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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
魔王討伐の旅
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冒険者たち6

「ヒナが階段から落ちた。詳しくは分からないが子は流れ、ヒナも危ない状態らしい」



「なっ!」


 タスクも言葉が出なかった。

 あの国が選民意識が高いことは知っていた。だが、ここまでするとは。

 法王は暈していたが偶然な事故ではないだろう。突き落とされたか、落ちるように仕向けられたか。

 チラリと床に膝を付いたリューを見る。妻の事故を知ったリューならどうするか、それは分かりきっていた。


「クスタリアへ、ヒナの所へ」

「リュー、それは無理だ」


 よろよろと立ち上がったリューに法王が首を横に振る。


「俺は!」

「君はクスタリアには戻れない。この町を出ても誰もがクスタリアに行くのを邪魔をし魔王討伐の旅に戻るよう言うだろう」


 タスクは黙って聞いていた。

 リューの気持ちも分かるが法王の方が正論だ。それに最悪な場合……。


「そして、戻る原因となるヒナを殺せばいいと思い行動するかもしれない」


 再びリューが床に膝をつく。何か打つ手はないのかと思うが、情報さえも届かない場所にいる。何も出来ないに等しい。


「そ、そんな………」

「最善を尽くすよう言ってある。薬も惜しまず使うように、と」


 リューは項垂れ片手で顔を覆い、片手で胸の辺りをギュッと掴んでいた。


「だ、だから離れたくなかったんだ。置いていきたくなかったんだ。なんで? なんで俺が勇者なんだ!」


 慟哭が聞こえ、タスクはリューから目を逸らした。

 リューがなりたくなかったと幾ら言ってもリューは勇者になってしまった。やりたくなくても勇者には魔王を倒すという使命がある。


「リュー、君にしか出来ないことがある」


 タスクは鏡に映る法王を見た。労わるような笑みを浮かべリューを見ていた。

 今のリューに何を言っても無駄だと首を横に振るが法王は笑みを深めただけだった。


「……、魔王なんかしらない。ヒナがいないんだったら、魔王なんか倒す意味がない」


 タスクは分かっていた答えに息を吐く。勇者の妻が死んでしまったら、リューは勇者であることを放棄してしまうかもしれない。だから魔王を倒しにと今は言ってはいけない。リューの気持ちが落ち着くまでは。

 法王が口にしたのは違う言葉だった。


「そうだね。だけど君が今しなければならないのは、祈り、だ」

「祈っても……」

「神に、ではない。ヒナに祈るんだ」


 顔を上げたリューは驚いた表情で法王を見ていた。タスクも同じだ。勇者の妻に祈るとはどういうことだ?


「リュー、何故ヒナに何かあったことが分かった?」

「急に胸の奥が冷たくなって、ヒナの声が聞こえたような気がして……」


 その時近くにいたタスクも突然のことで驚いたのを覚えている。ほんの少し前まではいつもと同じだった。普段と同じように朝食を食べて食器を片づけようとしていただけで何も変わったところはなかった。


「君とヒナは強い絆がある。それだけ強い絆なら、強い思い(いのり)で神から授かった勇者の力をヒナに送ることが出来るかもしれない。君の声がヒナに届くかもしれない。ヒナの声が君に届いたように」


 勇者の力は魔物を倒すだけではないのか?


「勇者の…、ちから?」

「怪我が前より早く治ったりしていないかい? 勇者と剣士は治癒能力が高くなっている」

「あっ!」


 タスクも目を見張った。確かに擦り傷や切り傷の治りがリューや剣士は人より早かった。魔物を最前列で倒さなければいけない対価かもしれない。


「それが出来るかどうか分からない。けれど、今は出来ることをしてみよう」


 法王の言葉にリューが頷く。出来ることが見つかりリューが落ち着いてきたことにホッとする。あのまま自暴自棄に走られたらどうなることかと思っていただけに。


「ヒナから貰った物は持っているかい?」


 リューは胸元をより強く押さえている。ヒナから貰った御守りを首から付けていると言っていた。


「それに思い(いのり)を込めるといい」


「ホーエンス卿、宿に帰すと周りが煩くてリューが静かに祈れないだろう。そこの者たちが借りている家がある。ヒナの容態がはっきりするまでそこでリューを預かりたいのだが、信頼出来る護衛を一人寄越してもらえないだろうか?」

「俺ではダメか?」


 タスクはダメ元で言ってみる。リューと自分がいないと二人でクスタリアに戻ったと大騒ぎになるだろう。自分は討伐隊に戻った方がいいことは分かっていた。


「君までいないと要らぬ詮索を呼ぶ。君は勇者がいないことへの討伐隊への言い訳を頼みたい。まあ、向こうも今は大変で追及する余裕はないと思うが」


 法王は意地の悪い笑みを浮かべている。先程帰っていった聖女たちに適当に言い訳をしろ(うそをつけ)ということだ。その聖女たちもあの荷物をどうするかでゴタゴタしているだろう。甘やかされたお嬢ちゃんが素直に応じるとは思えない。


「失礼します」

「師匠!」


 ミクラが神官に連れられて鏡の間に入ってきた。


「とりあえず今からの護衛に彼を連れてきてもらったが、良かったかな?」


 確信犯だ。

 ミクラは討伐隊にほとんどいない。行き先が同じ商人の護衛として討伐隊より先に出て逗留する町の様子を探ってもらっていた。討伐隊の進みが遅いから出来ることで、無理が利く鍛冶屋、修理が早い防具屋など必要な店を調べてもらっていた。

 そのミクラなら、討伐隊の者に不信に思われずリューの護衛に付くことが出来る。


「ミクラ、リューの護衛をしばらく頼む」

「いいですけど、なんでですか?」


 ミクラは胸のあたりをギュッと握り締めているリューを心配そうに見ている。連れてこられただけで何も知らされていないようだ。タスクはミクラに近づくき小声で簡単に経緯を話す。勇者の妻の事故にはそんな。と小さな悲鳴を上げてリューを心配そうに見ていたが護衛の件になると納得したように頷いた。


「あのお姫さんが知ったらもの凄く面倒なことになりそうですからね」


 ミクラが心底嫌そうに顔を歪ませた。確かにリューを慰めると言って何度追い返しても突進してきそうだ。討伐隊から姿を隠した方がリューのためになる。


「リュー」


 法王の呼びかけにリューが顔を上げる。


「食事と睡眠はとるように。リューが倒れたら気に病むのはヒナだからね」


 リューは言われた意味が分かったのか大人しく頷いている。


「私も持てる手の限りを尽くす。些細なことでも分かったら報せるよ。

 ホーエンス卿はもう少し私にお付き合い願おうか」


 タスクは顔を歪ませた。こちらも聞きたいことはあるが、法王は関わりたくない相手だった。


 ご案内します。その言葉にリューとミクラが神官と共に出ていく。鏡の間には、法王とタスクだけが残された。

お読みいただき、ありがとうございます。


リューがどんどん低年齢化してるように感じるのは気のせい?苦労してきた成人男性でしっかりしているはずなのですが・・・。


いいね、ありがとうございます。

誤字脱字報告、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神を信じないからこそ現実的なアドバイスできる法王が凄い [一言] 苦労もしたし超常を得て強くなっても、今この瞬間に大事な人を護れないんじゃ世の中を呪うことしかできないし、幼児退行も必然でし…
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