虐められていた女の子を救う正義のヒーローになりたかった男の子の話
生まれて初めて書いてみた小説です。
良かったら楽しく読んで頂ければ幸いです。
俺の名前は佐伯修。 勉強は全く出来ないけどスポーツだけは得意で、休み時間には友達と校庭でずっと遊んでいるような、ごくごく普通な男子小学生だった。
そして俺の通っている小学校のクラスには、同級生から虐められている女の子がいた。
その子の両親は彼女が生まれてすぐに離婚したらしい。 親権は父親側になったので、彼女には母親が生まれつき“いなかった”んだ。 その事をクラスの連中はバカにしていた。
「何で授業参観にお母さんが来ないの?」
「え、お母さんがいないの? そんなのおかしいよね」
「お母さんがいないんじゃ、ご飯とかどうしてるんだろう?」
「アイツはきっと普通じゃないんだよ。だから話さない方がいいよ」
とかとか……まぁ色んな悪口を言われていたらしい。 なんで俺がそんな他人事みたいな言い方をしているのかって言うと……俺はバカだからそんなイジメが起きてるなんて知らなかったんだ。
俺は授業中はよく寝てるし、休み時間は友達と校庭に出て遊んでたし、学校終わればすぐに帰っていたから、教室でそんなイジメが起きてるなんて全く気が付いていなかったんだ。
それにイジメられていた彼女も、悪口やイジメに対する反論は一切しないし、先生に助けを乞うような事もしていなかった。 彼女はひたすらと我慢していたんだ。
そんなとある日の放課後。 俺はその日はすぐには帰らないで友達と一緒に校庭でサッカーをしていた。 でもその途中で俺は転んでしまい膝から血が流れ出た。
友達は心配そうに声をかけて来たけど、そこまで痛くもなかったから、俺は1人で保健室に行くことにした。 絆創膏を貰ったらそのまま帰ると友達に伝えて、俺は保健室の方に向かった。
保健室に入ると、そこには保健の先生はいなかった。 「離席中」 という立札が置かれていたので、俺は絆創膏だけ貰ってさっさと退出しようと思った。
「ん?」
「あ……」
でもその時……保健室のベッドに横たわっている少女と偶然にも目が合った。 彼女は俺と目が合った時に、少しビックりしたような声を出していた。
「あれ? 夏目さんじゃん。 どうしたの? 怪我でもしたの?」
「あ、いや……そういうわけじゃ無いんだけど……」
その少女は、俺のクラスメイトの夏目綾だった。 この時はまだ知らなかったんだけど、この子がクラスでイジメられている女の子なのであった。
「ふーん、そうなの? あ、俺はさ、ほら……ちょっと怪我しちゃったんだよね。 絆創膏どこかな」
「あ……だ、大丈夫なの!?」
「え? あ、あぁうん大丈夫だよ」
夏目さんの大きな声を聞いたのはそれが初めてだったので、俺はかなりビックリしてしまった。
「しょ、消毒しないと駄目だよ……ちょっと待ってて」
「え? あ、うん」
そう言うと夏目さんはベッドから立ち上がって救急箱を取り出した。 そしてその中に入っていた消毒液と絆創膏を取り出して、俺の膝の手当をしてくれた。
「大丈夫? 消毒液しみたりしないかな?」
「うん大丈夫、痛くないよ」
「それなら良かった……はい、これで良しっと」
彼女はテキパキとした手つきで俺の手当を終わらしてくれた。
「ありがとう! 夏目さんは凄いんだね!」
「い、いやいや凄くないよ! 誰だって出来るよこんなこと」
そう言いながらも夏目さんは照れているようだった。 褒められて少し顔が赤くなっていた。 そんな照れてる表情の夏目さんの顔を見て、俺はちょっとドキッとしてしまった。
「いやでも本当にありがとう、助かったよ! あ、そういえば夏目さんはまだ帰らないの? 何か他に用事があるのかな?」
「え? あ……あぁうん……そ、そうだね……」
もう放課後だし、用事が無い生徒は皆すでに帰宅している時間帯だ。 俺みたいに友達と遊んでいるのなら別だけど、夏目さんは怪我をしているわけでも無いのに保健室のベッドにいるだけだったから、俺には何だかそれが不思議に思えた。
「えっと……その……もうそろそろ帰ろうかなって」
でもそう言う夏目さんの表情は、なんだか辛そうな、悲しそうな……そんな感じの表情だった。 そんな表情の夏目さんを見て俺は、何となくだけど夏目さんが困ってるのかなって思った。
そして当時男子生徒の間で凄い流行していた“日曜日の朝に放送しているヒーロー番組”に憧れていた俺は、そんな彼女の姿を見てさらにこう思った。
(困っている人を助けるのは、ヒーローの役目だ!)
