違い
タキの章1話目(25話)割り込みで出生を追加投稿しました(2022/01/31)
27話違い、29話現実、二話連続投稿です。
お待たせしました。タキの章、完結させます。
少し書き足しました。話には影響しません。(2022/02/02)
「うるさい、うるさい、うるさい」
タキの父ヒューベットはタキなら勇者になれると言った。そう言ったんだ。だから、タキは勇者になる、勇者にならならければいけない。遠くにいる母ナタリのために。
「お、俺は勇者になる。この剣を上手く扱えるようになって」
「志はご立派です。タキ殿がその剣をまともに扱えるようになる頃にはケイサ殿は鍛練用の剣でも実践に近い訓練となっているでしょう」
リアタはタキが聞きたくないことばかり言ってくる。長剣を早く扱えるようになるのも上手く扱えるのもタキの方だ。じゃないといけない。いけないのに。
「ケイサ殿、何故、その剣を選ばれましたか?」
「えっ?」
急に話をふられてケイサが戸惑っていた。タキもタキを無視したリアタをきつく睨み付けた。
「あっ、剣? これ、を選んだ理由?」
ケイサは手にしている細身の剣を見て確認するように軽く振っていた。タキもそんな風に剣を振りたい、いや、本当ならもう振れるはずだった。手首さえ痛めなかったら。
「私も大人の剣が使いたくて。けど、長剣は重かったから、細身の剣だと少し重くなるだけで扱えそうだったから」
距離感が掴めなかったけどさ。
ハハハ。と軽く笑うケイサをタキは睨み付けてしまう。タキは迷わず長剣を選んだのに。ケイサは諦めるなんて軟弱だ、そう軟弱なんだ。無理と思っても使って頑張らないといけないのに……。
「ケイサ殿、その剣はいつも使われている鍛練用の剣よりほんの少し軽いですよ」
リアタの言葉に「そうなのか?」とケイサは目を見開いて驚いている。
タキも驚いた。ケイサがそんな重たい剣でもう鍛練出来ていることに。悔しい。そんな剣で鍛練していることに。タキはようやく構えることが出来るようになったのに。悔しい。悔しいけど、ケイサは一つ上だから。年が違うから。だから、だから、ケイサが凄いわけじゃない。来年になったらタキもそうなっている………、はず?
「つい最近新しいのに変わったでしょう。前の物より重くなっています」
「だから、また豆が出来たのか!」
ケイサはうんざりした表情をしていた。
タキは自分の両手を見た。綺麗だ。少しもゴツゴツしていない。豆なんか出来たことがない。潰れて痛いなんて経験したこともない。これで勇者になれる? いや、勇者にタキはならなければならない。
ケイサはマジマジと手にもっている剣を目の前に掲げて見ている。タキは重たくて選んだ剣をそんな風に見ることが出来ないのに。地面に転がっている剣を見る。今日はもう一度構えることが出来ても打ち合いは出来ない。
「あー、確かに重い感じはした。けど、この剣の方が軽いって思わなかった。大人の剣の方が重いって思ってるから」
「ええ、けれど、大人が使う剣でも子供の鍛練用より軽い物は沢山有ります。この短剣もそうです。この短剣は六代目勇者が魔王を倒した物を模しているそうです」
リアタの言葉に二人は目を大きくした。
「おや、ご存知ありませんでしたか。六代目勇者ヘータクの武器は槍でした。槍が折れてしまったため最後は護身用の短剣で魔王に止めを刺した、と言われております」
タキは首を横に振った。タキの持っている勇者の本はみな長剣で魔王に止めを刺している。だから、勇者は長剣しかダメだと思っていた。父も長剣しかタキに与えなかったから、そうなんだと思っていた。
「八代目勇者のヨータは樵でしたので斧が武器でした。その斧は重く騎士が二人がかりでやっと持ち上げることが出来たそうです」
これもタキが初めて聞く話だ。重いってどれだけ大きな斧だったのだろう。勇者の武器が剣だけではないのは驚きしかなかった。
リアタはタキの表情に頷くとゆっくり円から出て地面に転がる長剣を拾い歩きだした。
「ケイサ殿、剣を預けられてこちらに。タキ殿も」
ケイサはすぐ隣に来た護衛に剣を渡してリアタの後ろを嬉しそうについていく。タキも躊躇いながらも二人の後ろに続いた。
