第五騎士団3
第五騎士団、団員マクロは不満だった。もちろん腑抜け勇者にだ。
マクロは男爵家の三男だった。考えることは大嫌いで体を動かすことは大好きで得意だった。だから、騎士になった。何も考えないから、勇者候補にも進んで立候補した。勇者になったら英雄扱いでみんなからチヤホヤされていいんじゃないかという気持ちで。まあ、幼い頃から勇者になるべく鍛練してきたタキ様がいるから、勇者になることが難しいのは馬鹿なマクロでも分かっていた。そのタキ様も勇者には選ばれず、勇者の仲間の剣士だった。だから、勇者には期待していた。あのタキ様が成れなかったんだ、どれだけ素晴らしい方なんだろう、と。マクロの中で期待と理想だけが大きく膨らんでいた。
ラッキーだった。マクロがいる第五騎士団が担当する地方に金色の光が飛んできたのは。マクロはワクワクした。妄想はどんどん膨らみマクロの中では勇者は触らずにして魔物をやっつける凄い人となっていた。
マクロが勇者を見た時、その容姿の素晴らしさに思わず見とれた。勇者たるもの、その容姿さえも素晴らしいものなのかと感動した。だが、その感動は勇者の隣にいる可愛いけれど不釣り合いな女の存在で一瞬にして霧散した。
聖女である王女様がいるのに!
マクロは憤った。マクロは遠目でしか見たことが無いが、聖女である王女様はとても綺麗で生きている人形のように可愛らしかった。勇者の隣に立ったら、一対の絵画のようにお似合いだろうとマクロでも思う。
勇者は何においてもその女を優先とした。それを団長のリアタも承認している。最近までマクロたちと同じ意見だった副団長のケイサまで勇者の肩を持つようになってきた。
だから、マクロは行動を起こした。
「ばっかもーん!!」
マクロの体は床に激突した。リアタ団長に殴られたのだ。
「戦えないヒナ殿は守られなければならない存在。それを魔物の前に連れ出すとは!」
リアタ団長の激高が部屋に響き渡る。
マクロは騎士団が魔物と遭遇した時、危ないからと女を馬車から降ろし魔物の前に連れて行った。女がいるから悪いのだと、勇者が惑わされるのだとマクロはそう思っている、今も。だからそうした。魔物に襲われそうになっている女に気付き、勇者が助けてしまったから失敗してしまった。
「お前は騎士としてもやっていけないことをした。それも分かってないようだな」
マクロはリアタ団長が何を言っているのか分からない。勇者を誑かす悪女は死んで当たり前なのに。
「我々騎士の仕事は民を守ることだ。ヒナ殿はこの国の民の一人、守るべき存在なのだ」
「け、けど、団長、あの女は勇者を騙して…」
マクロは間違ったことをしていない。ほとんどの団員が言っている。あの女は悪女で邪魔な存在だと。
リアタは部屋を見渡し、大きく息を吐いてから眼光を強くした。
この部屋には勇者の警護についている者以外の団員が集められていた。今、勇者の警護についているのは女を悪女と言わない者たちだ。
「お前たちが勇者が特別だと思っているのは分かっている。私もそう思っていた。だが、リュー殿は我らと同じ特別でもなんでもない、普通の人だ」
マクロは違うと言いたかった。けど、リアタが睨み付けているから言えなかった。
「勇者になるまで普通に暮らしていた。それは分かるな。リュー殿は勇者として目覚めても何一つ変わっていなかった。ヒナ殿に対する思いも」
違う。とマクロは心の中で叫んだ。騎士が三人がかりで倒す魔物を勇者は一人で倒せる。何回も切り付けないと傷をつけられない魔物が勇者なら一太刀で傷を付けることが出来る。同じ武器を使っていても違うんだ。やっぱり勇者は特別な存在だ。特別な人の相手は特別な人じゃないといけない。マクロはそう思う。みんなもそう思っているはずだ。
リアタがまた大きく息を吐いた。
「ジフター、妻君が跡継ぎを産み、安泰だな」
急に話を変えたリアタにマクロは首を傾げた。何故、ジフターの子供の話題なんだろう?
「はい、戻ったら子供に会うのが楽しみで」
ジフターはマクロと一緒になって女を罵っていることを隠していない一人だ。嬉しそうに子供のことを答えている。
「もし、あの金の光がジフター、お前を選び、お前が勇者となっていたら? 勇者だからと妻君と子供と簡単に別れられるのか? お前自身の気持ちは勇者となっても全く変わってないのに?」
マクロは痛む頬を押さえ何も答えないジフターの方を見た。
ジフターは勇者じゃない。けど、勇者なら聖女を選ぶのが当たり前だ。ジフターもそう言っていた。だから言ったらいいのに。自分は勇者じゃないと。勇者なら聖女を選ぶべきだと。なのに何故何も言わないのかが不思議だった。ジフターは顔を強張らせ固まっていた。その側にいた者たちも。
「マクロ、お前の妹君が結婚したそうだな」
「はい!」
マクロは嬉しく声を弾ませて答えた。マクロの妹は長年付き合っていた思い人と先々月やっと結婚した。それはそれは幸せそうだった。
「その妹君の夫君が勇者だったからと、妹君が家に帰されたらどうだ?」
リアタの言葉にマクロはどう答えたらいいか分からない。そもそも妹の旦那は勇者じゃない。だからそれはあり得ないことだ。なのに何故聞かれたのかも分からない。だからこう答えるしかなかった。
「妹の夫は勇者じゃありません。それに二人は思いあっているので妹が家に帰ってくることもありません」
リアタがこめかみを押さえて何故か頭を振っている。周りの視線が呆れて冷たいのはマクロの気のせいだろう。マクロは本当のことしか言ってないのだから。
「マクロ、お前が好きな人がいて結婚できた。勇者になってもその女性を愛しているのならどうした?」
リアタはまた訳の分からないことをマクロに聞く。マクロは勇者になれなかった。それに好きな人もいない。だから、そんなことを聞かれても困る。だから、正直に答えるしかない。
「私は勇者ではありません。好きな人もいません。何故そんなことを聞かれたのか分かりませんが、勇者なら聖女を選ぶべきです」
マクロは堂々と答えた。マクロの本心だった。
リアタが一番大きく息を吐き、首を横に振っていた。完璧な答えのはずなのにどうしてそんな態度をとられるのか全くマクロには分からない。
「マクロ、王都に着き次第、お前はこの団から除名する。お前たち、マクロをリュー殿とヒナ殿、特にヒナ殿に近づけるな!」
「「「「「はっ」」」」」
「団長!!」
マクロが反論しようとするが、リアタの突き刺さすような冷たい視線で何も言えなった。
自分は間違っていない。マクロは今でもそう思っている。
お読みいただき、ありがとうございます
マクロは馬鹿過ぎる脳筋です
誤字脱字報告、ありがとうございます。