そんな子供っぽい理由ではあったけど、俺は夏目さんに思い切って単刀直入に聞いてみた。
「ねぇ、夏目さん? 何か困ってるの? 帰りたくない訳とかあるのかな?」
「え……!? い、いや、そうじゃないんだけど……」
「うーん?」
「い、いや嘘……ほ、本当は帰りたいんだけどランドセルを教室に置きっぱなしだから……私、教室に行きたくないから……だからクラスの皆が帰るまでここで待ってるんだ」
夏目さんは悲しそうな顔をしていた。 何でそんな悲しい顔をしているのか俺にはわからなかったけど、でもランドセルを取りに行きたいけど行けない……という悩みがある事がわかった俺はすぐに行動に移すことにした。
「あ、そうなんだ! でももう帰りたいんでしょ? じゃあ少しだけ待っててね!」
「え? あ、ちょっと!」
俺は保健室を抜け出して教室に向かって走った。 教室にはクラスメイトが数名残っている程度だった。 俺は夏目さんと自分のランドセルを背負いこんで、急いで保健室へと戻っていった。
「はい、お待たせ!」
「うわっビックリした! ってそれ私の?」
「うん、そうだよ。 はい!」
俺は夏目さんのランドセルをそのまま手渡してあげた。 夏目さんはホッとしたような顔をしていた。
「あ、ありがとう。 ってあれ? もう一つランドセルあるけど……これは?」
「そっちは俺のランドセルだよ。 あ、ねぇ夏目さん」
「え? な、なに?」
「夏目さんの家って、どこら辺なの?」
「わ、私の家?」
「うん。 もし帰る方向が同じなら一緒に帰ろうよ!」
「い、一緒に帰るの!? で、でも、私イジメられてるし……」
「え!? 夏目さんってイジメられてるの!?」
その時、ようやく俺は夏目さんがイジメられている事を知った。
「う、うん……だから、私と一緒にいたら、迷惑になっちゃうよ……」
「え、そうなんだ、うーん」
俺は目を閉じ、腕を組みながら唸り声を上げた。 そんな俺の姿を見て夏目さんは申し訳なさそうに声をかけた。
「ご、ごめんね、せっかく声をかけてくれたのに。 私は一人で帰るから……」
「え? 何で?」
「……え?」
俺は夏目さんの言葉を聞いてキョトンとした顔になった。 そんな俺の顔を見た夏目さんも釣られて一緒にキョトンとした顔になっていた。
「え? だ、だって、話聞いてたよね? 私イジメられてるんだよ……?」
「うん、それはさっき聞いたよ。それで?」
「それでって……だから、私と一緒にいると迷惑をかけるから」
「そこ!」
いきなり大声を上げたから夏目さんはかなりビックリした様子になっていた。 体もビクってなってたし。
「あぁごめんごめん。 いきなり声を上げちゃって」
「う、うん、大丈夫。 で、でも……“そこ”って何?」
「いや、夏目さんがイジメられてるのはわかったんだけど、何でそれが俺に迷惑がかかる事になるの?」
「それは……私みたいなのと一緒にいるってだけで、同類に見られると思うから……佐伯君もイジメられちゃうかもしれないよ……」
それはバカな俺でもすぐに気付く事が出来た。 夏目さんは俺の事を心配してくれているんだ。 自分がイジメられていてとても辛いはずなのに、他人の事も心配してくれる優しい子なんだ。
「あぁ、なるほど。 夏目さんは凄いし可愛いし、それに優しいんだね!」
「ふぇえ!?」
俺は夏目さんの顔を見ながら言うと、夏目さんはビックリしたように、椅子から飛びあがった。 顔も若干赤っぽかったような気がするけど、すぐに俯いてしまったのでよくは見えなかった。
「な、何をいきなり!?」
「夏目さんこそいきなり、飛びあがってどうしたの? ビックリしたよ!」
「ビックリしたのはこっちだよ! き、君がいきなり変な事を言うから!」
