非オタ幼馴染がゲーマーだったんだけど、バレンタインデーに何故か謎解きゲームをプレゼントされた件
「はー。二月にもなると滅茶苦茶寒いね」
いつもの交差路で待ち合わせて一緒に登校する僕、荒谷修也。高校二年生で、あと二ヶ月もすれば高三で受験生だ。
「そうだね。ほんと寒いよー」
のほほんと僕に向かって微笑む隣の女の子は木屋雅美。品行方正、成績優秀。それでいて運動音痴なところとか、ドジなところが、微妙に完璧じゃなくて愛嬌があるとクラスでも人気の女の子だ。
「修也はそろそろ受験に向けた勉強もはじめた方がいいんじゃない?」
「それはわかってるけど……せめて四月まではだらだらしてたい」
僕の成績は中の上程度。
志望校に受かるには早めに勉強を始めた方がいいのはその通り。
でも、その前に大量の積みゲーを消化したい。
「もう。アニメとか漫画好きなのは知ってるけど、ほどほどにしないと」
オタ趣味は彼女にはカミングアウトしているのだけど、実のところそれは偽装だ。
皆がみるようなアニメや漫画が好きなライトオタク。
これがクラス内での僕のポジションだ。
「雅美ちゃんは最近、アニメとか何かみないの?」
「うーん。夜滅くらいかなー」
夜滅の刃。日本全国でブームになった漫画原作アニメ。
オタクでなくても誰しも名前を知っているヒット作だ。
「夜滅は僕もときどき見るけど、ちょっと物足りないかも」
「そうなの?私はそこまでアニメ見るわけじゃないから、よくわからないけど」
気にした様子もなくつぶやく雅美ちゃん。
アニメや漫画も嗜むけど有名なものは触ってみたくらいが彼女の基本スタンス。
僕も彼女に引かれまいとあえてライトオタクを装っている。
「そういえば、もうすぐバレンタインだよね」
さりげない素振りで話題を切り出してみる。
「なに?チョコ欲しいの?」
ニヤリとした笑顔でからかってくる雅美ちゃん。
こんな顔も可愛いなあと思ってしまうんだからほんと恋は罪だ。
「あんまモテないし?せめて、昔馴染の義理チョコは欲しいなーって」
「仕方ないな―。当日はちゃんと義理チョコ作ってきてあげる」
よし。言質はとった。元々、彼女は毎年、手作りの義理チョコをわざわざ僕のために作ってくれる。昔馴染故の特別扱いだとしても、ちょっとした優越感だ。
「ありがたや、ありがたや」
「修也は大げさだよー。えいっ」
ツッコミのチョップを僕は素早く真剣白刃取り。
「んー。修也はやっぱ運動神経いいよね」
ぷくりと不満げな雅美ちゃん。
「雅美ちゃんが運動音痴なんだって」
「私が気にしてるのわかって言ってるでしょ」
「ちょっとくらい気にしない気にしない」
「まあいいけどね」
ちょっとしたコンプレックスはあっても、あんまり気にしなさいおおらかさ。
そんな彼女を狙ってる男どもは割と多い。
本人はどうやら気づいていない節が濃厚だけど……。
「ところでさ。雅美ちゃんは最近、ゲームとかしてないの?」
実は僕は毎月数本以上を消化する廃ゲーマー気質だ。
「スマホやスイッチのちょっとやってるよー。急にどうしたの?」
「いや。昨日ネットでバレンタインに面白そうなゲーム出るってあったんだけど」
「どういうのなの?」
興味津々という顔の雅美ちゃん。
僕みたいなクソオタにはもったいないくらいのいい女の子だ。
「ナイトメア・ナイトメアってゲームなんだけど。謎解きが面白いんだって」
「そういう面白いゲームがあるのを最近知った」風を装う。
ナイトメア・ナイトメアはインディーズゲームという奴で、
開発者は個人なのだけど、僕のような一部のヘビーゲーマーから大人気。
僕もまだナイトメア・ナイトメアの発売日を心待ちにしている一人だ。
ともあれ、ライトオタですらない彼女ならきっと、
「ちょっと面白そうかも。後でちょっと見てみるね」
なんて答えを返すんだろうなと予想していた……のだけど。
急に歩みが止まった。
僕の方をしきりに見たり目をそらしたりとやけに落ち着きがない。
しかも目を大きく見開いていて、一体何が何やら。
「どうかしたの?」
「う、ううん。なんでもない。それって面白いの?」
「さあ。僕もそこまでゲームは明るくないしね」
「そ、そっか。興味湧いてきたし、あ、後で調べてみようっかな」
(おかしい)
のんびりマイペースな彼女が急に挙動不審に。
(まさかとは思うんだけど)
