騎士団2
短いです。
ヒューベットは思い出そうとしていた。あの勇者の顔をどこかで見た覚えがあった。瞳の色はもちろん違う。金の瞳はこの世界で勇者ただ一人。だが、妻である女性に向けたあの柔らかな笑み。あの笑みは確かに昔見たことがあった。誰だか思い出せないが、滅多に会うことが出来ないとても高貴な方だったような気がする。だが、思い出せないものは仕方がなく、第五騎士団長リアタの話に耳を傾けた。
ヒューベットは息子タキの怒りはもっともだと思った。タキは勇者となるべく心・体・技を鍛えてきた。けれど、タキが選ばれたのは勇者を支える剣士だった。どれだけ悔しかったのか、それはタキ本人しか分からない。タキが剣士としての役割を受け入れ、やっと対面した勇者は最初から喧嘩腰でこちらを敵対視していた。英雄勇者を一目みたくて皆出迎えていたのに。皆の期待を無視した勇者の態度もタキは許せないようだった。
リアタの説明もタキの怒りに油を注いでいた。頭に血が上っているタキには理解できないだろうが、勇者の心情もヒューベットには納得出来るものだった。平凡に生きてきた、人並みの幸せも手に入れて。それが突然特別な存在と言われ、戸惑わない者は少ないだろう。だが、周りは戸惑う暇も与えず勇者としての責任と理想をただ押し付けるだけだった。手に入れた幸せも否定して。それでは勇者であることを嫌悪もしたくなるだろう。
だからといって、ヒューベットは何もするつもりはなかった。勇者にはタキがなってほしかった。いや、なるべきだった。あれだけ努力をしたのだから。それなのに彼の者が勇者になったのだ。苦労して当たり前だとも思う。
それに勇者は魔王討伐に、その妻はその間城で暮らすことになっている。騎士団としては、無事に二人を城に届けるのが今回与えられた任務だ。もう王都は間近で何も起こるはずがなかった。
神殿に礼拝に行くと司祭は最後に必ずこう言った。
『魔王が復活しても選ばれた勇者様と聖女様が必ず魔王を倒し必ず平和にして下さいます』
そうやって勇者と聖女は魔王を倒せる特別な存在として人々に刷り込まれていく。勇者は英雄として、聖女は神の御使いとして、理想は作られた。
礼拝に行けるのは一握りの者たち、王公貴族や富裕層の者だ。ほとんどの平民は礼拝に行く暇などなく生活する為に働いている。しかし、礼拝に行けなくても偉い人がそう言うのならと無条件で司祭や王公貴族たちの言葉を信じてしまう者がほとんどだった。
人々に根付いた理想を壊すのは容易くない。誰もが理想に勇者を填め込もうとする。少しでも理想と違えば魔王が倒せなくなるかもしれない。そんな不安が付き纏う。そのため余分な女性は排除しなければならなかった。
「勇者は誑かされている」
そう話し合う声がする。
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