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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
閑話 王都に行くまで
24/71

騎士団4 (閑話 終)

閑話 終わりです

 ジフターは馬を飛ばした。それほど離れていないはずなのに中々馬車に近付かない。

 勇者と女性に関わるようになってから、二人の関係がよく分かった。依存しているのは、縋っているのは勇者の方だ。女性がいるから、勇者は勇者になった。では、女性がいなくなってしまったら……。

 嫌な汗がジフターの背中を伝う。早く早くと気は急くのに見えている馬車がすごく遠く感じる。

 馬車の方から馬が走ってくる。馬車が故障でもして報せに来たのかもしれない。だが、聞こえたのは聞くはずのない声だった。


「ジフター、何処に行くんだ?」


 のんびりした声だった。危機感など全くなくこの状況に満足しているような。

 馬には二人の騎士が乗っていた。一人は女性に近づくなと命じられていたマクロだった。


「あっちなら止めたほうがいい。馬が死んだから獣が集まってきてる」

「ヒナさんに何をした」

「悪女はいなくなって当たり前なんだよ」


 言い返したかった。けれどそんなことよりも早く女性を安全な所に移動させたい。勇者のためにも。世界を救う(じぶん)のためにも。勇者が魔王を倒さなければ、自分にも家族に(せかい)も未来はない。

 ジフターは引き止める声を背中に聞きながら馬を走らせた。



 勇者は目の前にいる魔物を蹴散らしながら、馬車を目指して馬を走らせた。兎や鼠の形をした小型のまだ力の弱い魔物たちだ。勇者が乗る馬に踏まれ形を無くしている。だが、騎士たちの馬はそんなことは出来ず、魔物も一太刀では倒せない。馬を降りて戦う者が増えてきた。


「と、飛び蜥蜴だ」


 バサッと羽音が聞こえ、黒い翼を持った蜥蜴が数十匹現れた。蜥蜴の魔物自体硬い皮膚を持ち素早い動きをする厄介な魔物だ。何回も切りつけなければその硬い皮膚に傷をつけることは出来ない。飛び蜥蜴はそれに加え翼があるため倒す難度は格段に上がる魔物だ。


「邪魔だ!」


 勇者が剣を一振りした。剣が通った場所にいた飛び蜥蜴たちは二つに裂けボタボタと地面に落ちる。

 勇者の馬は止まることなく走る。馬車まであと少しだった。魔物が間にいるだけで。


 サライは剣を振り勇者に倒されなかった魔物たちを仲間と共に葬りなからその後を追っていた。魔物を騎士一人で倒すことは出来ない。数人かがりで倒すのが基本だ。タキだけは剣士の証である剣で魔物を楽々と葬っている。魔物を簡単に倒せるのは勇者と剣士だけ、騎士たちは倒しても倒しても現れる魔物にパニック状態になっていた。


「リュー様、まず体制を整えましょう。このままでは騎士団が」


 サライは勇者に声をかけた。このままでは騎士団の被害が大きくなる。


「何故、ヒナを殺そうとした者たちを助けなきゃいけない?」


 勇者からは冷たい答えが返ってきた。チラリと振り向くと一人の騎士を睨み付けるが馬を止めることをしない。


「そこにいるヤツ、ヒナの、馬車の護衛についていたはずだ」


 サライの隣にいた騎士が顔色を変えていた。勇者が自分の顔を覚えていたことを。


「ヒナに何かあったら、あんたたちを許さない」


 勇者との間に魔物が現れる。サライは離れていく勇者を引き止めることが出来なかった。


「なんだ、あいつは!」


 タキは魔物を斬り捨てながら悪態をついていた。馬に乗っていたら魔物を倒しにくく、降りて剣を振るっていた。勇者が去った方へ向かいながら。


「彼らが馬車の護衛に当たっていたのは本当だ」


 サライも剣を振るう手を止めない。止めたら最後、魔物に襲われる。


「馬車が壊れて、そ、それを報せに」


 その騎士が言ったがそれはすぐに覆された。


「なら、誰が代わりに馬車へ? それに何故連絡がなかった!」


 現れたリアタが怒声を上げた。


最後尾(ここ)に来るまでに馬車の護衛をしていた者で顔を見なかったのは二人、お前ともう一人だけ。今、護衛の騎士が一人だけだと! あり得ないではないか!」


 タキの手が止まった。その隙に襲いかかる兎の魔物サライが叩き落とす。サライでは一撃で倒すことは出来ない。


「あ、悪女がいなくなれば、勇者も……、ぎゃぁ!」


 騎士の顔に鼠の魔物が襲いかかる。騎士は慌てて逃げようとしたが顔に鼠が爪を立ててぶら下がっていた。


「戦えない女性を置き去りにするのが騎士なのか?」


 リアタはその騎士の魔物を叩き落とし、剣を突き立てる。


「どちらにしろ、勇者は聖女と結ばれる。早く始末出来ていいではないか」


 続いて現れたヒューベットは息子のタキがいたのに気が付いて顔をしかめた。勇者を目指していたタキは清廉潔白であれ。と教えて育ててきた。極力汚い部分は見せないようにしてきたつもりだ。タキが驚愕の顔をしているのに気が付いたが今は魔物を殲滅するのが先だった。


