訓練
25話に割り込み『出生』を投稿しました。
(2022/1/31)
この話は27話になります。
練習を鍛練に変更しました。
格上の公爵家の誘いを断ることも出来ず、タキはワマーシル家に行くことになった。
タキ自身はワマーシル家に行くことは大好きだった。一つ年上のケイサはタキが勇者になることを緑の瞳をキラキラさせて凄いと言って応援してくれる。父ヒューベットに次いでタキの理解者だ。
いつもならケイサに会えると向かう馬車でワクワクしているのにそれが出来ないのは目の前で渋い顔をして座っているヒューベットがいるからだ。タキの祖父、ヒューベットにとっては義父に呼び出されたらしい。ワマーシル家から手紙が届いてからヒューベットの機嫌が悪く家でもピリピリしていた。
ワマーシル家に着くとまずはヒューベットと一緒に祖父に挨拶をした。
挨拶が済むと早々にタキだけ祖父の執務室を出た。今からタキには聞かせられない大人の話になるらしい。タキは早く鍛練場に行きたかったから丁度良かった。ワマーシル家の従者に案内されて通いなれた鍛練場に向かう。ケイサが訓練中だと教えてもらった。タキは剣を高く持つことが出来るようになったことをケイサに早く教えたかった。
聞こえてきた声に足が止まる。
「リアタ殿、今日はタキが来る。私も大きな剣で鍛練しているところを見せたい!」
タキの心に優越と焦りを感じた。一つ年下のタキが既に大きな剣を使っている優越感とタキより体が大きいケイサが上手く使えてしまったらの焦り。許可しないでと願ってしまう。
「では、今日だけですよ」
だが、リアタは許可してしまった。マーシャル家では偉そうにタキに説教をしたのに。
「タキ様」
訝しく促す従者の声にタキは足を動かした。
「ケイサ」
「タキ」
それでも二番目の理解者に会えるとタキの顔が自然と綻ぶ。
「タキ、こちらは私の講師のリアタ殿」
「ケイサ殿、タキ殿にはお会いしております。
タキ殿、見学ではなく参加されますか?」
その問いにタキは首を大きく縦に振る。ケイサに大きな剣を許していた。それでどう訓練するのか知りたく、タキもそれを実践してみたかった。
「では、鍛練に入りましょう」
リアタはそう言って手を叩いた。ワマーシル家の護衛騎士たちが数種類の剣を並べていく。短剣から大型の剣まで。もちろん子供用の剣もある。
「お二人はお好きな物をお使いください。私はこの短剣でお相手致します」
リアタは一番小さな短剣を手に取った。そして、鍛練場の真ん中に立つと円を書いた。大人が二人立てるくらいの小さな円だ。
「私はこの円から出ません。そして防御しかしません」
円の中心に立ったリアタは余裕の笑みを浮かべている。大人の、騎士としての余裕なのか。その笑みがタキを馬鹿にしているようでムカついた。
「私をこの円から出すか、参ったと言わせたらお二人の勝ちです」
タキは騎士が一般的に使う剣、長剣を選んだ。ケイサは悩みに悩んで細身の剣を選んでいた。そんな弱々しい剣で。とタキは思ったが口にはしない。ケイサが使いたいものを使えばいい。タキならそれは選ばないだけだ。
二人で相談する。短剣とはいえ、相手は現役の騎士だ。まともに掛かっていっても敵わない。だから、左右同時で攻撃することにした。
「行くぞ!」
二人同時にリアタの側面に攻撃した。ケイサはリアタの左側、タキは右側、リアタが剣を持っているほうだ。
キン!
ケイサの剣はタキの頭上より高い場所で短剣に押さえられ、同じくらいの高さでタキの剣は布を簡単に巻いた手で掴まれていた。
なんで?
タキは思った。タキの剣の方が怖いはずだ。大きな重たい剣、ケイサの剣より威力があるはずだからリアタはタキの剣を短剣で避けなければいけないのに。
スッとリアタが払うように両手を動かすとタキは剣を落とし、ケイサは剣を両手で持ったままふらつきながら後ずさった。
「………、なんで?」
タキはケイサが剣を持ったままでいることに驚いた。そして、ケイサは次の攻撃が出来るように構えている。タキも慌てて剣を持った。重たい。構えるのがやっとだ。
「ケイサ殿、間合いが近すぎます。その剣は鍛練に使っている剣より長いものです。その踏み込みではタキ殿に剣先がいくところでした」
タキは目を見張った。不自然な位置でケイサの剣が止められたのはタキを守るためだったことに。
「扱う武器に因って間合いも変わります。その剣なら踏み込みも考えて三歩後ろくらいが妥当かもしれません。
タキ殿も近すぎます。その距離だとケイサ殿に当たります。それにこの短剣でも踏み込まずにその身を攻撃することが出来てしまいます」
タキは恨めしそうにリアタを見た。近づかないとブレて標的に当てられない。仕方がないんだ! それにケイサには当てないように…する。
それに早く攻撃に入りたい。持ち上げているのもやっとなのだから、振り上げて攻撃する力が無くなってしまう。
「タキ殿、これが襲撃者や魔物だったらどうなると思いますか?」
タキは答えることが出来ない。考えてしまったらお仕舞いだ。まだ慣れていないからうまく持てないだけで、もう少ししたらちゃんと扱えるようになる。
「襲撃者や魔物に剣を構えるまで待ってくれと言うのですか?」
そんなこと言えるはずがない。それにそんなこと言う前に殺られている。それはタキでも分かっている。
「お、俺は勇者に……」
「勇者になる前に死んでもよいのならそうなさいませ。高位貴族が狙われることは多々あります。向かう場所によっては魔物も出ましょう。使えない剣を使えると振り回したいのならその責はご自分で背負いなさい」
「リアタ殿!」
リアタの言いようにケイサが声をあげる。それでは護衛に守ってもらうな、と言っているようなものだ。
「実際に襲われたら警護の者の言葉を無視して参戦されるでしょう。足を引っ張る自覚も無しに」
「そ、その時は子供用の剣で!」
この前も異母兄と外出中に襲撃にあった。異母兄がタキを押さえ付けて馬車から出さなかっただけで、子供用の剣で参戦するつもりだった。病弱でも八歳上の異母兄をタキは押し退けられず馬車の中で戦えない悔しい思いをした。
「碌に使えない剣で? 子供用だから扱うのは簡単だ? 真面目に訓練している者を馬鹿にしているのですか?」
タキにはそんなつもりはない。そんなつもりはないけれど、最初から重くて大きな剣を使おうとする自分の方が偉いし強いと思っている。
リアタはそんなタキの心情を読んでいるのか、大きく息を吐いた。
「うるさい!」
タキは剣を振り上げて、リアタに斬りかかろうとした。けれど、剣は途中でタキの手から離れてしまった。
キン
金属音が響き、タキの目の前に剣が転がった。宙に浮いた剣をリアタが叩き落としていた。
「碌に持っていられない剣で何を斬ることが出来る、と? 鍛練にもなりませぬ」
リアタの問い掛けにタキは答えることが出来なかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ここまでは書けていました。続きは書き上がり次第になります(汗)
誤字脱字報告、ありがとうございます。