「リアタ殿、長剣を使わなかった勇者は他にはいないの?」
「そうですね、十二番目の勇者アナス。アナスが使ったのは子供用の剣だったそうです。アナスは腕力が無く子供用の剣しか振るえなかった、と伝えられています。勇者になったからと身体能力が上がるわけでもないということでしょうか?」
タキは目を丸くした。子供用の剣で戦った勇者がいたなんて。長剣に拘っていたけれどそれが正しかったのか分からなくなってきていた。
「ケイサ殿、手を」
鍛練場すぐ側の東屋に座り、リアタはケイサの手を取った。手に巻かれていた包帯を丁寧に解く。皮膚に近くなるほど包帯が赤く汚れていた。
「歴代勇者と聖女のことは神殿に行けば教えていただけます」
タキは今度神殿に行った時に聞いてみようと思った。勇者たちがどんな武器で復活した魔王と戦ったのか知りたい。
「豆が潰れましたね。で、痛いからと避けて握られていた」
「ちぇっ、バレてたか」
ケイサは唇を尖らせてバツが悪そうに顔を背けた。タキにはそんな風に見えなかった。ケイサは堂々と剣を構えているように見えた。
リアタは用意されていた水で傷を洗い、怪しい色をした軟膏を取り出した。
「そ、それは滲みるから違うので…」
ケイサの顔から血の気が無くなっていく。必死で手を引き抜こうとしているがリアタががっちりと掴んでいた。
「これが一番効くのですよ、嫌がる者は多いですが」
タキは両手で耳を塞ぎ、目をギュッと瞑った。ケイサの言葉にならない悲鳴が耳を塞いでいても入ってくる。恐ろしくて聞いているだけで体が震える。
声が聞こえなくなり恐る恐る目を開くと、右手首を左手で掴みながら苦悶の表情を浮かべているケイサの姿が。その目尻には涙が浮かんでいた。
「痛くてもしっかり握って素振りを二百としましょうか」
にっこり笑うリアタを恨めしそうにケイサは睨み付けていたが大人しく右手に新しい包帯を巻き始めた。
「本の勇者が長剣なのは?」
ケイサが聞いた。
「ケイサ殿、タキ殿、斧を見たことがありますか?」
タキとケイサは顔を見合わせた。木を切る道具で斧という物があるのは知っている。見たことはないが。樵という木を切る仕事をしている平民が使っていると講師に習った。
「本を読める者は主に王侯貴族や平民の富裕層です。使用人が使う斧や包丁を名前だけを知っている者がほとんどです。
長剣は騎士が帯剣しており、本を読める者たちが一番よく知る武器だからでしょう」
それに魔王は長剣で襲ってきます。長剣対長剣の方が描きやすいのかもしれません。
リアタの言葉に納得する。その方が恰好がいい。
「ところで、タキ殿、手首は完全に完治されていないのでは?」
リアタの言葉にタキはドキリとした。痛くはない、痛くはないけれど……。
「構えた時に左にズレているように感じました。痛まないのなら無意識に庇った構えをしているのでしょう」
リアタは鍛練用の剣を机の上に置いた。凄く軽そうな音がした。
「一番軽い鍛練用の剣です。柄を握る鍛練用の」
タキはこんな剣なんて必要ないと思った。握ることだけの鍛練なんて何の意味があるのか分からない。
「重さのある剣では右手首を庇う癖が付いてしまうかもしれません。この剣で癖が付かないように基本の型を鍛練しませんか?」
案外握るだけというのも辛いものですよ。
リアタはそう言うが、タキは頷くことが出来ない。握るだけが辛いなんて考えられないし、軽い剣で鍛練になるとは思えない。それに…、そんな鍛練、ヒューベットが許してくれると思えなかった。
「タキ、その剣での素振り、死ぬからな。フォークも持つの辛いくらいな状態になる」
ケイサの言葉に目が丸くなる。軽い剣なのに? 信じられない。
「私からヒューベット殿には説明します。ケイサ殿と一緒に素振りをしてみましょう」
タキは恐る恐るその剣に手を伸ばした。
凄く軽い、こんな練習用の剣があるなんて知らなかった。この剣なら手の皮が剥けるほど、豆が出来るほど振れそうな気がする。
少し試すだけだから、後でやっぱり長剣がいいと思うから、今だけ振ってもいいよね?
お読みいただき、ありがとうございます。
誤字脱字報告、ありがとうございます




