第27話 ~奴等に構うなっ、跳ぶぞっ~
「前方奥、新たな敵部隊を発見……っ」
今度は修道士の少女からの声だった。
ノイシュは彼女が告げるままに顔を向けると、そこには一体となって巨大な煌きを放つ大集団が居並んでいた。
あれは敵術士隊の本隊かっ……――
「奴等に構うなっ、跳ぶぞっ」
不意に前方の隊長が声を上げた。
直後には両脚を屈折させ、瞬く間に跳躍していく彼の姿を視認する。
その身体が一気に上空へと飛び上がり、そのまま百人を越える術士隊の頭上を跳び越えていった――
――すっ、すごい……っ
ノイシュが眼を見開いた直後、他の仲間達もまた次々と地を蹴っていくのをとらえる。
その光景に息を呑みながら、自らもすぐさま併走する少女へと視線を向ける――
「――行くよっ、エルンッ」
そう告げると彼女の返事も待たずにその腕を掴み、両脚を踏ん張った。
溜めた脚力とともに上半身をつかい、勢いをつけながら伸び上がる――
「うわぁあぁァ――ッ」
叫びながら空へと踏み切った途端、ノイシュは今までに経験した事のない浮遊感に襲われた。
身体が吊り上げられるかの様な感覚とともに足許と地面との間に空気が挟まれていく。
地面を這う敵術士達は誰もが驚愕の表情を浮かべていた――
「ノイシュ様……っ」
不意に少女の声が聞こえて強く抱き締められる。
反射的に顔を向けると、小刻みに震えながら目を閉じる義妹の姿があった。
――エルン……ッ
ノイシュが彼女の肩を抱き返した直後、突如として浮遊する感覚を喪失する。
瞬く間に身体が下降していくのが分かり、とっさに見据えるとそこには地表だけが姿を見せていた――
――振り切った、敵術士隊を……っ
ノイシュは強く双眸を閉じて膝を曲げ、下半身に思い切り力を込めた。
刹那の後、踵骨を中心に強い衝撃がはしる。
無意識にノイシュは前方へと跳び、義妹を強く抱きしめながらも身体を転捻させることで落下の負荷を削ぎ落とした――
「――ノイシュッ、奔れええぇぇエッ」
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手