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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
魔王討伐の旅
53/71

神官兵

短いです。

 彼は言葉に詰まった。どう答えていいか分からない。


「えっ、あっ、その……」


 目の前の見蕩れるほど整った顔をした勇者はその金色の瞳に侮蔑の色を浮かべた。


「俺は参加し(いか)ないから」

「ゆ、勇者リュー様、それは……」


 彼は一生懸命引き止めるが勇者は背を向けて離れて行ってしまった。

 彼はトボトボと仲間のいる元に戻る。今から叱責を受けるのは分かっていた。その叱責よりも勇者に答えられなかったのがショックだった。


 戻ると助祭ハルツが仁王立ちして、その目を吊り上げた。


「今回はどうやってもお連れしろと命じたのに」


 仲間の視線も冷たいが彼には気にならなかった。勇者の視線の方がもっと冷たくて心に刺さった。


「ハルツ様、勇者様に聞かれました」


『あんたたちは何で討伐隊(ここ)参加している(いるの)?』


「それは勇者様と聖女様をお助けして魔王を倒すために」


 そんなことも答えられなかったのか! と彼は声を荒立てて言われたが彼もちゃんとそう答えた。


『魔王を倒す? ほんとにそう思ってる?』


 と返された。神官たちの態度はそうは見えない、と。


『じゃあ、なんで旅を急がない? それに今は怪我人もいる。早く町に、医者にと思わないの?』


 彼は答えられなかった。昨日の魔物との戦いで神官たちにも死傷者が出た。早く町で治療した方がいいのは分かっていた。今出発したら、明日には町に着ける。今ここで聖女様がお茶を飲み始めたら、町に着くのは明後日になってしまう。綺麗に治る怪我も治療が遅ければ後遺症が残るかもしれない。


「勇者リュー様に聞かれました。怪我人がいるのにお茶をすることを優先するのか? と」


 助祭ハルツが呆れた息を吐いている。


「聖女様がそれをお望みなのだ。我らはそれを叶えるのみ」


 彼の中に勇者の言葉が甦る。


『聖女様は慈悲深いんじゃないの? 景色が綺麗だから一緒にお茶? 慈悲深いんなら自分がしたいことより怪我人を優先するよね?』


 彼はとっさに口にした。彼が一番仲の良かった者が怪我で苦しんでいた。


「勇者リュー様は、慈悲深い聖女様なら怪我人のことを優先するべきだと」


 俯いた彼は見ていなかった。助祭ハルツがハッとした顔をしたことを。


『それに、彼女、ほんとに聖女? 自分を守って死んだ人を醜いって。俺は命を懸けて守ってくれた人にそんなこと言えない。それに俺のせいで怪我をしたのなら、早く治ってほしいと思うし』


 勇者の言葉が頭の中でグルグル回る。

 逃げ遅れた聖女様を守って仲間が一人魔物の鋭い爪に引き裂かれて死んだ。死体を清めて、聖女様に見送りの言葉をいただこうとしたら、傷だらけの顔を見て『醜い』と言って拒否した。高潔な聖女様だから仕方がないと思ったけれど、本当にそうだろうか? 勇者の言葉に正しくないと言えなかった。


『ほんとに聖女?』


 彼には答えられなかった。彼が教えられた聖女様は慈悲深く優しい女性。困った人や傷付いた人に慈愛の手を差し伸べる。

 彼が今仕えている聖女様は教えられた聖女様とかけ離れ過ぎていた。


「どういうことよ!」


 怒りの籠った聖女様の声がする。彼が顔を上げると助祭ハルツが頭を下げながら聖女様に馬車に乗るよう勧めていた。周りでは慌ただしく出発の準備を始めていた。


「こんなに綺麗な景色なのよ。リュー様と一緒に楽しみたいと思うのは当たり前でしょ」


 甲高い声は辺りに響き渡っている。

 彼が冒険者たちの方に視線を向けると勇者が顔を歪ませてこちらを見ていた。


「怪我人なんてほうっておけばいいでしょ。すぐに治るものでもないのだから」


 彼は耳を塞ぎたかった。適切な治療をどれだけ早く受けられるかで怪我の治り方も違う。早ければ早い方がいいのに。


「今から出発したら明日には町に着きます」

「町に? 仕方がないわね」


 聖女様が馬車に向かって歩き出した。

 彼は聖女様を見ないようにして出発の準備に加わった。

お読みいただき、ありがとうございます


誤字脱字報告、ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、ホントにコイツを聖女認定した奴誰だよ!責任者出てこいよ!!ってレベルで酷いや
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