ガーリックステーキご飯
六層の広場は、残念ながら五層のように川やほかのものはなかった。
残念に思いつつ七層に進んでみると、六層と変りばえのない景色。ダンジョンの作りは同じみたいだ。
キャンピングカーを召喚して、乗り込んだ。
「んー、このまま先に進む感じで大丈夫かな?」
私は居住スペースから顔を出しているフィフィアに尋ねる。
フィフィアは、このダンジョン内の調査依頼も受けていたはずだ。
「もちろんよ。願ったりかなったりだわ」
「なら、このまま進んじゃおう! 目指せ最深部&エリクサー!」
私がえいえいおー! と気合を入れると、助手席のラウルが苦笑した。
「普通、こんな簡単に未攻略のダンジョンを進むことはできないんだぞ……。本当に優秀な冒険者パーティか、規模によっては軍隊が派遣されることもあるっていうのに」
「そんなに……」
ダンジョンの攻略は、私が思っている何倍も大変だったみたいだ。
***
ブロロロと軽快にキャンピングカーを走らせて、私たちは七層の一番奥の広場までやってきた。
今日はここで休憩する予定だ。
七層に出てきた魔物は、ワーグ、ディアロス、シルールだった。シルールは、小さな竜巻で、風の妖精みたいな立ち位置の魔物だ。
今回もキャンピングカーで一撃だったのは言うまでもないだろうか。
キャンピングカーから下りて、ぐぐーっと伸びをする。
「よーし、今日は二層分も進んだし……焚き火にしようかな」
私はウキウキ気分で、備蓄していた薪と焚き火台を持ってくる。
もう焚き火作りは慣れたもので、簡単に組み立てて火を熾すところまであっという間だ。
今日は上にフライパンを乗せたいので、キャンプファイヤーっぽい薪の組み方にしてみました。
そしてマイ椅子を持ってきて座ると、至福のひとときだ……。
『にゃう』
「おはぎも一緒にのんびりしよ」
おはぎが私の膝に乗ってきたので、二人でぐだ~っとする。
ラウルとフィフィアはというと、近くを調査している。カーナビで見た限り通り抜けられる道はなかったけれど、念のためだ。
フィフィアは冒険者ギルドへの報告もあるので、石などの素材も少し採取するのだと言っていた。
私も手伝いを申し出たけれど、ずっと運転を任せてたから休んでいるように言われたのだ。
なので、まったり焚き火タイムなのである。
「ゆっくりしたあとは、ご飯かな」
今日は冒険者がお礼にとくれたお米があるので、久しぶりに白米にありつけるのです……!!
「ご飯、ご飯かぁ……何食べようかな」
お米を堪能したいが、いかんせんここはダンジョンの中。
食材が限られるし、仮に卵があってもゲーム世界で食品管理の安全性がわからないまま卵かけご飯などを食べるわけにもいかない。
……日本って、食に関してはかなり恵まれていたよね。
「となると、どんぶり……? あ、炊き込みご飯なんかもありかも。でも最近は魚が続いてたから、やっぱり肉かなー!」
何を食べるか考えるだけでも、とっても楽しい。
すると、膝の上からゴロロロと喉を鳴らす音が聞こえたきた。
おはぎの寝息だった。
「ずっと一緒に運転席にいてくれたもんね。疲れちゃったよね……」
お米を炊く間は、おはぎと一緒に遊ぼうかなと考えて……もう少しのんびり焚き火タイムを満喫した。
「さてと……」
私はさっそく夕食作りに取り掛かることにした。
ラウルとフィフィアは一度戻ってきたけれど、もう少し周囲を調査してみると再び出かけていった。
おはぎは椅子の上ですやすや気持ちよさそうに寝ている。
まずはお米を鍋に入れて、キャンピングカーのキッチンにセットする。
その間に、隣りのIHでオニオンスープの準備。それから、メインに使うお肉を切って、一緒に使うニンニクと、彩を加えるためにパセリも少し。
いつもならこれで夕飯の支度は完了だけれど、今日はデザートも用意する予定だ。
「これは焚き火で仕上げるから、外に持っていっておこう」
私がデザートを椅子の近くに置いたところで、ラウルとフィフィアが戻ってきた。
「あ、おかえり! 二人とも」
