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金の瞳の勇者 ー勇者の呪い 連載版  作者: はるあき/東西
ルハ
13/71

目的

 リューとヒナが結婚してから半年が経った。守る者が出来たからか精力的に働くリューにルハは楽をさせてもらっていた。


「法王がこの国に来るそうだ」

「へー、なんで?」


 子豚亭の親父はルハに背を向けてせっせと明日の仕込みをしていた。


「聖女の洗礼をするんだと」


 左手首に聖女にしかない金色の痣がある王女はまだ聖女の力を覚醒していない。それは、法王に聖女として洗礼を受けていないからと言われていた。聖女の力は魔王の力を弱める不思議な力。覚醒しなければ魔王討伐は厳しいものになる。


本神殿(むこう)に(王女(せいじょ)が)行くんじゃないのか?」


 ルハは背を向けている子豚亭の親父に首を横に振った。本来ならそうだ。聖女の証がある者は本神殿に赴き、聖女としての洗礼を法王から受ける。


「いんや、長い間認めなかったんだから、法王(そっち)が来い、と」

「ここの王様も強気だねー。けど、来るしかないか。追い詰められてんだろ」

「魔物の数と力が増しているらしい。悠長に(噂の)火消ししていられねぇってわけだ」

「それはそれで嫌な話だ。マジで準備しなきゃいけないな」


 振り向いた子豚亭の親父は顔を歪めている。こっちの生活が脅かされそうな話は誰でも聞きたくない。


「ああ。畑、作ろうかな」

「お、お前が畑?」


 子豚亭の親父がプッと吹き出した。


「食うもん、無くなったら困るだろ」

「それはそうだが、似合わねぇ」

「リューにさせるからいいんだよ」

「お前、うちの婿を扱き使いすぎなんだよ!」

「あれは、俺のだ! 扱き使って何が悪い」


 まだこの頃は笑うことが多かった。



 ルハが嫌な胸騒ぎを感じたのは二人の結婚から一年が過ぎた頃だった。

 法王の洗礼を授かる前にこの国の王女が聖女の力に目覚めた話を聞いた。剣士も目覚めた(きまった)らしい。賢者のエルフはこの世界に長く居られないため、出発のギリギリに来ることになっている。魔王討伐に必要なのは()()()()()()()となった。勇者だけ覚醒して(たり)ない。それが何故か無性に気になった。


 ルハは記憶を探る。勇者の記述を確かにどこかで読んだ。昔、まだ多くの者にかしずかれていた頃に。何が書いてあったのかよく思い出せないが碌でもないことだったような気がする。


 そのうち、国が「勇者と聖女」の本を配りだした。国王が勇者を取り込もうとしている。王女の夫として。権力者としてそれは分かる。だが、この内容は……。


「リュー、もしお前が勇者に選ばれたらどうする?」


 ルハは聞いた。冗談ではなく確認だ。勇者は恐らく碌でもない者が選ばれている。そうリューのように唯一と思える者がいるヤツが。


「えっ、嫌ですよ。絶対断ります」


 リューの答えはルハの思っていた通りだった。だから、余計に不安になる。リューが選ばれないようにと願ってしまう。



 勇者には愛する者がいる

 愛する者の元へ戻った勇者はいない

 愛する者の元に戻れなかった勇者に幸せになった者もいない

 愛するものを失った勇者はすべてを呪う

 試練は既に始まっている



 思い出した禁書の文。これが何を意味しているのか、ルハには分からない。嫌な感じだけが強くなる。


「どうした? ルハ。シケた(つら)して。まだ港の仕事はあるだろう」


 ルハは店の隅に山積みとなっている『勇者と聖女』の本に鋭い視線を向ける。


「この国の王様も大胆なこと書くねー。他国から文句きてるんじゃないか?」


『勇者と聖女が住む国は大いに繁栄し皆幸せに暮らしました』


 子豚亭の親父も呆れた声を出しながら、本を一冊取った。パラパラと捲る。最後の一文、その国しか幸せにならないのか、その国が他国より富むのか。どにらにしろ、勇者と聖女が住む国の一人勝ちだ。


「神殿だ」

「そりゃそうだろう。勇者と聖女は神殿の管轄だ。こんな話、神殿が許可しなきゃ出ないだろ」


 ルハは首を横に振った。


「ここの王は功名心が強いんだ。こんなこと書いて自分の名に傷付けるはずがない。神殿に命じられて配ったんだろう」


 リューから聞いた司祭の言葉でルハは確信した。ルハは自分の名に傷が付くことを嫌がる王がなんでこの一文を載せたのか不思議だった。こんな文入れたら、他国から吊し上げられ不名誉な二つ名を付けられる。神殿の指示だったら話は別だ。責任は神殿に、法王に丸投げ出来る。そして、神殿のせいと言いながら勇者を手に入れることが出来る。


「それよりも、(それ)、どう思う?」


 真剣なルハの言葉に子豚亭の親父は首を傾げた。魔王は必ず打ち倒せると民に思い込ませるための本じゃないか、と。


「なあ、どの本もなんで勇者には婚約者や恋人、冒頭に思い合ってる相手がいるんだ? 聖女とくっつかせるんだったら最初から要らないだろ。恋愛小説みたいに恋敵として登場もさせてねぇのに」


 子豚亭の親父は持っていた本の最初のページを開く。違う本を取って最初のページを。また違う本の最初のページを開く。憲兵は何種類もの『勇者と聖女』の本を子豚亭に置いていった。その全ての本の冒頭で勇者には大切な者がいることになっている。


「ほんとだ、聖女との純愛と思っていたのに…」

「ああ。必ず最初に相手がいて、討伐の旅で聖女と恋仲になり討伐後結ばれる。全部そうなっている」


「けど、魔王討伐で惹かれ合うっていうのも分かる気がするけどな」

「二人だけの旅ならな。死と隣り合わせの旅、そういう関係になる者もいる。だが、全員じゃない」


 ルハは深く息を吐いた。考えれば考えるほどえげつない。それが神殿の思惑ならば。


「あ、剣士と賢者もいるか。二人きりじゃないな」

「それに勇者たちを守るため、騎士と冒険者たちも旅に同行する。今回は王女が聖女だ、侍女もいるかもな。魔王と直接対決までは大人数だ。それでも最後は四人、二人きりじゃない」


「それに…、もし恋仲になったとしても帰ってきて大切な者の姿を見たら、歴代の勇者が全員が全員、聖女を選ぶわけないだろ」

「まあな、駐屯地で兵が現地の女と一時の恋に嵌まるのと一緒かもな。けど、勇者と聖女だしな。普通と一緒にしちゃあいけないんじゃあ?」


 遠征で遠くの町に駐屯することになった既婚の兵が現地で恋人を作ることはよくある。独身だと騙し好い仲になるが、ほとんどの者が任期満了で恋人を置き去りにして帰っていく。本当の家族が待っているから。


「勇者と聖女が結ばれるのが当たり前だったら、こんな本、配る必要ないだろ。配らなきゃいけないということは、歴代の()()()()()()()()()()()()()()


「ちょっと待て! 神殿がウソを配っているというのか?」


「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()。そして()()()()()()()()()()()()。みんなにそう思い込ませるために」

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神殿ェ…… あと国王ェ…… この時点で両者ともに頭弱すぎなのが伺えますね…… 欲で視野が狭まっているともいえる。
[一言] ルハさん 昔はどっかの国の王子様説
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