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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
リュー
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港での仕事

 リューの仕事は荷物の印付けになった。荷物に書かれた文字を読み、どの荷物を何処に運ぶか印をつける係だ。一番端の船着き場に運ぶ荷物には△、西の町行きの馬車に乗せる荷物には○と印をつけていく。運ばれた荷物が合っているかの確認もリューはしていた。

 この国では平民が文字を学ぶ機会はほとんど無く、生活していく上で必要な文字だけ覚えていく者がほとんどだった。この港町も例外ではなくほとんどの者が生活に関係ない文字を読めなかった。だから、きちんと文字が読める者は貴重な存在でどこも取り合いだった。

 リューが住んでいた村はもっと酷かった。ほとんどの者が文字が読めず、名前も書けない者が多かった。文字が読めるのは村長と跡継ぎであるその息子、流れ者のリューの父親、その父親に読み書きを習ったリューだけだった。いや、村長とその息子も村を纏めるのに必要な文字を知っているだけだろう。リューが練習で地面に書いていた『おはよう』の文字を落書きと笑っていたのだから。


 リューは一生懸命働いた。馬車でここに連れてきた人に言われていた。見た目は怖いがルハが一番できた買主(やといぬし)だと。だから、ルハに役立たずとされたら村に()()となると脅された。それだけは嫌だった。

 ルハはリューを奴隷のように扱わなかった。宿舎として借りている建屋にリューの部屋を準備し、他の雇っている者たちと同じ扱いをした。朝から晩までルハの命令に従い働くという日は全くなく、それどころか病み上がりでまだ子供だからと仕事の量も調節してくれた。


「リュー、交代だ。書類、片付けたら上がれ」


 リューは持っていた商品一覧表をルハに取り上げられた。


「親方、その子供(がき)だけずるいぜ」

「こいつは病み上がりだ。無理させて寝込まれる方が損する」


 あの流感でルハが雇っていた文字が読める者がいなくなってしまった。死んでしまったり、他に好条件で引抜かれたりで。ルハも文字が読めるが商談や書類整理で常時港の現場に詰められるわけではない。文字が読めるリューは貴重な人材だった。


「でな、リュー(こいつ)が気に入る気に入らないは勝手にしろ。だが、仕事の邪魔はするな」


 集まっていた荷運人の中に顔を歪める者たちがいる。


「配送を間違えたら、こっちが金を払うことになるんだ。お前らに払う賃金が減る。それでもいいなら続けろ。それから(ここ)で運び直しがあったらこれから罰金をとる」

「そんなことしたら、そのリュー(がき)の金が無くなるぜ」


 下品な笑い声が幾つもする。

 何度かリューが付けた印通りに荷物が運ばれていないことがあった。確認したリューが近くにいた荷運人に頼んで運び直しているが、皆他の仕事もあり二度手間であるその仕事は嫌がられた。ルハの方にも苦情がいったのだろう。

 リューは俯いてギュッと手を握りこんだ。村でもよく遭ったことだ。いや、村の方が酷かった。だからまだ我慢できると思っていた。


「ああ、こんな風に印を消したヤツを見つけて運び直したヤツに手間賃だと与えるだけだ。分かったな」


 ルハが示した荷物には辛うじて△のようなものが書かれた跡があった。

 リューはルハを見た。眉間に皺を作ったルハは荷運人たちを睨み付けていた。ルハはリューがミスをしたと思っていないことに驚いた。村人はなんでもかんでもリューたちのせいにしてきたのに。


「そいつが間違えて消して、新しいの書き忘れただけじゃあ?」

「じゃあ、なんでここにある? で、なんでお前らはリュー(こいつ)に聞かず印のないのをここに運んだ?」


 印がついていなければ確認する。それは配送ミスを無くすために決められていること。それが守られていないことをルハは指摘する。


「荷物を乗せる時間が早まることもある。そん時は誰が責任を取るつもりだったんだ?」


 低い声の問いかけに誰も答える者はいない。荷物が足りず各場所を確認したら、早く到着していた荷馬車の中から見つかったのはごく最近の話だ。奥にあったため荷台から全て降ろし積み直した手間を忘れている者は少ない。


「次はないからな」


 ルハの言葉にゴクリと唾を飲み込んだ者たちの一部は次の日港から姿を消していた。


「お前はさっさと行け!」


 まだ立っているリューに気付き、ルハはシッシッと書類を振ると集められた荷物の確認を始めた。確認がされていない荷物をそっと運び出す者もいる。この場所は○印の荷物だけなのにそれには□印の跡が付いていた。

 リューは頭を下げて小屋に向かった。小屋には書きかけの書類があった。荷物の運び直しの騒ぎを聞き付けてルハが仕事が途中なのに出てきてくれたことにリューは驚いた。そして嬉しかった。リューの働きをルハがきちんと認めてくれていたことが。


 港で働く者たちは最初リューをよく思っていなかった。容姿が整っていて読み書きが出来るリューは厄介なお貴族さまの庶子(あずかりもの)だと思われていた。今後起こるだろう余計なゴタゴタに巻き込まれたくないと倦厭されていたのもある。ルハに諭された(しかられた)のもあるがどんな仕事でも文句一つ言わず港中を走り回るリューにいつしか皆絆されていった。リューは港で働く者たちに可愛がられながら成長していった。

お読みいただき、ありがとうございます。


誤字脱字報告、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここからどう展開していくか楽しみです
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