僕がディープなゲームオタクであることを知られそうになった時の取り乱しっぷりにそっくりなのだ。今まで、雅美ちゃんは特にゲーム関係になると不自然な躱し方をすることがあったんだけど、もし僕の勘があたっているなら……。
「Stream」
Stream。PCゲーム向け配信プラットフォームで、PCゲームをある程度やる人じゃないとピンと来ない単語だ。
「な、何が言いたいの?」
しきりに目をキョロキョロさせて落ち着きがない。
(図星か)
「疑問に思ってたんだよね。ゲームの話題だけ時々不自然な反応だなって」
「深読みし過ぎ。そこまでゲームやりこんでるオタじゃないよ」
「雅美ちゃんがディープなゲームオタク、なんて一言も言ってないんだけど?」
誘導尋問にうまく引っかかってくれた、と内心ガッツポーズだ。
嘘が苦手な彼女はこの手のハメ技に結構弱い。
「修也って案外イジワルな性格だったんだね。で、それ知ってどうしたいの?」
どうこう言っても仕方ないと思ったのだろう。
向き直って、じっと見つめてくる。一体何がしたいのだと。
「別にどうも。僕も隠してたけど、結構ディープなゲームオタクなんだよ」
「そ、そうだったの?てっきり、ちょっとゲーム嗜むくらいだって……」
ポカーンと口を開けてあっけに取られた様子。
「雅美ちゃんならわかると思うけど。ライトオタにしといた方が都合いいでしょ」
「まさか修也が同類だったなんて……かんっぜんに騙されてたよ」
「雅美ちゃんもね。アニメも漫画もちょっと嗜む女子みたいな偽装とか」
「じー……」
「じー……」
数瞬の間、睨み合ったかと思えば。
「だったら、修也の前では遠慮せずにディープなゲーム話していいってことだね」
「僕も安心して濃い話題ができると思うとほっとするよ」
にやりと見つめ合って、がしっとお互いに握手をする僕たち。
「私と修也だけの秘密だからね?」
人差し指で「しー」の仕草。
やっぱり彼女は可愛い。
「もちろん。それは雅美ちゃんも同じだよ」
「わかってるよ。うーん、でも、それなら……あのゲームにも」
歩きながら急に考え込み始めた昔馴染。
「どうしたの?雅美ちゃん」
「修也もStreamアカウント持ってるよね」
「僕のと交換する?」
「お願い。私達の高校だとStream仲間いないからね」
「お互い、結構肩身が狭かったんだね」
そんなことを話しながら心が浮き立つのを感じていた。
僕と雅美ちゃんは仲が良くても見えない壁があった。
そんな壁が消えた気がしたのだ。
「あと……バレンタインデー、楽しみにしててね?」
「あ、ああ。もちろんそりゃ、チョコくれるのは嬉しいけど……」
強い意志を秘めたかのような瞳。
なにかを「決意」したとき、彼女はこういう目をする。
ただ、彼女が何を決意したのかさっぱり僕はわからなかったけど。
僕と彼女は同じクラスで、だから教室に入るタイミングだって同じ。
というわけで、ガラッと後ろの扉を開けて一緒に入ると―
「二人とも、いつも仲いいねー。もう結婚しちゃいなよー」
雅美ちゃんの親友からの冷やかし。
いつもなら「もうそのネタは飽きたよー」
と彼女からツッコミが入るところなのだけど。
「結婚……。それもありかも?修也、どう?」
「ちょ……」
彼女からのこういう方向でのからかいは初めて。
だから、僕は二の句が告げずに口をパクパクするのが精一杯。
「なになに?まさみんも遂に認めたの?」
「そんなわけないでしょ。ちょっとした冗談」
「なーんだ。つまらないの」
恒例の漫才が終わって飽きたのか、机に戻っていく雅美の親友。
「あのさー、雅美ちゃん。ちょっと僕の心臓に悪いんだけど」
「義理チョコねだって来るくらい飢えてるのに?」
「う……そこを言われると弱いんだけど」
にしても、まるで彼女らしくない。
悔しいことに翻弄されてしまう男心なのだけど。
ほどなくして一限目の授業開始。
なのだけど、やたら雅美ちゃんが僕の方を見てくる。
ちらっと見つめ返したら、やたら照れくさそうな微笑み。
(な、なんかドキドキするんだけど……)
彼女のことは元から好きだった。
でも、今日は何かが違う気がする。
僕自身もつられて、何かわけのわからない高揚感に包まれている。
異変はそれにとどまらなかった。
放課後、帰宅部同士の僕たちはよく一緒に帰るのだけど……距離が近い。
「距離近くない?」
