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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
閑話 王都に行くまで
23/71

騎士団3

 厚い雲が空を覆っていた。勇者が王都にようやく着くのにその空は今にも泣き出しそうだった。この相応しくない空模様は一人の女性のせいだと囁かれていた。


「勇者リュー様は馬に乗っていただきます」


 王都に出発するため、妻である女性と馬車に乗り込もうとした勇者はヒューベットに止められた。


「馬には乗れる。それにヒナを一人にしたくない」


 勇者は心配そうに先に馬車に乗った女性を見ていた。離れることが余程不安なようだ。


「そのお姿を民衆に見せていただく必要があります。馬車には精鋭の騎士を周りに配備いたします」


 ヒューベットの後ろに並ぶ騎士達がサッと頭を勇者に下げていた。


「俺も馬車と並走する」

「いえ、リュー様は一番目立つ場所にいていただかねばなりません」


 勇者の射るような視線をヒューベットのは受け止めた。ここで折れるわけにはいかなかった。民衆に報らしめるため勇者は堂々と目立って王都に入場しなければならない。


「私がヒナ様の側に」


 ジフターが名乗りを上げるがヒューベットがそれを認めない。


「第五騎士団は決められた配置にいるように」

「なら、王都にはいかない。ここでヒナといる」


 勇者は手を差し出して、女性に馬車から降りるように促していた。


「勇者なのです。そんなこと許されることではありません!」

「あんたたち、信用できないから」


 サラリと言われた言葉にヒューベットは眉を寄せた。リアタから暴走した団員が女性を危険に晒したと報告は受けた。そのため、勇者は騎士団を信用していないとも。


「リュー、大丈夫だから。騎士の方々が守って下さるのでしょう」

「ヒナ…」

「リュー、大丈夫だよ」


 勇者は大きく息を吐くとはっきりと宣言した。


「必ずヒナを守ること。ヒナに何かあったら、俺は勇者を止める」


 ヒューベットは御意と頭を下げて、勇者に分からないよう鼻で笑った。勇者を止めるだと。簡単に言ってくれる。その肩には世界の平和がかかっているのに。女などに現を抜かしているから出る発言だ。この者は勇者としての自覚がなさすぎる。


「ヒナ、絶対守るからね」


 マントを付けて騎乗した勇者に皆が見惚れた。背筋を伸ばし凛と乗る姿は騎士達と比べても遜色ない。平民が馬に乗る機会など滅多になかったはずなのに。


「リュー様、馬はどこで?」


 これも勇者の力なのか。不思議に思い、ヒューベットは聞いてみた。


「荷物の配達で。親方から教わった」


 ヒューベットはその話に納得した。荷馬車に積み忘れた荷物を届けるのに馬を使うことが度々あったそうだ。雇い主が教えたというが乗馬の心得がしっかりあった者なのだろう。


 勇者と剣士であるタキを二番手として、騎士団は町を華々しく出発した。途中で第二騎士団も合流し、行列は大きくなっていく。旗を掲げた第二騎士団は後方を振り返る勇者の視線を遮った。勇者は後方にいる馬車を目視できなくなった。


 馬車は後方で騎士達に守られて走っていた。一人、また一人と騎士が馬車を抜かしていく。とうとう馬車の後ろには誰もいなくなった。そして、ゆっくりと速度が落ちていく。前を行く騎士達との間に距離が開いていった。


 ジフターはちょうど列の真ん中くらいに配備されていた。後ろを振り向くと馬車が遠くに見える。遅いのではなく離れていくように見えた。


 おかしい


「リアタ団長、馬車に行ってきます」


 リアタ団長は後ろを振り向き、眉間に深い皺を刻むと頼む。と頷いた。自身は騎士団長ヒューベットの元に馬を近づける。


「ヒューベット団長、馬車が遅れております。一旦足を止めましょう」

「陛下が首を長くして待っておられるのだ。このまま進む」


 ヒューベットはチラリと後方を見たが平然と馬の腹に蹴りを入れ、馬足を速めた。


「速度を上げろ!」

「では私は馬車のほうに参ります」

「規律を破るのか?」

「リュー様の仰ったことは脅しではありません。本当にヒナ様に何かありましたら、魔王討伐には参加されないでしょう」


 リアタはそう言うと馬首を反転させ、後方に走らせようとするが他の騎士達が邪魔をされ中々進めない。

 ヒューベットは馬鹿な事を。と本気にしなかった。が、隊列を崩されては困るとリアタの離脱を許さなかった。



「馬車が見えない。止めてくれ」


 副団長であり第一騎士団長でもあるサライは何度目か分からない勇者の言葉に同じ返答を繰り返した。サライは勇者のすぐ後ろに控えている。


「その分遅くなります。早く王都に入った方が安全です」


 団員の若い者たちが何やら計画をしているようだった。サライはヒューベットにそれは報告はしたが、黙認しろと言われている。そして、防壁の前まで決して足を止めるなとも。黒い点だった王都は門がはっきり見える距離まで近付いていた。


「騎士団が守っている」


 不機嫌なタキの声に勇者が反論する。


「信用できない。騎士団に何回もヒナは害されている。魔物の前に連れ出されたこともあった」

「騎士を馬鹿にするのか! 無力な女性にそんなことはしない」


 この会話も何回も繰り返されている。勇者が言っていることが本当なのをサライは知っていた。ヒューベットはタキには教えなかったようだ。だから、タキは騎士がそんな非道なことをするはずがないと信じ勇者と口論になっているようだ。


「ま、魔物!」


 サライが馬を飛ばすと言う前に勇者は馬を反転させ、後方に走り出していた。


「ヒナ!」


 サライもタキも後方に馬を走らせた。戦うよりも早く王都に入ったほうがいい。勇者を止めて王都に向かわせなければならなかった。

 勇者は行く手を他の騎士達に遮られていた。


「勇者様は早く王都に」

「ここは我々に」

「うるさい! どけ!」

 

 勇者の怒気が飛ぶが騎士達も引かない。


「リュー様、王都に向かわれますよう。魔物は我らが食い止めますので」


 ヒューベットの言葉に勇者が殺気を纏って聞いた。


「馬車の姿がない! ヒナをどうした!」

「平民の娘など気にしている場合ではございません。リュー様は早く王都に」

「だから、あんたたちは信用できないんだ!」


 バンと勇者の体が金色に包まれた。その体から発せられる威圧にヒューベットたちは思わず後退る。勇者は出来た隙間から隊列を抜けて馬を走らせた。


「リュー様、ジフターが向かっています」


 騎士達に囲まれていたリアタが勇者に向かって叫ぶ。勇者は頷いて、馬のスピードを上げた。

 馬車の周りには魔物らしい影が見えていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

明日、閑話 終 となります。

騎士団2は書き直す予定です。大筋は変わりません。ヒューベットの親バカとサライのことを追加したいと思います。


城壁を防壁に変更しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあよくも勇者の目の前で勇者の愛するものを害しようと思うな。 まだ短編のタキのしたことは裏から裏に消したから目前ではないくらいなのに。 呪いのせいらしいが、初対面ながらなんの偏見もない人も…
[一言] 魔物よりも騎士団の方が敵じゃん むしろよくこの後に討伐の旅に出る決心ついたなって思うぐらいに不和が酷い
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