第19話 ~ここで僕は、死ぬかもしれないな……~
ノイシュは手にした大剣を支えに何とか立ち上がった。|
視界には斃れた戦士達が敵味方の別なく広がっている。
腕や脚がどこかに吹き飛んでしまっている者、破れた腹部から臓物を出したまま転がっている遺体、真っ黒に焼け焦げてしまい、その顔も判別できなくなっている炭塊――
地獄を再現させたその光景に、ノイシュは思わず瞼を下げた。
一体、僕はこの中のうち何人と戦い、その命を摘み取ったのだろう――
ノイシュはかぶりを振って心想の淵から無理矢理に抜け出した。
周囲からは依然として剣戟と悲鳴が容赦なく響き渡っている。
――まだ戦いは終わっていないんだ……ビューレ達を戦場から逃がすためにも、少しでも長くここを防守しなきゃ……ッ――
ノイシュは何とか荒い呼吸を落ち着かせようと無理に大きく吸い込む。
が、途端に胸がそれを受け付けずに激しく咳き込んだ。
相次ぐ敵軍の波状攻撃を受ける中で腕や大腿に刀傷を刻まれ、それらが容赦なく痛覚を訴えてくる。
全身に重苦しい疲労感が憑りつき、もはや刀身を振り上げる事さえ覚束ない。
そもそも大剣など自分には扱いこなせる代物ではないのだ。
衝撃剣の威力を最大限に引き出すため、無理して振り回しているに過ぎない――
不意にレポグント軍側から角笛の大音量が響き渡った。
ノイシュはそれが次なる波状攻撃の合図であることに気が付き、素早く遠方を見据えると敵戦士達が渡河して来るのが視認できた。
ノイシュは慌てて後方を見渡すが、もはやこちらの手勢で戦える者など指折り数える程しか確認できない――
ノイシュは奥歯を噛み、絶望に萎えそうな思いを打ち消すべく腹に力を込めた。
どうにか呼吸を整えると大剣を捨て、腰に吊した鞘から片手剣を抜く。
大剣に比べると余りに心許ない武具だが、今はこれに頼るしかない。|
霊力を発現できるのも体力からみて、あと一回が限界だろう――
――ここで僕は、死ぬかもしれないな……
思わずノイシュは眼を伏せた。
しかし、それも仕方ないと思う。
こうして後詰めに自分は身を投じたのだ。
何より敵戦士からすれば自分は戦友を殺した仇だった。
聖都の民を略奪から守るためとはいえ、何人もの敵戦士を斬り捨ててしまった。
死んだ彼らにも家族、大切な仲間、そして愛する人がいただろうに……――
ノイシュは静かに眼を細め、すぐそこまで近接してくるレポグント兵の隊列を静かに見据えた。
――……でも、だからこそ僕は、命を懸けて最後まで戦わなくちゃいけないんだ。自分にとって大切な人の為に、最期まで……っ
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手