「嫌だったらやめるけど……」
「もちろん、全然嫌じゃないんだけど……」
「じゃあ、そのままで」
「……」
押し切られる形で、いつもは数10cmの距離が今日はたった数cm。
さすがに長い付き合いでもこの距離感はドギマギして落ち着かない。
とおもったら、ぎゅっと手のひらに温かい感触。
「……ありがとう」
嬉しくて、場違いなお礼の言葉を言ってしまっていた。
「なんでお礼言うの?」
「そりゃまあ……嬉しいし?」
「修也も男だったんだね」
クスクスと嬉しそうな雅美ちゃん。
「僕は最初から男だけど?」
「そういうんじゃなくて。ううん、いいや」
結局、手を繋ぎながら帰った僕たちだった。
その夜のこと。
僕はベッドに寝っ転がって、
手のひらの感触を思い返しながら、考え事をしていた。
(これは好意アピールって奴?)
今までは「仲の良い友達」の距離感だったと思う。
ただ、僕だって鈍感じゃない。
雅美ちゃんが意図して距離を詰めてきている。
(でも。今までもたまに距離感近くなることはあったし……)
高校受験に受かった時にお互いにハグして喜びを分かち合ったことがあった。
(他には、趣味が共有できて浮かれてるのかもだし……)
別の可能性を色々考えてしまう僕は、つくづく臆病だ。
変化は翌日以降も続いた。やっぱり登下校の時の距離は近い。
手を繋ぐこともだんだん増えた。
(やっぱりこれは……)
なんて思っている内に日々は瞬く間に過ぎて、バレンタインデー当日。
今日は土曜日。学校は休みで僕は家で悶々としていた。
(チョコ、どうなるんだろ……)
まさか、だけど。
ここまで来たらちょっとは期待してもいいのかもしれないけど。
今年は義理じゃなくて本命がもらえたり?
(でも、昨日は何も言ってなかったし……)
約束は守るだろうけど、待ち遠しいやら怖いやら。
ぐるぐると考え事をしていると、ぴーんぽーん、ぴーんぽーん。ぴーんぽーん。
(あ、雅美ちゃんが来た)
僕と彼女の家はともに一軒家で徒歩3分くらいの近距離だ。
彼女がチャイムを鳴らすときはきっちり3回なのですぐわかる。
今日は父さんも母さんもいないし、僕がでないと。
期待したいような怖いような……。
考えていても始まらない。
玄関に出て扉をがらっと開けると、
「ハッピーバレンタイン!修也!」
照れくさそうな笑みの彼女がそこに立っていたのだった。
大きな手提げ袋を抱えて、長いスカートにマフラーという冬の装いで。
「ありがと。で……」
視線はつい、彼女が持ってきた手提げ袋に行ってしまう。
「わかってる。約束のチョコ。いつもより気合いいれてみたから」
おずおずと渡される手提げ袋を、「ど、どうも……」と受け取る僕。
(これって、本命?って聞いていいのかな)
あれから彼女が距離感を縮めてきたのは間違いない。
だからといって「ごめん。義理なんだ」
なんて返事が返ってきたら僕は再起不能になりそうだ。
(でも、もし彼女が勇気を出してくれたのなら)
僕だけが臆病でいいんだろうか。
「ねえ。雅美ちゃん。一つ聞いていい?」
「う、うん?」
心なしか照れている……のは妄想じゃないと思いたい。
「勘違いだったらアレなんだけど。ひょっとして本命?」
心臓がバクバクと言うのを我慢してなんとか言葉を紡ぐ。
「義理じゃないけど……ごめん!ちょっと限界」
「え?」
手提げ袋を押し付けたかと思うと、すごい勢いで退散して行ってしまった。
残った僕はといえば訳が分からずポカーンとするばかり。
(義理じゃないけど……ってなんで中途半端なの)
本命だと言っているようにみえるけど、なら逃げる理由がわからない。
懊悩していると、LINEに通知が来ていた。
【逃げちゃってごめん。ギフトで送ったゲームやってくれたら全部わかるから】
気になってPCを起動させてみる。
確かにStreamアカウントに雅美ちゃんからゲームが届いていた。
ゲームタイトルは『ナイトメア・ナイトメア スペシャルエディション』。
(このゲーム、テストプレイヤーを募集してたよね)
協力してくれた人にはクレジットを含めて内容を多少カスタマイズした特別製のゲームを配布してくれるとかなんとか。インディーズゲームならではのちょっと特殊な趣向だ。
「僕のとどう違うんだろう」
僕のスタンダードエディションは放置してもらったのを始めてみることにする。