「変な事なんて言ったつもりはないんだけどなぁ……でもさ」
俺は俯いている夏目さんの方を見ながらしゃべり続けた。
「夏目さんが俺の事を心配してくれてるのはわかったよ」
「うん」
「でもさ、そんなのは関係無いよ。 別にクラスの人全員と仲良くなりたいわけじゃないしさ。 それにイジメてる奴となんて友達になりたくないしね。 ……よいしょっと」
俺はそう言いながらランドセルを背負った。 もう帰る準備は万端だ。
「まぁつまり、俺は夏目さんと仲良くなりたいと思ったから話しかけたんだから、そんなの別に気にしなくていいんだよ。 だから……」
そう言いながら俺は夏目さんに向けて手を差し出した。
「だからさ、一緒に帰ろうよ」
「……うん、ありがとう。 帰ろう」
夏目さんは俺の手を握り返してくれた。 夏目さんの話を聞いてみると、夏目さんの家は俺の家の近所だという事がわかったので、俺は夏目さんの家まで送る事にした。
その帰宅途中、俺は夏目さんと色々な話をした。 好きな事や趣味とか、将来の夢とか色々な話をした。 意外にも夏目さんは沢山話してくるタイプだったので、会話が途切れるというような事は無かった。
「佐伯君は将来は何になりたいとかあるの?」
「将来の夢? うーん、なんだろうなぁ……あ、でもあれかな? 今はやっぱり“正義のヒーロー”になりたいかな。 ははは!」
「せ、正義のヒーロー?」
「うん、そうそう! あ、夏目さんは見てないかな? 日曜日の朝に……」
夏目さんは俺の将来の夢を聞いてビックリしたような表情をしていた。 でも俺のそんな夢を聞いても馬鹿にしたように笑う訳でもなく、真剣に話を聞いてくれるのがとても嬉しかった。
「へぇ、日曜日にそんな番組がやってるんだね。 私も今度見てみようかな」
「おー! 是非是非! 周りの友達も皆見てるし、きっと面白いと思うよ!」
「うん! 見たら感想を佐伯君に言うね」
そう言うと夏目さんはニコっと笑顔でこちらを見てきた。 それがとても可愛くて俺はドキッと見惚れてしまった。
「うん? どうしたの佐伯君?」
「え? あ、ああごめんごめん。 うん、感想楽しみにしてるよ!」
夏目さんに見惚れてたなんて恥ずかしくて言えないので、俺はなんとか誤魔化した。 夏目さんも特に気にする事はなく話に戻った。
「ふふ、正義のヒーローかぁ。 でも確かに佐伯君なら正義のヒーローになれると思うよ。」
「え、そうかな!? はは、そう言って貰えると嬉しいなぁ。 あ、でも……俺的には夏目さんの方がよっぽど正義のヒーローな気がするけどね」
「え? えぇ!? ど、どこら辺が?」
「ほら! 俺の傷を手早く治したりとか、相手を思いやる優しさとか。 正義のヒーローは凄い力と優しい心を兼ね備えているんだ。 だから夏目さんも正義のヒーローになれるよ! あはは、せっかくだし一緒に目指そうか?」
「そ、そんな、私は普通の事しかやってないよ! あ、でもそうだなぁ……もしなれるんだったら私は正義のヒーローよりも、ヒロインとかの方がいいかなぁ」
「確かに夏目さんは女の子だもんね。 あ、でもヒロインになるためには必要な条件があるんだよ」
「え? 条件があるの? そ、それじゃあ私には難しそうだね……」
そういうと夏目さんは少し残念そうな顔をしていた。 だから俺は悲しそうな顔をしている夏目さんの頬を両手でグイっと持ち上げた。 口角を持ちあげて、無理矢理笑ったような顔にさせてあげた。
「ひゃ、ひゃに!?」
「大丈夫大丈夫、難しくなんてないよ! ヒロインの条件は……どんな時でも笑顔でいる! それだけだよ! だからさ、ほら! 夏目さんも笑って笑って!」
「え? え? わ、笑う……?」
