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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
魔王討伐の旅
38/71

法王 密談 (法王 終)

「で、では、何故それを言ってくださらなかったのですか!」

「誰が好んで火の粉を被ろうとする?」


 クレイサは震える声を冷たく拒絶する。


「火の粉だと! 話していただいていたら与太話だと母上が嘲笑されることはなかった」


 怒りの籠った低い声にクレイサはフンと鼻で笑った。


 勇者の血筋だとを名乗り出る者は多い。名乗り出たほとんどの者が確証を示すことが出来ず名声目当ての偽者とされていた。


 レイサーの母、ティヒト王妃の侍女が証拠として出した勇者となったルクセイトからメイサに当てた手紙やメイサの遺品は精密に作られた偽物とされた。それどころか、メイサは名声のために他の男の子を勇者の子と偽った阿婆擦れの詐欺師、その子孫ならティヒト王妃も詐欺師に違いないと嘲笑され、ティヒト王家の権威は低落した。王家は内政に力を入れ、離れてしまった民意を取り戻そうと必死になっていた。

 ヨークハサラの情報は信頼度が高い。ヨークハサラが勇者の子孫だと認めたら王妃の、王家の立場は正反対に変わっていただろう。


「当時ゴンズテラ国からティヒト国まで間に四つの国があった。メイサが死んだとされたのは三国目のマーダル国だ。たかが一国の公爵家の私兵がそこまで追うことが出来たと思うか? それもヨークハサラ相手に」


 クレイサは睨む青い瞳を呆れた目で見つめ返した。

 その情報は公開してはならなかった。その侍女は地方(いなか)貴族と嘲笑されている王妃のために公表したとなっていたが本当にそうだろうか? 忠誠心でというのならあまりにも短慮で浅はかだとしか言いようがない。


 メイサは魔物に襲われ廃村となった村の小屋で赤子を生むと亡くなった。身重の体で苛酷な逃亡生活、両親の伯爵夫妻は亡命先の隣国に裏切られ囮になって早々に死亡している。頼れる者が次々といなくなる中、身も心も限界が来ていた。元気に産声を上げる赤子の顔を見て、その子の無事を祈りながら息を引き取ったという。その直後に襲ってきた追っ手をどうにか撃退し、血塗れの産着と野犬の足跡で赤子の死を偽装した。赤子は野犬に喰われた、と。そして母を亡くした赤子と共にティヒト国にどうにか辿り着き赤子は家族を魔物に奪われた地方貴族に拾われた。


「そう簡単に増援を出せたと思うか? 魔物が往来する中で自領も守らねばならないのに。ヨークハサラでも中々人を回せなかったとあった」


 レイサーが体を震わせた。暗殺術にも長けたヨークハサラの者が追っ手を無傷のままにしておくわけがない。だが、追っ手は途絶えることがなかった、メイサとその腹の子の死を確認するまでは。


「お前も気付いているだろう。国など関係なくどの国でも自由に動ける兵は一つしかない」

「……しん…かん…へ…い………」


 クレイサは頷いた。各国の神殿にいる下級神官たちからなる神官兵。彼らは国の制限なく動くことが出来る。神殿のためならば。


「あの時、メイサの敵となったのは聖女リマの実家ではなく神殿だ。勇者の子を聖女以外が生むことをこの神殿が許したと思うか?」


 膝に置かれたレイサーの両手が血管が浮き出るまで握り込まれる。


 勇者と聖女は特別な存在。そしてその二人から生まれる子供も。特別な存在である勇者の子が聖女以外に宿っていたとしたら? いや、特別な存在である勇者の子は特別な存在である聖女しか宿せない、宿すはずがない。勇者の子供は聖女だけが生む。それが当然のことであり、それは守られなければいけない。


「し、神殿は与太話だと……」

「どうやって調べたのかは分からない。確証を得るために侍女を使ったのだろう。お前の両親は公表する気はなかったはずだ」


 レイサーは言葉を失い固まっていた。王妃の立場は余計悪くなってしまったが、その侍女は王妃のためにと思っての行動のはずだった。その後自害した侍女のためにも利用されただけとは信じたくなかった。


「で、どうする?」


 クレイサはもう一度問いかける。


「な、何がですか?」

「どうせ殺される運命だ。その命、どう使う?」


 クレイサの問いの意味が分からないとレイサーが顔をしかめている。


「まだ殺されるとは決まっていません」


 レイサーの答えにクレイサは笑った。


「ああ、そうだ。だが、どうせ散るなら俺の役に立て。その勇者の血で」

「貴方は私に何をさせたいのですか?」

「聞いたら後戻りは出来ないぞ」


 それは話を聞いた後拒否すればクレイサに殺されることを意味していた。


「な、何故、私、なのですか?」

「お前は勇者の血を引いている。そして、勇者が真に愛した者の血も」


 レイサーがゴクリと喉を鳴らしたのを了承とみて、クレイサは笑みを深めてゆっくりと口を開いた。



 その後、レイサーはクレイサに酷く虐げられるようになり、見かねた陽の君に拾われ陽の君の側仕えとなった。そして、レイサーは陽の君の側で実力をつけその側近候補までのしあがった。

 数年後、次期法王候補が発表された。大司教となっていた陽の君とクレイサ、その両名が法王候補と決定した。

 投票前からでも次の法王は陽の君だと言われていた。クレイサに投票するという者は無く、投票自体無意味だと囁かれていた。ところが事態は急変する。陽の君は巡礼中に行方不明となり、大捜索が行われたが見つからなかった。もちろん、陽の君に同行していた側近候補であったレイサーの消息も分からなかった。



 全て計画通り上手くいったはずだった。

 裏をかいて上手く誤魔化せたはずだった。

 なのに何故?

お読みいただき、ありがとうございます

次話は魔王討伐に追従する冒険者の話です

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次代になんとなくの一筋の希望が [気になる点] まあ今代には救いはないんだけどね [一言] 勇者の血が残ってるのが不思議だったんだけどそれを護った者がいたのね
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