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最深部

 今日は九層の広場で休み、明日になったら一〇層に――そう思っていたけれど、次が最深部かもしれないと言われたら、気になってしまって仕方がない。

 ……この先に、エリクサーがあるかもしれない。


 知らずのうちに、私の喉が鳴る。


「す、少しだけ様子を見てみるのはどう? 攻略は明日にしていいけど、気になる」


 私がそう提案すると、ラウルとフィフィアも頷いた。

 二人とも、この先がどうなっているのか気になっているのだろう。


「おはぎ、絶対に私から離れないでね。肩に乗ってて」

『にゃ!』


 おはぎを見ながら自分の肩をとんと叩くと、おはぎが軽やかに跳び乗ってきた。この仕草だけでわかってくれるのだから、おはぎは賢い。


 まずはフィフィアが先頭を歩き、その後ろを私とラウルが並んでついていく。

 今までは一直線の階段だったけれど、今回は螺旋階段だ。材質も、階段の形状も、今までとは違う。


 ただ、階段自体はそんなに長くはなかった。


「ここが、最深部……?」


 降り立った場所は、雰囲気こそ今までと同じだったけれど――天井までの空間が高い。

 そして一番違う点は、今までの迷路のような通路ではなくなっていたことだ。

 見渡した先には大きな神殿のようなものが見え、道こそあるが、壁などはない。今は神殿の庭に立っているような感覚だ。


「もしかしたら、あそこに精霊がいるのかもしれない」

「――! 精霊なら、エリクサーのことも知ってるかな」

「本当に精霊がいて、意思疎通ができるなら……聞いてみる価値はあると思うわ」


 フィフィアの呟きに私が問いかけると、頷いてくれた。


「一度戻って明日攻略って思ったけど……」

「こんなすごい場所じゃ、行きたくなるよな……!」

「だよね……!」


 私がうずうずっとすると、目を輝かせたラウルが賛成してくれた。やはり冒険者たるもの、目の前に未知のものがあればいきたくなるよね……!


「じゃあ、今から――」

「駄目よ!」


 すぐに行こうそうしようと思ったのだが、フィフィアからストップがかかってしまった。なぜ。


「キャンピングカーの移動で疲れが少ないとはいえ、日中活動してたことに変わりはないわ。今日はきちんと睡眠をとって、攻略は明日にした方がいいわ」


 さすがはBランクのソロ冒険者だ。

 私とラウルは頷いて、フィフィアの意見に賛成した。



 ***



 そして翌日。

 しっかり眠れはしたけれど、いつもより早めに目が覚めてしまった。

 それはラウルとフィフィアも同じだったようで、私より先に起きて朝食の準備をしてくれていた。


 ……二人はちゃんと眠れたんだろうか?




 朝食を終えた私たちはキャンピングカーに乗り込んで、いつものようにカーナビを確認する。

 一〇層の地形と魔物のいる場所がわかるので、かなり重宝するのだ。


「って、あれ? この階層、魔物がいないみたいだよ」

「え、そんなことあるのか?」

「なら、中心にある神殿のような建物に行ってみるしかないわね」


 私の言葉にラウルが驚き、フィフィアは行ってみようと提案してきた。今はそうするしかないので、私は頷いてアクセルを踏んだ。



 地図を拡大して、何かないか注意しながら進んでいく。

 最初に庭だと思ったが、よく見れば植物が枯れているようだ。寂れたような雰囲気は、あまりいいものではない。


 ……あの建物に、やばい魔物でもいたらどうしよう。


 ついさっきまではワクワクしていたのに、そんなことを考えて思わず体が震える。


 ラウルが窓の外を見て、ふうとため息を吐いた。


「どうしたの、ラウル」

「宝箱がまったく見当たらないなと思って」

「あ、ダンジョンには宝箱があるんだったよね」


 エリクサーもダンジョンの宝箱に入っている説があるので、私たちはそれを目当てにここへきているのだ。

 ……って、私も真剣に宝箱を探さなきゃだ!


 とはいっても、まっすぐ前を見て運転していた限りでは……私も見ていない。

 道が分かれていた場合も反対側を目視で確認しているし、通った道であれば見逃す可能性は低いだろう。


 私たちがそんな話をしていると、「私も見てないわね……」とフィフィアが言う。


「このダンジョンにはそこそこ潜っているけど、一度も見ていない。これって、よくよく考えたら珍しいことだわ」

「何か原因があるのかな?」

「わからないわ。私たちが偶然、宝箱を見つけられなかったということもあるわね。そんな頻繁に見つかるものじゃないから」

「なるほど」


 元々レアなら、私たちが見つけていなくても不思議ではない。

 次の目的地まで一直線で進んだからというのもあるだろう。宝箱は、行き止まりや小部屋に設置されていることが多い……気がする。



『目的地に到着したので、道案内を終了します』



 ――!

 私たちが喋っている間に、気づけば目的地――中央の神殿に到着したようだ。ナビが終了を告げた。


「あの神殿に何か手掛かりがあれば――あれ? 魔物だ」

「! どこだ!?」


 私の声に、すぐさまラウルが身構えた。


「ナビに魔物を示す青丸がある。……さっきまではなかったのに」

「位置は?」

「あの神殿、階段を上った先にある入り口のところなんだけど……」

「特に魔物の姿はないわね」

「……どういうことだ?」


 もしかしたら、神殿の内部から魔物が出てきたのかもしれないと思ったが……特に魔物の姿はない。

 入り口にあるものといえば、扉の左右にあるガーゴイルの石像くらいで――


「あ、そうか! 魔物が石像に擬態してるんだ!!」

「ガーゴイルっていうこと!? 珍しい魔物で、滅多なことでは姿を見せないと言われてるのよ」

「つまり、よほど重要ってことだな」


 神殿に続く長い階段をキャンピングカーで上ることはできないので、外に出た。


「た、倒せるの? というか、襲い掛かってくるのかな」


 私がドキドキしながら告げると、フィフィアが頷いた。


「おそらく、神殿への侵入者を排除しようとするはずよ。だけど、私たちは目的があるもの。ここで帰るわけにはいかないわ」

「俺は左腕があんまり動かないから、一匹相手にできるかもわからない……」

「私がフォローするわ」


 フィフィアは戦う気満々だ。

 ラウルは消極的ではあるけれど、強い瞳に逃げるという選択肢がないことはわかる。私も月桂樹の短剣を手に取り、軽く深呼吸をして体を落ち着かせた。


「――行きましょう」

「うん!」

「応!」

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『悪役令嬢はキャンピングカーで旅に出る』詳細はこちら
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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうこざいますm(_ _)m [気になる点] 寝むれる→眠れる ではないでしょうか? たくさん使っているのでワザとかなとも思いました なんか違和感があったのでご検討お願いします…
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