第22話 ~真紅の戦士服、翠色の瞳と長い髪……間違いなく義妹だった~
――まさか……ッ
ノイシュは砂埃にまみれた袖で目許を拭った。真紅の戦士服、翠色の瞳と長い髪……間違いなく義妹だった――
不意に突き上げられる衝撃を受け、視界が旋回していく。ようやく反転したまま止まったところで、自分が蹴られた事にノイシュは気づいた――
「ちょうど良い、この男じゃ物足りなかったんだ」
逆さに映るサガムが目尻を吊り上げていく。その視線の先は義妹へと向けられていた――
「俺は肢体が爆ぜていく女を眺めるのも大好きでね」
そう告げて詠唱を始める敵戦士を視認し、ノイシュはかぶりを振った。
「しっ、衝撃剣っ、逃げてミネア……ッ」
そう声を荒げるものの義妹は反応せず、やがて静かに唇だけで詠唱を紡いでいくのが見えた――
不意にサガムの身体から光芒が湧き上がり、彼が巨剣を大きく横に引き絞っていく。
「どう身体が裂けていくのか、見せてくれよ…っ」
その直後、義妹の身体からも青い燐光が発せられた。顔を強張らせたミネアが右腕を相手戦士へと向けた瞬間、彼女がその身に宿した青い光の帯が放たれていく――
――霊力吸収術……ッ
痛覚で震える腕を庇いながらもノイシュは身体を捻り、視界の向きを正した。その間にも彼女が発現させた術は容赦なくサガムへと肉薄していき、その刀身に直撃するや一気に巨剣から輝きが消滅していく――
「なっ、何だと……っ」
サガムの顔から驚愕が浮かび、次いで強く眉頭を寄せるのをノイシュは視認した。
「小娘めっ、その臓物まで斬り刻んでやるッ」
そう告げてサガムが地を蹴り上げるや、彼の振り上げた巨剣が瞬く間に義妹へと接近していく。奥歯を強く噛みながらノイシュは義妹を見据えた――
――ダメだっ、剣技なら奴の方が達者だ……っ
不意に義妹が強く眼をつむり、再び術を唱えていくのにノイシュは気づいた。旋律は単調だが、何度耳にしても嫌な気分が湧き上がるその術句は――
刹那の後、ミネアの身体から今度は赤黒い光芒が発せられた。瞬く間にそれは蛇の様にうねり、義妹の周囲で渦を巻いていく。義妹の顔や身体には幾何学的な黒い模様が刻まれていった。
――そっ、その術はッ……
眼前で静かに義妹が瞳を開いていった。を唇強く引き結び、身体は小さく震えていて――
「ガァッアッェ」
突如としてサガムが眼を剥き、舌を大きく突き出しながら動きを止めた。その身体を暗紅に染まった光芒が覆い尽くしていく――
「邪魔だ、どけっ」
聞き覚えのある声の方へと、ノイシュは顔を向けた――
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、魂を自在に操る等の支援術の使い手
サガム……レポグント王国軍の術戦士。衝撃剣や増強術の使い手