第28話 ~眼前で義妹が、巨躯の戦士に向かって飛び出していく~
「――ノイシュッ、奔れええぇぇエッ」
絶叫に近いウォレンの声が耳朶を打ち、とっさにノイシュは顔を向けた。
視界がとらえたのは、こちらへと迫る巨大な雷撃だった。
直後に轟音が遅れて激しく耳朶を打ち、恐怖で胸の鼓動を強く脈打つ。
ノイシュは無意識に奥歯を強く噛んだ。
間違いなく敵術士隊による大規模攻撃だろう。
だが、避けようにも今の体勢では上手く動くこともできない――
「はやく退けけえェェぇッッ――ッ」
刹那の後、巨躯の身体が眼前へと躍り出る。
すぐさまウォレンは大盾をうち立てると一気に押し寄せる敵攻撃と対峙した。
しかし、術連携により生み出されたであろう雷撃は、余りにも巨大だった。
いかにウォレンが大柄であったとしても、とても全てを受け止められない。
間違いなく雷撃が周りにいる仲間全員を呑み込んでしまう――
――くっ、ここまでか……ッ
ノイシュは強く奥歯を噛んだ。
神よ、願わくばこの腕の中の少女だけでも、お助けを――
次の瞬間、ノイシュは自分の腕が押し開かれるのを感じた。
眼前で義妹が、巨躯の戦士に向かって飛び出していく。
ノイシュは大きく両眼を開いた――
――エルンッ、いけないっ、君まで……ッ
「ダメェぇえぇ――ッ」
銀髪の少女が叫んだ直後、ウォレンの身体から巨大な光の半円が湧き上がり、瞬く間に広がっていく――
――あれは……っ
直後、ウォレンが放った光の壁と敵術士隊による電撃波が激突した。
激しい閃光が周囲に拡散し、ノイシュはたまらずに双眸を閉じてうつむいた。
純白が粘りつく様に網膜に張りつき、なかなか消失しない――
――エルンッ、ウォレン……ッ
ようやくノイシュは残像が薄い青色へと変じていくのを知覚し、そっと眼を開けた。
エルンとウォレンは……ッ――
「いっ、一体これは……っ」
無意識にノイシュは声を上げていた。
自分を含めウォレンや義妹、そして近くにいる仲間達をも光壁が包み込んでいる――
「これは、術防壁……っ」
息を呑みながら発するノヴァの声に、ノイシュは眼を細めた。
視線の先では息を荒げる隊内随一の勇士と、その背中に顔を埋めるおさげ髪の少女がいた――
――……きっと、エルンがウォレンの術耐性を具現化し、拡散させて……っ――
不意に自分達を包む光の壁が溶ける様に掻き消えていく。
ノイシュは強く拳を握った。
そう、まだ戦いは終わっていない――
「全員、突撃を続けるぞッ」
まるで自分の心を読んだかの様なマクミル隊長の声が耳朶を打ち、ノイシュは一人うなずいた。
義妹の命を危険に晒す戦いなど、すぐに片付けなければ――
「――ウォレン、エルンを頼むっ」
素早くそう告げると、ノイシュは他の仲間達と同様に再び疾走を始めた。
陣の術士本隊に遭遇したということは、かなり敵陣深くまで斬り込んでいるはずだ――
「赤獅子の軍旗まであと少しだっ、一気に突っ切るぞ」
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手




