抱えた絶望、怨みは新たな何かを生み出す
新作です。
自分の人生とは何だったのか。
空を見上げながら少年は思う。
腹部からは大量の血が流れており、そこから動く事はできず、少年はただ自分の人生を思い返しながら自分の命の終わりを感じていた。
彼、ロイ・ベルファストは元は孤児院にいた少年だった。
幼い時に母を亡くし行き場を失くした彼は孤児院に引き取られそこで育つ。
彼は誰にでも優しく小さな子の相手をよくしてくれて修道女達のお手伝いもしてくれるとても優しい少年だった。
しかし、その少年にある日一人の貴族が現れた。
何でも少年の父親だと言う事だ。
確かに少年には父親がいなかった。
何故いないのかと母に問えば。
「父親なんていないのよ」
と言っていたので父親はいないものだと思っていた。
それなのにその父親が現れしかも公爵だと言うからロイには何が起きているのか理解できなかった。
その父親と名乗る男から家族として引き取られる形になる。
この国では、平民は貴族の命令に対しての拒否権がないと言う風習ができているためロイも貴族の命令を拒否できなかったため、ついて行く事になる。
しかしそれが彼にとっては辛い人生の始まりだった。
彼を引き取った父親はライ・ベルファストと言い、ベルファスト公爵家の当主だった。
そこで彼はロイ・ベルファストと名乗る事になるが父親には当然妻も子供もいる。
妻の名はメイズ・ベルファスト、子供は三人、長女のエスリー・ベルファスト、その下に弟が二人、長男のルシウス・ベルファスト、次男のオスト・ベルファストがいた。
当然その者達はロイの事を良く思わなかった。
そしてこの家での彼の扱いも酷いものだった。
住む部屋は物置のような部屋、使用人も一人もおらず、いつも虐げられていた。
義母のメイズからは目を合わせるだけで嫌な顔をされ、エスリー、ルシウス、オストからは日々罵られ、剣や魔法の訓練と称し彼を痛めつけていた。
使用人達もロイに対して見て見ぬふりをして挙句にはストレス発散のために手を上げる者もいた。
父親のライはロイを引き取ったのにその後はまるでどうでも良いように扱っている。
そんな生活を送っていてもロイはそれでも何とか生きて来た。
やがて父親の紹介で婚約者をロイの意思なく勝手に決められた。
婚約者は、同じ公爵家の令嬢で名前はフェイリーチェ・フロイス。
彼女の父親と母親はライと幼馴染であったためその縁で婚約者となる。
だが兄弟のルシウスとオストではなく何故ロイが選ばれたのか全く分からなかった。
婚約者との交流も酷いものだった。
フェイリーチェは事あるごとにロイを見下しバカにしていた、貴族の常識がなっていないや女性をエスコートする事がなってないなどと言われてきたが、つい最近まで平民として生きて来たのだからそんなロイが貴族の事を知るのは、かなり時間が掛かるのは当然である。
彼女だけでなく彼女の侍女、名前はサテナ。
彼女からも見下しバカにされ何度もフェイリーチェに相応しくないと言われ続けて来た。
婚約者にバカにされてもそれでもロイは生きる理由があった。
それは母親との約束だった。
母親は死ぬ前に言った言葉。
「どんな事があっても強く生きて」
その言葉がロイを生かしている。
だがここまで辛い思いをして生きているとそれは、もはや呪いの言葉とも言えるだろう。
そして時は過ぎて行き、彼は学園に通う事になった。
学園でもロイは他の貴族から見下されていた。
貴族の息子でも元平民と言うのがバカにされる対象だった。
その事でフェイリーチェや侍女のサテナに婚約者として恥ずかしいなどと言われたりしてロイの心を傷つけていた。
そんな学園生活を送っていて事件が起こった。
ロイの学園にこの国の王族が二人通っていて双子の王女である。
その双子の妹の方が外での実習中に命の危険に遭遇してしまったのだ。
ロイは近くにいたのでその場で彼女を守った事でどうにか彼女は危険に会わずに済んだのだが、その危険を起こしたのがロイだと一人の生徒が言い出しそれに続いて何人もの生徒がロイのせいだとロイを責めた。
だが実際はただの自然による事故でロイは何も関係なかった。
おそらくロイをいじめている者達がロイが王族を助けたのが気に入らないというくだらない理由で言い出したのだろう。
ロイは違うと否定したが誰も信じてもらえず、それどころか双子の姉の方に妹を危険な目に会わせた事を責められる。
婚約者も蔑んだ目でロイを見ていてロイは教師にも叱られる事になった。
そして家も当然この事は伝わっていて、家族からも罵声を浴びせられベルファスト家の恥とまで言われ使用人達も冷めた目でロイを見ていた。
そして父親のライから追放される。
ロイは、自分は何もしていないと否定したが誰にも信じてもらえずロイはそのまま家を追い出されてしまう。
「帰ろう」
ロイはそう言い自分がいた孤児院に帰る事にした。
孤児院に帰るためにはその途中の森を通らなければならないのでその森を通っている途中で数人の男達と出くわす。
男達はいきなり剣や魔法でロイを攻撃する。
ロイはわけがわからずに逃げるが男達によってだんだん追い詰められていきやがて逃げ場なくなってしまい、男の一人に剣で腹部を刺されてしまいそのままロイは倒れてしまう。
(何で?)
ロイは何故自分が殺されなければならないのかわからない、ただ何となくその理由は嫌でも理解できる。
(きっと、あの人だ僕を追放して家の恥だとか言ってたからきっと汚点である僕を亡き者にしようとしたんだ)
男達の嫌な笑みを見てロイは理解する。
大方ガラの悪そうな者達に適当に金を与えてロイを殺すように命じた。
ロイは平民ではあるが、決して頭が悪いわけではない、だからこそ自分がこんな目に会った事も冷静に考え理解できた。
(僕は死ぬのか、だとしたら僕の人生は、何だったんだ?)
薄れていく意識の中ロイは自分の人生を振り返る。
貴族に引き取られ誰からも愛されず、日々心を傷つけられて、挙句の果てに殺される。
そんな人生に納得できないのは当然だ。
(僕が何をしたんだ? 僕の人生って意味があったのか? 何で僕はこんな目に会わなければならないんだ? 僕はこんな目に会わなければいけないほどの罪を犯したのか?)
ロイの中で何かが黒く染まっていく。
それはロイの絶望とこんな人生を歩ませた世界に対する怨み言でもあった。
(僕は、何もかも許さない、全部壊れてしまえ!!)
その怨み言を心に思いロイは意識を失う。
男達はロイを確認して動かないところを見るとロイが死んだと思いそのまま背を向けて帰ろうとしたその時。
「あー」
背後から声がして振り向いた時、男達は驚愕する。
何故なら目の前には。
「ああー? 何だお前ら?」
死んだと思われていたロイ・ベルファストが立ち上がっていた。
読んでいただきありがとうございます。
同時に投稿している作品「魔王様、今日も人間界で色々頑張ります」もよろしくお願いします。