 突然、大きな影が落ちる。曇天なのにその影は黒々とはっきりしていた。頭上を見上げると羽を広げた黒竜が騎士団を見下ろしていた。


「り、竜だ!」

「もうダメだ!」


 騎士団の中から叫び声が起こる。巨大な魔物に誰もが死を予感した。

 金色の線が空に走った。雲が割れ、竜の体も半分に分かれボロボロと崩れていく。騎士達が戦っていた魔物も土屑のようにあっという間に崩れてしまった。


「勇者だ!」

「勇者の力だ!」


 騎士団は歓喜に湧いたがそれは一瞬だった。



「お前か?」


 勇者が一人の騎士に剣を向けていた。


「さ、さすが勇者様。竜を一撃で倒すなんて」


 傷だらけになりながらもマクロは勇者の力に興奮していた。馬車を囲んでいた魔物は一瞬で勇者に倒された。それに空に走った光は勇者の剣から出たものだ。やっぱり勇者は凄いんだとマクロは改めて思っていた。


 あの時、マクロたちは隊列に戻ろうとしていたが魔物に遭遇したため、ジフターを連れに馬車まで戻った。魔物を倒して進むには人数がいる。ジフターも魔物のことを聞けば大人しく従うと思って。だが、ジフターは女性を助けることを優先した。その間に魔物に囲まれ逃げることが出来なくなっていた。


「許さない」


 勇者の怒気で空気が震えていた。冷たい冬の朝のように肌に空気が刺さる。

 勇者が金に光る剣を軽く振った。ビシっと音がなりマクロの手前まで地面が割れる。騎士団の者たちは誰一人勇者の怒りの前に動けないでいた。


「わ、私は勇者様のことを思って…」


 マクロも勇者の怒りが自分に向いているのに気が付いた。


「誰が頼んだ」


 ゆらりと勇者がマクロに近付く。マクロは後退ろうとするが足が動かない。


「お、女に騙されて…」

「騙されてなんかいない。ヒナは俺の妻だ!」

 

 ビシっとまた地面が割れる。


「勇者様は聖女様と…」

「勝手に決めるな!」

「で、でも、みんな…」

「作られた勇者を俺に押し付けるな。俺は生きている人間だ。神殿やお前たちが作った偶像じゃない。俺には俺の意思がある!」


 マクロの前に立った勇者が剣を振りかざした。勇者の言っていることは全く分からない。けれど何を言ってもう許してもらえそうにないことだけはマクロでも分かった。


「お、お待ち下さい」


 止めたのは満身創痍のジフターだった。ジフターは女性を守りながら一人で戦っていた。魔物に剣を取られ、女性を隠すように覆い被さり魔物から守っていた。


「リュー様が人を傷つけたら、ヒナさんが悲しみます。だから、どうか…」


 顔を歪めながら体を起こしたジフターの下から気を失っている女性が現れた。


「ヒナ!」

 

 勇者は女性に駆け寄り、その体を抱き上げていた。勇者の体から金の光は消え、その威圧感は無くなっていた。


「ヒナ、ヒナ。良かった、生きてる。ジフターさん、ありがとう」


 女性は細かい傷はあるが、大きな怪我はなさそうだった。


「ま、もれ、て、よ、かった、です」


 ジフターの体はゆっくり倒れ、その意識は薄くなっていく。

 ジフターは満足していた。どこもかしこも痛くて堪らないが、女性を守りきれたことに。




「ジフター、何故、勇者の妻を守った?」


 ケイサはベッドの上から動けないジフターを見舞いに訪れていた。ジフターの怪我は酷く、足に麻痺が残るため騎士団は退団することになった。


「私は家族を守っただけです」


 ジフターの言葉にケイサは怪訝な顔をする。ジフターが守ったのは勇者の妻だ。


「ヒナさんに何かあればリュー様は勇者を辞めてしまったでしょう。魔王が倒されなければ世界は終わってしまいます」


 馬鹿な。とケイサは言いたかった。勇者は魔王を倒せる唯一の存在。妻が死んだからと勇者を簡単に辞められるものではない。だが、あの時の勇者の怒りは凄まじかった。それもあり得ると思えるくらい。


「リュー様は本当に本当に普通の人なんです。勇者になってしまっただけで」

 

 ケイサは黙って聞くことにした。タキが何故勇者になれなかったのか分かるかもしれない。


「普通の人に世界を救うなんて無理なんです。家族を守ることで精一杯です」


 それは分かる。分かるが普通の者が勇者に選ばれたのだ。その覚悟を持ってもらわねばならない。


「タキ様のように勇者となる努力をされた方なら大丈夫でしょうが、普通の人にはそんな責任、背負えません。重すぎて潰れてしまいます」


「けど、家族を守るためなら。魔王を倒さないと大切な家族(もの)が不幸になってしまうのなら……」


 ジフターが窓の外を見た。ケイサも連れて窓から見える青い空を見た。勇者は剣士たちと共に魔王討伐に既に旅立っている。この空の下、魔王の城を目指しているはずだ。


「世界の為なんかじゃない、そんなのはやれる人がやりたい人がしたらいい。力があっても自分が守れるのは、守りたいのは大切な家族(もの)だけ。それなら必死になって命もかけられる。普通の人でも」


 大切な者のためなら命をかけられる? 世界のためなら無理なのに? 世界の方が重要だ。世界が無くなれば大切な者もいなくなってしまうのに? 大義などない、大切な者を守るのはむしろ当たり前のこと。それなのに?

 ケイサにはその考えは理解出来なかった。


「ヒナさんを守るということは家族を守ること。だから、私は命をかけて守ったのです」


 ジフターは笑顔でそう答えた。

お読みいただき、ありがとうございます。

マクロは生きてます。呪い対象者ですので。

数日後にタキの章を投稿します。


誤字脱字報告、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] エルフのお陰で、来世では会える それだけが救いです 辛いからもう読みたくないのに止まらないなんてヒドイ
[気になる点] 逆説的に結果を知ってるから耐えられる この小説は凄い [一言] ジフターが生きてて良かった 話せばわかってくれるって言うのは共通の下地が無いと無理なんだな
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