起動してまず目を見張ったのは、タイトル画面の真下に
「雅美 Version」と書いてあったことだ。
(作者さんも思い切ったことをするなあ)
スペシャルなクレジットが掲載された特別版を別個に配布しているんだろう。
ゲームを開始すると暗闇の中に閉じ込められた主人公の視点になる。
(いよいよゲーム開始か)
密室に閉じ込められた主人公がヒントを元に脱出することと、閉じ込めた側の思惑解き明かすのが目的らしい。これだけならよくある脱出ゲームで目新しさはない。
(ただ、雅美ちゃんがなんでプレイしろと言ってきたのか)
それが問題だ。
まずはライトをつけて部屋の様子を見る。
部屋にはいくつかの紙片が散らばっている。
(よくある、ヒントになる紙だよね)
脱出系ゲームの定番。
こういう紙片に何かしら脱出するためのヒントが転がっているのだ。
というわけで、最初の紙片を調べてみると……
「え?」
思わず声が出てしまっていた。何故なら、そこに書かれていた内容は
『修也』
紛れもなく僕の名前だったからだ。
(待て待て。そういえば最初に僕の名前を入力したじゃないか)
作者さんはプレイヤーの裏をかくゲームデザインを得意としている。
プレイヤーが閉じ込められた主人公に一体感を感じるようにする仕掛けだろう。
伊達にインディーズゲームをやりこんでるわけじゃない。
でも。
次の紙片を見たとき、今度は本当の意味で開いた口が塞がらなかった。
『幼馴染』
『一緒の高校』
(これは一体どう解釈すればいいんだ?)
ゲームの作者に僕の個人情報が見透かされているような感じすらする。
待て待て。そもそも、雅美がこのゲームをプレイしろと言ったのだ。
加えて、スペシャルエディション。
(もしかして、謎自体も特注?)
普通は考えられないことだけど。
テストプレイヤーには特別に、解くべき謎自体をカスタマイズしたものを配布しているのかもしれない。
とにかく、ヒントを集めていくと出てくるのは僕と彼女にまつわるあれこれ。
『本当はゲームオタク』
『拒否されるのが怖かった』
などなど。
(雅美の意図はわかってきた気はする)
このゲームの謎を解いたときに、雅美からのメッセージが開封されるという仕掛けだろう。でも、やっぱりまだわからない。
(一プレイヤーに対してサービスし過ぎだ)
テストプレイヤーのためにスペシャルサンクスを入れるくらいはあるだろう。
特別ロゴも……文字を置き換えるだけならできるだろう。
でも、出てくるヒントは僕と彼女に関するものばかり。
密室を脱出してリビングに移動してみれば、彼女の家のリビングまんまだ。
(雅美は一体何を考えてるんだ……)
リビングには昔、彼女と一緒にプレイした記憶が薄っすらあるゲーム機が一台。
ゲーム内ゲームを起動するとヒントが出るというのもみるけど、やってみるか。
「こんにちは。さっきは逃げちゃってごめんね。修也」
今度こそあんぐり口を開けてしまっていた。
「う、うん?ちょっと待て。理解が追いつかないんだけど」
一体、何が起きているんだ。
ゲーム内リビングのゲーム機を起動してみれば、
リアルの雅美が照れくさそうに微笑んでいる。
(ちょっとホラーめいてきたんだけど)
「先にネタばらしするけど、このゲームの作者って私なんだ」
画面の向こうにある画面のさらに向こうの彼女が説明する。
言ってて混乱してきたな。
「ええ?作者さんは若いだの何だの噂は見たことあるけど」
昔馴染みがその作者なんて予想外もいいところだ。
「ゲーム好きが高じてね。中学になってからゲーム作り始めたの。高校一年に初めてStreamで出したのがデビュー作」
てへへ、と照れ笑いをしている彼女だけど、廃ゲーマーどころの騒ぎじゃない。
「ちょっと信じられないけど。雅美ちゃんが作者っていうのなら納得」
でも、と思う。
「こんな回りくどいことしなくても」
いくらなんでも、ゲーム越しに告白されるなんて思わなかった。
「だって。直接言うのがどうしても恥ずかしくて……」
「そのためだけにこんなスペシャル版作る方が大変でしょ!」
雅美ちゃんはどこか抜けてるなと思うことは時々あった。
でも、まさか好きな男に告白するためだけにこんな代物を用意するとは……。
「もしかしてだけど。このナイトメア・ナイトメアってゲーム自体……」
僕のために作ったのが本命ってオチはないよね?