「「ただいま」」
何やら手に袋を持っている。
「収穫でもあった?」
私が首を傾げつつ聞いてみると、ラウルが「ドロップアイテムを拾ったんだ」という。
キャンピングカーで倒した魔物のドロップを一々拾うのは手間なので、そのままにしてきている。それを拾ってくれたらしい。
「近くのだけだから、量は少ないけどな。ギルドで買い取ってもらえば、いい値段になると思う」
「お~~、それはありがたいね!」
お金があれば調理道具などいろいろなものを揃えることができる。
キャンピングカーもどんどんレベルアップしているので、入用な物も増えていくだろう。
「もう夕飯か?」
「うん。後はお肉を焼いて仕上げるだけかな? あ、その前にテーブルも出そうと思ってたんだ。あった方が食べやすいでしょ?」
「テーブルを持ってくればいいのね」
ラウルの問いに頷いて、テーブルがあった方がいいといったらフィフィアが率先して用意をしてくれた。
焚き火の近くに座って食べるのもいいけれど、品数が多いときはテーブルがあるとありがたいよね。
……次は料理用のサイドテーブルも買いたいところだ。
フィフィアとラウルがテーブルと椅子の準備をしてくれたので、私はキッチンで炊いていたご飯とオニオンスープを持ってきた。
スープはフィフィアがよそってくれるらしいので、お願いする。
私は焚き火の上にフライパンを乗せ、油で熱してから薄く切ったニンニクを入れる。これをカリッとするまで焼き上げた。
次に、一口サイズに切ったお肉を入れる。ジュワっといい音と、お肉の焼けるいい香りが一瞬で周囲に広がった。
「は~、いい匂いだな」
「今日はステーキだよ~」
「絶対美味いな」
私は手が空いたらしいラウルにお肉をいったん任せて、深皿にご飯をよそっていく。
「ラウル、ご飯の上にお肉を乗せて」
「オッケ!」
ご飯の上にお肉を乗せてもらい、カリカリに焼き上げたニンニク、彩にパセリをふる。最後に、ワインとバターをメインで使ったソースを作り、それを回しかけた。
「よし、完成! ガーリックステーキご飯だよ~」
「おおお、美味そう!」
「いい匂い!」
二人ともテンションが高い。
もちろん、おはぎの鶏肉を用意することも忘れてはいない。
テーブルの上に、ステーキご飯、オニオンスープ、おはぎのご飯が並んだ。
「「「いただきます!」」」
『にゃっ!』
ステーキご飯は、たれをかけているのでご飯と混ぜて食べると濃厚な味わいになって美味しいんだけど……久しぶりのお米だから、まずはそのままいただきます!
……っ、久しぶりのご飯美味しすぎる!!
「は~、幸せ……」
私がうっとりするのを見たラウルとフィフィアが、ごくりと息を呑んだ。きっと二人は、ご飯がものすごく美味しいものとしてインプットされてしまっただろう。
二人は私と同じように、まずは白米だけを口に含んだ。
「これがお米、か……? なんというか、特筆して味がするわけじゃないんだな。不思議な噛み応えだ」
「うーん、ほんのり甘い……? 気もしますね」
ラウルは首を傾げ、「美味くはあるけど」と言っている。
フィフィアは素材の味をしっかり噛みしめているようだ。そう、美味しいご飯はほんのり甘みがあるよね。
私は二人に食べ方のアドバイスをする。
「ステーキのたれをかけてあるから、混ぜて食べてみて。お肉と一緒に食べても美味しいよ」
「あー、確かにほかのものと一緒に食べるのはよさそうだな」
「わかったわ」
ステーキご飯を混ぜて、改めて二人が口に運ぶ。すると、クワッと目を見開いた。
「うっま!」
「美味しい!」
白米だけではいまいちだったけれど、ステーキと一緒だと違ったようだ。満足そうにしている二人に、私の頬も緩む。
「私も混ぜて食べようっと」
ご飯に均一にステーキのたれが混ざるようにして、ステーキ一つと、カリカリのニンニクを一緒に食べる。
お肉のうま味にニンニクがきいていて、それを白米が優しく包み込んでくれているかのようだ。
「ん~~、美味しい……」
はぁん、いくらでも食べられそう。