「そう! 正義のヒーローはさ、ヒロインがピンチの時には必ず助けに来てくれるんだよ。 だからヒロインはどんな時でも安心して笑っていられるんだ」
「な、なるほど……?」
「だからさ。 夏目さんがピンチな時には俺が必ず助けに行くからさ、夏目さんはずっと笑っていなよ。 だって……」
俺は夏目さんの顔を見ながらニコっと笑いながらこう言ってあげた。
「夏目さんは笑うと可愛いんだからさ!」
「えぇ!? 可愛い!? 私が?」
「うん、さっきも言ったけど、夏目さんは笑うとすっごい可愛いんだよ。 だからさ、いつも俯いてるのは勿体ないよ!」
「そ、そんなこと無いって!」
夏目さんは足を止めて、顔を赤らめながら顔をぶんぶんと左右に振っていた。 そんな仕草もとても可愛らしかった。 少し経つと夏目さんも落ち着きを取り戻したようで、そこから再び歩き始めた。
再び歩き始めて数分後、夏目さんの家の前に到着する事が出来た。 俺の家はここからあと5分くらい先の場所だったので、俺はここで夏目さんに別れの挨拶をした。
「今日は話が出来て凄い楽しかったよ! それじゃあまた明日も学校でね!」
「あ……うん。 また明日ね……」
そう挨拶し終えて、俺は自分の家に帰ろうとしたその時……夏目さんに声をかけられた。
「あ、あの! さ、佐伯君……!」
「うん? どうしたのかな?」
「あ……あのね……あの、その……」
さっきまで笑顔だった夏目さんの顔は……今にも泣きそうな顔をしていたけど、それでも何か決心をしたように唐突に喋り始めた。
「……私は片親だからって、クラスの人達にイジメられた。 みんな私の事を無視するし、悪口ばかり言われた。 家に帰っても、お父さんは仕事で夜遅くになるまで帰ってこないし……帰ってきても、毎日叱られてばかりだったから。 私の居場所なんて……何処にもないと思ってたんだ。」
「な、夏目さん……」
ふいに夏目さんの瞳からは、涙がポタポタと零れていった。 俺は急いで夏目さんの方に駆け寄った。
「でも、今日は佐伯君に声をかけて貰えて嬉しかったんだ…… やっぱり1人ぼっちは寂しいよ…… 色々なお話が出来て……とても楽しかったよ……」
夏目さんは一呼吸置いて、少し震えながら続けてこう言った。
「だから……これからも、よかったら私と友達になってくれますか……?」
多分夏目さんからしたら、大舞台から飛び降りるくらいの緊張だったのだと思う。 だってそれは夏目さんにとって、初めての友達作りだったのだから。
「何言ってんのさ! 俺たちはもう友達じゃないか!」
だから俺はすぐにそう答えた。 俺は夏目さんとはもう友達だと思っていたから。 俺がそう言いうと、夏目さんの瞳にはどんどんと涙が溢れだしていた。
「あ……! ご、ごめん……だ、大丈夫?」
俺は涙を流す夏目さんの姿を見て慌ててしまった。 俺は急いでランドセルの中に入れていたハンカチを夏目さんに渡してあげた。
「あ、ありがとう……それとごめんね、いきなり泣いちゃって」
「全然大丈夫だよ」
夏目さんの涙はすぐに止まってくれたので俺はホッと安心した。 そして夏目さんはすぐに笑顔に戻ってくれた。 目は赤いままだったけど。
「ふ、ふふ、笑ってないと、正義のヒーローさんは助けてくれないんでしょ?」
「い、いやいや、泣いている人だってもちろん助けるに決まってるよ! 弱き人々を救うのがヒーローってもんだしね」
「あはは、そうだよね。 でも私がなりたいのは弱き人じゃないからさ……だから笑い続けるよ。 佐伯君が助けに来るって信じて、ずっと笑っているよ」
「……うん、約束するよ。 夏目さんがずっと笑い続けてくれるなら……俺はどんな時でも必ず助けに行くよ! だから……はい!」
そう言うと俺は夏目さんの前に小指を差し出した。
「うん、わかった。 はい、約束だね」