「も、もちろん他のユーザーさんには普通の配ってるよ?」
ちょっと安心した。
「他のプレイヤーさんが妙な謎解きする羽目にならなくて良かった」
もうツッコミどころが満載過ぎだ。
「それでね。私は修也のことずっと好きだったよ」
画面越しの画面越しに告げられる真っ直ぐな想い。
「それは嬉しいよ。僕も好きだったし」
「ほんと?嬉しいな」
少し涙ぐんですらいる彼女。
本当ならロマンティックなはずの告白の場面。
ただ……
(画面越しなんだよね)
というより、画面越しのさらに画面越し。
少し微妙な気持ちになってしまう。
「ここまでディープなゲームオタクだと引かれると思って言えなかったんだけど……修也も同類ってわかったから」
「そっか。だから、急に積極的になったの?」
「う、うん。修也は嫌だった?」
「嬉しかったけど……そろそろ微妙な気持ちになってきた」
「え?」
「ゲームは終了するね。今からそっちの家行くから直接話そう?」
「え、ちょっと待って、ちょっと待って。心の準備がまだ……」
「雅美ちゃんのこと誤解してたよ。本当に面倒くさい」
サクッとゲームを終了して急いで身支度をする。
でもって、彼女の家のチャイムを押した僕だけど。
「せっかく特別版用意したのに……」
出てきたのは微妙に不服そうな昔馴染みの姿だっった。
「さすがに恋人同士になるのにあれはないでしょ。ちゃんと対面してやりたい」
「正論だけど……嫌いになった?」
「別に嫌いにはならないよ。でも、昔の雅美ちゃんって結構臆病な子だったよね」
初めて会った時だって避けられて仲良くなるのに時間がかかった記憶がある。
そんな臆病さは今も健在だったというわけだ。
「そういうこと。それと、今もすっごく恥ずかしいの我慢してるんだよ?」
「滅茶苦茶赤面してるからそれはわかるけど……」
でも、と思う。
「これから恋人同士になるのに、それで大丈夫なの?」
「こ、こいびと?」
「さっき告白したと思うけど」
「あ、それはそうだけど……まだ実感湧かなくて」
「僕は別の意味で実感湧かないけどね」
あんな奇妙奇天烈な告白になるなんて予想していなかった。
「恋人になった実感湧くにはどうすればいいと思う?」
「僕に言われても……」
「私的には、キキキスとかどうかなと思うんだけど」
「ごめん。キスはまた今度にしない?」
「な、なんで?」
信じられないという顔の彼女だけど。
「ゲーム越しの告白がびっくり過ぎて、気分じゃないというか……」
「うう……」
ぐったりしている雅美ちゃん。
だけど、僕も色々有りすぎて、ロマンチックな雰囲気にはなれそうにない。
「でも。これから楽しくなりそうな気がしてきた、かな」
「もし、もしだけど」
「うん?」
「さっき、対面で告白してれば、キスとかいけた……?」
「たぶん、ね」
「私が変なことしたせいだったんだね……」
「でも。機会はいつでもあるし。今後ともよろしくね。雅美ちゃん」
今はキスの気分じゃないけど、手を握るくらいなら。
「う、うん。こっちこそよろしくね!修也!」
満面の笑顔で僕の手を握り返す、面倒くさい彼女を見て、
(やっぱり可愛いな)
と思ってしまう僕が負けなのかもしれない。
というわけで、バレンタインにゲームをプレゼントされるというトンデモなお話でした。
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