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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
リュー
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告白

 二人は会うと挨拶をするようになり、立ち止って話をするようになり、名を呼び合う仲になり、自然と一緒にいるようになった。


「なあ、リュー。お前、ヒナちゃんとどうなる気だ?」


 ルハにそう言われ、リューは気不味そうに視線を游がせた。ヒナにはっきりと気持ちを伝えていないことは自覚している。ヒナの父親である子豚亭の親父さんを心配させていることも。


「俺もな、子豚亭の親父さんに言われてるんだ。遊びじゃないだろうな、て」


 ジロリとルハに睨まれてリューは慌てた。そんな気持ちで一緒にいる訳じゃない。


「そ、そんな。遊びなんて」


 今でも何人もの女性に声をかけられる。巷で可愛いと評判の娘や上品な女性、金持ちの娘、その誰にも気持ちが揺れなかった。仕事中でも声をかけてくる女性が多く、容姿がいいからと父親に言い寄っていた村の女の人と重なり嫌悪感があった。


「おれ、流感にかかってるから」


 小さな声でリューは答えた。今のままではいけないことはリューも分かっていた。先に進みたい気持ちはあるけれど、その先に進めなかった。


「流感、そっか、流感かー。熱が出たのか?」


 リューはルハに頷いた。男は高熱を出すと子供が出来にくくなるという話がある。リューは流感にかかった時、高熱が四・五日続き一時はその生死さえ危ぶまれた。


「ヒナ、子供が好きだから。出来たら生んでほしいけど」


 リューは俯いて手をギュッと握る。自分ではそれを叶えてあげられないかもしれない。けれど、ヒナの側を離れるなんて考えられない。自分がとても卑怯で中途半端なのは分かっていた。


「あんさー、飛躍しすぎだろ。ヒナちゃんの成人までまだ二年ある。結婚も決めてないのに子供の心配なんて早すぎるだろうが」


 ルハの呆れた声にリューは拗ねたように顔を逸らす。この国では男女とも十八歳の成人を迎えないと平民は結婚出来ない。だから、ルハがヒナの成人までに何があるか分からないから気楽に考えろ、と言っているのは分かる。分かるけど、たった一つの未来をリューは選びたい。


「それに…、契約書もあるし…」


 この言葉に今度はルハがバツが悪そうに視線をリューから外した。


「悪いがあの契約は破棄しねぇぞ」


 その理由はリューもよく分かっている。

 ルハに買われたときに交わした『隷属契約書』、それによりリューは()()()()()()、奴隷となっている。ルハはそんな扱いをリューにしたことはないが、書類上はそうなっている者と結婚したいという者などいるだろうか? 人なのに物扱いが当たり前とされる存在と。だが、リューが隷属契約書で縛られていることを知る者はほとんどいない。だから、ヒナに知られた時どう思われるか、それがリューは怖かった。


「ただでさえ文字が読めるヤツは少ないんだ。破棄なんかしたら、お前、拐わ(もってか)れるだろうが」


 文字の読めるリューを引き抜こうとする者は多い。直接リューに声をかけてくる者もいれば、ルハと交渉する者もいる。連れ去り(あらわざ)をしてくる者もいた。見た目も良いリューはその理由でも何回か誘拐されそうになっている。あの契約書の紙が特殊な物らしくリューを連れていこうとした者たちは必ず失敗していた。


「それにあれはお前個人を縛るもんだ。嫁や子には効力はねぇ。それに子豚亭の親父は知ってるが気にしてねぇ」


 リューは驚いてルハを見た。ヒナの父親が知っているのに隷属契約のことを問題としていないことに。


「あそこは長女を遠くに嫁に出したからな。ヒナちゃんは近くに置いときたいんだろ」


 リューはルハの言葉の意味を測りかねていた。ヒナの父親がリューを認めていると取っていいのだろうか? むくむくと形を作る期待をルハが一瞬で霧散させた。


「とっととヒナちゃんに告って来い。で、玉砕してこい!」

「親方! 玉砕って!」

「粉砕の方が良かったか?」

「な、なんで別れるの前提なんですか?」


 リューは涙目でギッとルハを睨んだ。ヒナと別れると思うだけで泣きたくなる。


「お前がそう思ってるんだろ。だから、告白出来ない」


 はぁ。とルハは息を吐いた。


「ヒナちゃんがお前をどう思ってんのか聞くのが怖いんだろうが…、立派に粉砕してこい。骨は拾えねぇがちゃんと掃き集めて弔ってやる」


 翌日、頬を腫らしているのに晴れやかな顔をしたリューが職場に現れた。


「たぁっぷり怒られたようだな」

「そんなこと気にするって思ってたの? って叩かれました」


 にこやかに話すリューにルハは良かったな。と背中を叩いた。あまりにも幸せそうでムカついて力が過分に入ったのは内緒だ。咳き込みながらもリューの顔は溶けきっている。受け入れられたのが余程嬉しいのだろう。


「髪飾り、いい店知ってますか?」

「あぁ? 髪飾り? 髪飾り、か」


 この国には結婚の時、男性が二人の目の色が入った櫛、髪飾りを女性に贈る習慣がある。貴族や富裕層はお互いの目の色の貴金属を使って髪飾りを準備するが、平民は木彫りの髪飾りに色を塗るだけだ。だから、平民は髪飾りのデザインに拘る。妻になる女性に似合うたった一つの物となるように。

 父親のように手作りではないけれど、ヒナにリューが手に入れられる最高の髪飾りを贈りたい。


「面白い物が手に入りそうだ。それで髪飾りを作ってみないか?」


 ルハがニヤリと笑った。

お読みいただき、ありがとうございます


誤字脱字報告、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とうとう両想いに! [一言] 両親がいて村で暮らしていた時より、書類上でも奴隷扱いの現在の方が仕事も恋も順調とは… 周りの人間でこんなにも幸せの環境って違うのですね。
[気になる点] 隷属契約書は縛るだけじゃなくてリューを護ってもいるのね [一言] ルハがまっとうな人で良かった 短編からの長編移行はネタバレ感がやっぱりきついなって思った
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