
「まさか、丸ごと使う日がこようとは!!」
私は冷蔵庫から、一羽分をまるごとかったニワトリを取り出した。下処理は綺麗におわっているので、これを調理するのだ。
「お米が少し残っててよかった!」
鶏肉を綺麗に洗って水けを拭き、にんにくと塩を表面と中にもよく塗りこんでいく。擦り込むようにするのがポイントだ。
次は具材。
炊いたご飯に、キノコ類、野菜類、軽く砕いたナッツ類をフライパンで炒める。味付けはシンプルに塩コショウ。
炒めたらそれを鳥の中に入れて、全体にオリーブオイルを塗る。
「あとはこれを鍋に入れて、ダッチオーブン風にして一時間弱焼いたら完成……!」
途中でオリーブオイルを塗り直す手間などはあるけれど、あとは焼くだけなので簡単だ。
これはせっかくなので焚き火で焼く。
「ラウル、今日のメインを焚き火にかけとくね」
「お? なんだかでっかい鍋だな」
「このまま一時間弱お待ちくださ~い」
ワクワクしてるらしいラウルに、私は完成時間を告げる。すると、「そんなに!?」と衝撃を受けている。
「待てるかな……。ミザリーの料理は全部美味いから、焚き火の前でいい匂いがしてきたら拷問だ」
「大袈裟だよ」
「全然! 大袈裟じゃない! って、もういい匂いがしてきた」
同時に、きゅるるるる~とラウルのお腹が可愛らしく鳴った。
焚き火の見張りをラウルにお任せしている間に、私はキッチンで野菜たっぷりのポトフを作った。
それが終わったら、次はおはぎのご飯だ。
今日はご馳走なので、おはぎにはお肉と一緒に猫が食べても問題ない野菜を一緒に盛りつけてあげる。おはぎが気に入っていたので、ティアーズフィッシュも少し加える。
「うん、こっちも美味しそう」
楽しく料理をして、フィフィアと精霊を呼びにいけば、あっというまに料理が完成する時間になった。