それを見て夏目さんも小指を差し出してくれた。 その日、俺達は小さく指切りをした。
「今日はありがとう。 それじゃあ今度こそ、また明日ね」
「うん、また明日!」
俺は夏目さんに手を振りながら、今度こそ自分の家へと帰って行った。 夏目さんも俺の姿が見えなくなるまで手を振り続けてくれた。 これが俺と夏目さんが友達になった最初の出来事だった。
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「……綾ちゃん、どうしたの?」
「え?」
私は昔の写真を手に持ったまま固まっていた。 昔の写真が大量に出てきて何だか懐かしくなり、私は当時の事を色々と思い出していた。
「あぁうん、ごめんごめん。 昔のアルバムが出てきたからちょっと懐かしくなってね」
「へぇ、昔っていつくらいの? あ、これは小学校の時だね。 って、俺も写真に映ってるじゃん! あはは、めっちゃ若いなぁ」
「ふふ、修君とは小学生の時からの仲だからね。 修君が映ってる写真は他にも沢山あったよ、見てみる?」
「え、そうなの? 見して見して!」
「うん、はいどうぞ」
修君と友達になってから既に20年が経過していた。 今の私は苗字が変わり、夏目綾から佐伯綾になった。 小学生の時の縁がずっと続いていき、そしてつい先日私達は結婚したんだ。
今日は新居に引っ越すための荷造りをしていたのだけど、その時に偶然にも昔のアルバムを見つけてしまい、そのまま私の手が止まってしまったというわけだ。
「でも本当に懐かしいなぁ。 あ、こっちは卒業式の写真だ。 あはは、どの写真もそうだけど、綾ちゃんは笑顔の写真ばかりだね。 いやぁ、この時から綾ちゃんは可愛かったんだなぁ」
「ふふ、ありがとう。 さぁ荷造りに戻りましょうか」
「え? あぁうん……何か綾ちゃん、昔に比べるとだいぶクールになっちゃったよね。 昔は可愛いって言ったらすぐに恥ずかしがってたのになぁ」
「この20年間、君に何度も何度も可愛いって言われ続けてきたからもう慣れちゃったんだよ。 あ、ねぇ……修君はさ、子供の頃になりたかった夢とか覚えてる?」
私は少し笑いながら修君に質問をしてみた。
「夢? なりたい職業とかの話? うーん、なんだっけなぁ……」
「ふふ、私は覚えてるよ。 修君の将来なりたかった夢」
「そうなんだ? って、え!? 俺の夢を覚えてるの!? 綾ちゃん自身の夢じゃなくて?」
修君はビックリしたような顔で私の顔を見てきた。
「うん、ちなみに私自身の夢も覚えているけどね。 でも君の夢は凄い衝撃的だったから今でも覚えてるんだよ。 修君は自分の夢覚えてないの?」
「そ、そんな衝撃的な夢だったの!? いやでも俺バカだったから変な事を言ってた気もするけど……う、うーん、俺の夢って一体何だったんだ……? 知りたいから教えてよ!」
「ふふ、そっかぁ……覚えてないかぁ。 じゃあ……秘密だよ! いつか思い出してくれたら嬉しいかな」
「え!? 流石に20年も前の夢なんて思い出せないって! せ、せめてヒントを!」
「だーめ、自力で思い出しなさい!」
「そ、そんなぁ」
修君は腕を組みながら子供の頃の記憶を思い出そうと必死に頑張っていた。 目を瞑りながら必死に唸っている彼の姿を見て、私はクスクスと笑ってしまった。 そしてそんな頑張ってる彼の事がとても愛おしくも思えた。 私は彼に聞こえないように、本当に小さな声で一言だけ呟いた。
「……ありがとね、正義のヒーローさん」
ご覧いただきありがとうございました。
もし気に入って頂けたり、面白いと思ったようでしたら、下から評価をして頂けると嬉しいです。
とても励みになりますので、よろしくお願い致します。